家族への訴求を強化するIIJ――ドコモ+au回線の「マルチキャリア」も視野にMVNOに聞く(2/2 ページ)

» 2015年06月10日 18時46分 公開
[田中聡ITmedia]
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“接続料の誤算”は深刻な問題ではない?

―― 通話定額は相互接続でないと難しいのでしょうか?

佐々木氏 通話定額そのものは可能なんですけど、お客さんの通話がどれぐらいの範囲に入るのかを正確に予測ができないと、厳しいでしょう。多くの方は通話定額ほどの料金(MNOの場合は2700円)は使わないと思いますが、例えば業務用トランシーバーの代わりに……というように、音声チャネルが開きっぱなしの使い方をされると、定額の料金分で回るか回らないかの二択になります(≒回らなくなる恐れが高い)。

 日本の携帯電話の契約者は4割ぐらいがドコモなので、その中の料金はどこにもキャッシュアウトしません。6000万人が使って2700円を超えないという計算は成り立つと思いますが、MVNOの場合はビジネス上のリスクがきわめて高いのかなと。2時間以上通話をした方の回線を切る、といったことは僕らはできないので。「20%引き」ならリスクはないので、問題なくサービスを提供できます。

―― 2014年度は想定よりも接続料が下がらず、ネットワーク原価が12.6億円上がってしまいました。ここのインパクトはやはり大きかったのでしょうか。

佐々木氏 もともとドコモさんが大きく下げられたのは去年(2014年3月)ですけど、14年の下げ幅が56%と非常に大きかったので(2015年も大きな下げ幅を見込んでいた)。(年度の事業計画を立てる際に、翌年3月に発表される接続料を織り込むことは)絶対当たらないバクチです。そこが外れたという以上でも以下でもないので、深刻な問題ではないととらえています。上場企業なので、会社としての数値が変わるときは、証券取引上のルールに従って、開示させていただきました。

 お客様のご契約が減っているとか、僕らがコントロールできるコストがどんどん増えていっているということではなく、僕らがコントロールできない数値が確定したら「予想と違っていました」ということ。逆のケースなら、利益が増えるでしょうし、たまたま今回は減ったということです。

KDDIのネットワークを利用した個人向けサービスは?

―― 法人向けにauのMVNOサービス(タイプK)も開始しましたが、個人向けのサービスにも期待が集まります。可能性はありますか。

佐々木氏 可能性は大いにあると思っています。やっと法人のサービスをローンチしたところですが、(個人向けについては)これから内部で作っていくような形になるので、提供はまだまだ先になるでしょう。「やれるから出す」というのではなく、出すからには、「利用者の方にどんなバリューがあるか」という建て付けで出したい。

 健診業務や在庫管理業務、物流のトラッキン業務など、モバイルネットワークを活用される法人の方にとって、1キャリアで通信障害が起こると、サービスが全断されてしまうという問題があります。その中で2キャリアのネットワークを使えれば、例えば地震でドコモさんのデータセンターがつぶれても、もう一方のネットワークが使えれば、非常に価値の高いサービスとして受け入れられると思います。

 ただ、コンシューマーの方にとっては、ドコモとKDDIのネットワークを使ったときに、明確に「いいよね」という差があるわけではないですし、1人の方が2つ(ドコモとau)の端末を使っているという人はあまりいらっしゃらない。

 KDDIさんのネットワークが使うためにはすごい設備投資が発生する一方で、多くの方々が、KDDIのネットワークを使ったサービスでも900円くらいが適用されると思っているます。その投資に見合った価格が、KDDIさんのお支払いの条件の中で実現できるか……という非常に複雑な問題があり、それを解決して、初めてサービス化できると思います。「マルチキャリアだとこういうメリットがあるんですよ」ということを、僕らがきちんと打ち出していかないといけないと思っています。

 今後、MVNOを選択する1つの理由が「マルチキャリア」になれば、独自性を出せます。魅力的な料金プランをどのように打ち出していけるかは、これから腰を据えて検討していきたいです。

―― タイプKでは、ドコモとauのデータ量をシェアできるのが面白いですね。

佐々木氏 そうですね。最終的には1つのSIMでどの端末でも、どのネットワークでもというのがベストなんですけど。これは相当ハードルが高いので、段階的に展開していきたいです。

MVNOのプレゼンスが上がれば“iOS 8問題”も解決される?

―― auのネットワークを使うMVNOサービスは、iOS 8以降の端末で使えないという問題が立ちはだかります。

佐々木氏 そうですね。これは最終的には僕らのプレゼンス(存在感)の問題だと思っています。AppleやSamsungなど、世界的なメーカーから見ると、まだ日本のMVNOはちっぽけな存在だから、なかなか振り向いてもらえないのかもしれない。でも、XperiaですらSIMフリーモデルを展開するところまで来ているので、遅かれ早かれ時間が解決していくのでは。僕らがしかるべきプレゼンスを持てば、利用者の方が不利益を被ることは自然となくなっていくのではと思います。

―― でも、なかなか変わらないですよね。

佐々木氏 ドコモのiPadが出たときに、iPadのテザリングが急にふさがれたことがありましたけど、これに関しては、iOS 8で解消されました。そういう意味では、簡単な問題はAppleさんに解決してもらえるのではないかと思っています。ケイ・オプティコムさんが(mineoで)直面している問題は、僕らが直面した(テザリングの)問題よりも技術的にははるかに複雑だと思います。そもそもLTEしかデータのチャネルを持っていなくて、3Gは音声のチャネルしか持っていない端末は、世界的に見てもかなりまれだろうと。そういうところで、技術的な難易度が高いんだろうという気はします。

―― 最近は端末をセットで販売するMVNOも増えていますが、IIJさんはいかがでしょう。

佐々木氏 僕らもずっとSIMだけをやるわけではありませんが、理想は、完全に水平分業された世界です。ただ、そこに至るまでの道で、何がベストかは、いろいろ変わりうる。僕らにとって、端末メーカーと組むことで、お客様に高いバリューを提案できるのなら、ぜひ取り組んでいきたい。端末がなければ売れないということは全くなくて、切り離しても十分ビジネスとしては成り立つんじゃないかなと。

 例えば(IIJがBIC SIMを展開している)ビックカメラさんは、SIMフリーのスマートフォンでも高い販売力を発揮されています。僕らがあえてセットにして展開しなくても、パートナーさんが得意とするところで一緒に利用者に提案ができるのなら、それで十分なのかなと。いろいろな選択肢が考えられるとは思っています。

取材を終えて:いい意味でMNOに近づいているIIJ

 「携帯電話を家族で使ってもらうための施策」は、もともと大手キャリア(MNO)が打ち出しているものだが、IIJがそこに踏み込んできたことで、「本気でMNOに対抗していくんだ」という意気込みを感じられた。データ量の増量や通話料割引の施策を行ったことで、「家族間のデータシェア容量が少ない」「通話料金が高い」という弱点が大きく解消された。IIJがいい意味でMNOに近づいている――というのが率直な感想だ。

 記事中でも確認した、auのネットワークを活用した個人向けサービスが実現すれば、MNOでは不可能な、MVNOならではの「マルチキャリア」という価値をユーザーに与えられる。IIJの次の一手に期待したい。

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