中国4G市場加入数1億件で世界市場のパワーバランスが変わる山根康宏の中国携帯最新事情(2/2 ページ)

» 2015年04月02日 10時38分 公開
[山根康宏ITmedia]
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FDD-LTE開始で反撃を狙う2社

 2014年1月末に7億7187万件だった中国移動の総加入数は、2015年2月末には8億1078万件と約1年間で約4000万件を増やしている。これは、毎月300万件以上の新規加入数を集めている計算だ。4G加入数が順調に伸びる中国移動は、携帯電話総加入数も着々と伸ばしている。

 一方、中国電信、中国聯通の2社の加入増数は中国移動に遠く及ばない。中国聯通の2014年1月末総加入数は2億8411万件、そして、2015年2月末は2億9636万件と、約1年で1225万件の増加にとどまっている。これは中国移動の3分の1にも満たない。中国電信の状況はさらに厳しい。2014年1月末総加入数は1億8478万件、2015年2月末は1億8757万件と279万件の純減となっている。同社の年間を通しての純減は携帯電話サービスを開始して以来、初めてのことだ。

 好調ともいえる中国の4G市場も、実は中国移動が圧倒的に強く、中国聯通、中国電信は逆に不調をきたしている状況だ。関係者は、中国電信の純減のほぼすべてが中国移動の4Gへ流れたと考えている。

中国聯通と中国電信の総加入数推移。聯通は微増、電信は純減(写真=左)。中国聯通と中国電信の3G+4G加入者数推移。どちらも微増で4Gの割合は低い(写真=右)

 中国聯通と中国電信は、4G単独の加入者数を公開していない。中国聯通は「モバイルブロードバンド加入者数」として3Gと4Gを合算し、中国電信は3Gの中に4Gを合算して発表している。両社ともに4G加入数が増えていないことを隠す苦肉の策なのだろう。両社の3Gと4Gの加入数は2015年2月末時点でそれぞれ1億5055万件、1億2255万件だが、4Gはその1割にも満たないという。

 ただ、この2社の業績が不調なのには理由がある。両社は3G方式にW-CDMA、CDMA2000という国際方式を採用していることもあって、4GはFDD-LTE方式で全国展開を考えている。FDD-LTE/W-CDMA、FDD-LTE/CDMA2000なら端末の種類も多く、メーカーに要請しなくても安価な端末を調達できるからだ。また、ネットワークの構築もすでに海外で商用化されているだけにスムーズにできる。

 しかし、中国政府はTD-LTEの普及を広げるために、3つの事業者にはまずTD-LTEの免許しか与えなかった。2014年6月に中国聯通と中国電信にFDD-LTEのトライアルサービスの開始を認可したものの、このときも中国政府はTD-LTEとFDD-LTEのハイブリッドネットワークの構築を求めており、FDD-LTEだけのサービスは認めていない。これは、3G時代にTD-SCDMAの展開に失敗した反省を生かしている。3G時代はTD-SCDMAの商用技術化が完成する前にW-CDMA、CDMA2000の2方式を導入した結果、TD-SCDMA方式が一気に劣勢になってしまった。

 中国聯通と中国電信は、2014年春からTD-LTE/FDD-LTEのデュアルモード対応端末を発売するものの、製品数が多くない上に低価格機が少なく、また、カバレッジも中国移動よりも狭く、多くのユーザーが購入するには至らなかった。こうして振り返ると、2014年はTD-LTE/FDD-LTEのハイブリッドネットワークの構築と運用テストの年と位置付け、4Gサービスの本格展開はほとんど考えていなかったように思える。

 2015年2月27日に中国工信部は中国聯通と中国電信に待望のFDD-LTEの免許を交付した。これで両社の4Gサービスも中国全土で展開が始まる予定だ。両社ともTD-LTE/FDD-LTEの2方式で全国展開を図るが、FDD-LTEのみ対応する端末の調達も進めていくだろう。すでに世界中で販売しているFDD-LTE対応のスマートフォンが中国聯通、中国電信でも利用可能になる。これまでTD-LTE対応品を中国向けに販売していたメーカーも、今後はFDD-LTEのみ対応する製品の投入が可能になる。

 ただ、すでに5M13B、5M11Bなど5つの通信方式が利用できる低価格モデルも現在は多数販売している。1000元前後の低価格なTD-LTE/FDD-LTE両対応のスマートフォンも中国国内メーカーを中心に多数の製品が登場するだろう。

 また、CDMA2000の3G方式に対応する中国電信は、「4G全網通」という名称でTD-LTE、FDD-LTE、CDMA2000といった3つの高速ネットワーク対応製品を増やす予定だ。すでに中国内外の複数メーカーが全網通スマートフォンを提供しており、4G加入数増へ本格的なプロモーションを始めている。その、中国電信は2015年中の4G加入数1億人を目標としている。

中国聯通は「双4G」を掲げて、TDとFDDのデュアルLTEをアピールする(写真=左)。中国電信はCDMA2000も利用できる「全網通」製品を増やす予定だ(写真=右)

 中国聯通と中国電信では、総加入数の半数近くが依然として3Gだ。そのため、2015年には3G利用者の4G移行を早急に促し、2Gユーザーも4Gに移行できるように低価格モデルのラインアップを増やしていくだろう。4Gのカバレッジは中国移動よりも弱いものの、基地局用鉄塔の設営と管理を行う「国家鉄塔公司」が3社の共同出資で2014年に設立している。これにより中国聯通と中国電信の4Gカバレッジも2015年には急速に広がり中国移動レベルまで追いつく可能性もある。

 一方、中国移動が2015年にVoLTEを正式に開始する予定だ。2015年下半期にはRCS(リッチコミュニケーションスイート)の提供も始めるという。高音質な音声通話に加えてビデオ通話や写真、スタンプの送受信など、OTTに対抗できるサービスの開始で、2Gや3Gから4Gへの移行を大きく促すものになると関係者は期待している。また、2バンド、3バンドに対応したキャリアアグリゲーションによる200MBps、600Mbpsといった高速通信も展開予定だ。

 中国移動が技術的にリードしつつ、国際規格を取り入れた中国聯通と中国電信がその後を本気で追いかける2015年は、中国の4G市場がこれまで以上に盛り上がる1年となりそうだ。

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