最後に、SIMロックフリースマートフォンとVoLTEの関係を紹介しましょう。
先ほど、VoLTEでは「ims」というAPNを指定してトンネルを設定すると書きましたが、スマートフォンにただ「ims」のAPNを設定しただけではVoLTEは利用できません。携帯電話網内の特別扱いに対応できるような仕組みがスマートフォン側にも必要です。この仕組みを備えたスマートフォンは、「VoLTE対応スマートフォン」として販売されています。
最近はSIMロックフリーとしてMVNOや家電量販店で販売されているスマートフォンでもVoLTE対応が進んでいます。これらのスマートフォンであれば、もちろんMVNOでもVoLTEが利用できます。
ただし注意をしておきたいのは、スマートフォンによって「ドコモ回線のVoLTEに対応しているもの」「au回線のVoLTEに対応しているもの」に分かれていることです。ドコモ回線のVoLTEのみに対応しているスマートフォンにau回線のVoLTE対応SIMを取り付けても通話はできません。
例えば、富士通の「arrows M03」は、ドコモ回線のVoLTEとau回線のVoLTEの両方に対応していますが、シャープの「SH-M03」はドコモ回線のVoLTEのみ対応しています。一方、ASUSの「ZenFone 3 Laser(ZC551KL)」はau回線のVoLTEに対応しているものの、ドコモ回線のVoLTEには対応していません。ZenFone 3 Laserをドコモ回線で利用すると音声通話はCSFBして3G(回線交換)で行われます。
これは、それぞれのスマートフォンがドコモ回線のVoLTE・au回線のVoLTEと接続試験を実施しているかどうかに依存しています。
携帯電話の通信規格には国際的な標準が定められていますが、実際には標準規格の範囲内でも差異が発生します。このため、ドコモやKDDIなどのキャリアは、自社の携帯電話網と支障なく通信が行えるかどうかの詳細なテスト項目を定めています。これをIOT(Inter-Operability Testing: 相互接続試験)と呼びます。
VoLTEの利用についてもIOTが定められています。また、テストの内容はドコモとauで異なりますので、両方のVoLTEに対応するためにはそれぞれのテストを行う必要があるのです。
au回線のMVNOにスマートフォンを対応させるためには、CDMA2000に対応させるか、VoLTEに対応させるかのどちらかが必須になります。CDMA2000対応の部品は需要が少なく、コスト高の傾向があります。また、KDDIはLTEへの移行に力を入れており、今後CDMA2000は縮小する見込みです。そのため、CDMA2000ではなくVoLTEに対応することで、スマートフォンをau回線でも使えるようにするという判断がされているのだと考えられます。
一方、ドコモ回線では現時点でVoLTE対応は必須ではなく、広く利用されているW-CDMAの3G(回線交換)が利用できます。そのため、ドコモ回線のVoLTEへの対応は優先度が低くなっているのだろうと思われます。
堂前清隆
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) 広報部 技術広報担当課長
「IIJmioの中の人」の1人として、IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」の執筆や、イベント「IIJmio meeting」を開催しています。エンジニアとしてコンテナ型データセンターの開発やケータイサイトのシステム運用、スマホの挙動調査まで、インターネットのさまざまなことを手掛けてきました。
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