イー・アクセス版「Nexus 5」の狙い/LG「isai」の開発経緯/シャープスマホの強み石野純也のMobile Eye(10月28日〜11月8日)(2/3 ページ)

» 2013年11月09日 01時50分 公開
[石野純也,ITmedia]

「isai」の共同企画で互いの強みを生かすKDDIとLG

photo KDDIとLGエレクトロニクスが共同開発した「isai」

 キャリアのKDDIとグローバルメーカーのLGエレクトロニクスが、日本市場に向けて共同で開発した端末――それが、11月に発売を予定している「isai」だ。isaiはグローバルモデルにはない防水といった特徴を持ち、ホームスクリーンも独自のものを採用。サイドにメタルフレームを使ったデザインも、共同開発の成果だ。

 11月5日に韓国で行われたプレス向けイベントでは、両社の関係者がこの端末の狙いを語った。日本で商品企画を担当するキム・ヒチョル(金希哲)氏によると、「昨年投入した『Optimus G』が予想以上に内部や市場からの反応がよかった。これを受けて、共同企画のお話をKDDIからいただいた」という。LG製の端末は、レスポンスのよさや、日本市場で求められる機能への対応が早く、ユーザーからの評判は決して悪くなかった。一方で、「商品を作る実力や技術は認められたが、日本のお客様に伝える力がまだ十分でなかった」とMC日本マーケティング担当 常務のベ・ヒョンキ氏は話す。使えば満足するが、そこに至らないというジレンマがあったというわけだ。

photophoto 商品企画を担当した、LGのキム・ヒチョル氏(写真=左)。ベ・ヒョンキ氏は、共同開発の狙いを語った(写真=右)

 共同企画の狙いは、「KDDIの販売力とLGの商品力が上手く合えば、非常にいい結果を残せる」(ベ氏)ところにある。これはKDDIの思惑とも合致する。グローバルモデルのスマートフォンが普及し、複数のキャリアに同じ端末が並ぶことは当たり前になった。冬商戦ではiPhoneが3社横並びになり、「Xperia Z1」や「GALAXY Note 3」といった端末もドコモとKDDIの2社から発売されている。isaiの特徴であるホームスクリーンを担当した商品統括本部 山口昌志氏も「他キャリアでも同じ端末が面で並ぶ中、何かしらKDDIの特徴を出し、差別化されたモデルを出していきたいという想いもあって、一緒に端末を開発した」と語る。「そう考えたとき、ベストなケースは、メーカーと一緒になってオリジナリティをどう出すのかというアプローチ」(同)だった。

 isaiは、一部機能を「LG G2」などから受け継いでいるが、デザインはゼロから起こしたものだ。デザインのモチーフは「水」。コップに注がれた水が表面張力で描く曲線を表現したボディや、端末のカラーバリエーション、UIにこうしたコンセプトが貫かれている。KDDI端末のデザインを監修するKom&Co.Designの小牟田啓博氏は「普遍的なものであり、必要不可欠なもののモチーフとして、水にフォーカスした」と、その理由を説明する。「マーケティング上、ブルーの実績が堅調に伸びている」というトレンドカラーも、水をモチーフにする後押しになった。

 端末のデザインにあたって日本を訪れ、ユーザーの趣向をリサーチしたというMCデザイン研究所PRMデザインチーム 主席研究員 パク・ホンギュ(朴洪圭)氏は「日本のユーザーは個性を大事する。人と同じものと少し違うものを求めるが、あまり異質なものに対しては取っつきにくいと感じる。ある意味相反するニーズがある」と語る。

photophoto 「isai」のデザインコンセプトを説明するパク・ホンギュ氏(写真=左)。KDDIで端末デザインを手がけてきた小牟田氏もプロジェクトの中心人物の1人だ(写真=右)
photophoto 水のモチーフを生かし、端末にタッチすると波紋が広がるエフェクトも取り入れた

 この相反するニーズを満たすため、デザインコンセプトの水とは真逆のメタルフレームを採用。この部分に金属素材を用いるのは「LGの中では初の試みだった」(パク氏)という。こうした挑戦ができたのは、「グローバルモデルとオリジナル企画では、まず物量が違う」(同)ためだ。朴氏が「新しいことは、イコールでリスクにもなる。グローバルの物量が必要なモデルでは、なかなか踏み切れない。逆にこういう地域特化のモデルは、LGとして果敢にチャレンジできる」と語るように、ロットが少ない分、挑戦できる要素が多かったという。

photophoto 端末の側面には、LG製の端末では珍しいメタルが使われている。背面のフォトライトと赤外線ポートを一体化させるなど、細部の処理にもこだわった

 KDDI側が戸惑ったのは、防水仕様に対する意識の違いだった。小牟田氏は「難しかったのはやはり防水」と述べ、次のように説明する。

 「防水をやることの必然性を理解してもらうのに、時間を費やした。(LGのようなグローバルメーカーは)防水を入れることの外観的なダメージに、まず目が行く。そして、防水は商品力があるのかという話になってしまう。それが美しいことは分かるが、防水がないことで売れるメーカーは正直日本では非常に少ない」

 スマートフォンの顔であるホームスクリーンは、新たに「isaiスクリーン」を両社共同で開発した。キム・ヒチョル氏によると、「これもLGの中では大きな決断だった。ホームスクリーンを1つの事業者向けにカスタマイズするのは、初めての試み」という。コンセプトは「モバイルザッピングUI」だとMC研究所 D3室 第4チーム 主任のキム・ナムギ(金楠起)氏は話す。「左右にフリックで、4つのユーザーエクスペリエンスをザッピングすることを表現した」というホームスクリーンには、それぞれSNS、動画、ニュース、トレンドが並び、各情報は縦にスクロールできる。ここに、「auスマートパス」や各種ネットサービスの情報を流していくというのが、isaiスクリーンの考え方になる。

photophoto 「isaiスクリーン」というUIは、LGのキム・ナムギ(金楠起)氏と、KDDIの山口氏が担当した
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photophoto 1つの画面を丸ごと使い、SNS、動画、ニュース、トレンドの情報が流れるUIを採用した。もちろん、不要なものは入れ替えることができ、一般的なAndroid端末のようにアプリのアイコンを張り付けることも可能だ

 KDDIのオリジナルUIといえば、INFOBARシリーズに搭載された縦スクロールの「iida UI」が記憶に新しいが、isaiスクリーンはあくまでAndroidの基本的な作法にのっとっている。これについて問われたキム・ナムギ氏は「バランスが重要」としながら、「すべてを変えてしまうのはユーザーの使用パターンを変えてしまうことにもなる。そのバランスを取ることが悩みだったが、LGのホーム画面のいいところはそのまま残し、あとの部分で大きな変更をできるか、KDDIと話し合いながら決まったのが4つのカテゴリー(SNS、動画、ニュース、トレンド)」と語る。山口氏も「通常のAndroidの使用性はどこまで残した方がいいのかという議論はあった。その上で、isaiは幅広いお客様に使っていただきたいため、通常のAndroidの使い方はキープした上で、使い勝手をどう良くしていくかの議論になった」と口をそろえる。

 このように、isaiはLGの持つ技術を生かしながら、デザインやUIにはKDDIのノウハウが注ぎ込まれている端末だ。キャリアとメーカーの共同企画の成功事例になるのか、今後の展開に注目しておきたい。

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