連載
» 2009年04月13日 17時00分 UPDATE

山谷剛史の「アジアン・アイティー」:中国人が「携帯電話で撮影しない」理由 (1/2)

比較的安く購入できる携帯電話。中国では「求職の必須アイテム」として活躍中だが、意外にも、カメラ機能を使う人はほとんどいない。そこには中国人の価値観が密接に影響しているという。

[山谷剛史,ITmedia]

中身よりステータスを重視する中国の価値観

kn_yamaphot_02.jpg おお、これぞ、中国人成功のシンボル「デジイチで撮影する着飾った女性」だ

 中国でメジャーな観光スポットといえば、北京の「万里の長城」や「天安門広場」、上海の「東方明珠塔」や「外灘」(バンド)だ。日本人をはじめとする外国からの観光客だけでなく、中国人の観光客もこれらのスポットを大勢訪れる。そういう場所では、日本人観光客と中国人観光客が“混在”することになるが、同じ東洋人といえど両者は容易に見分けられる。それは、身に付けている服装や歩いている姿(中国人は、日本人に比べてひざが外側に向いてしまう傾向がある)で判別できるが、それ以外にも、「使っているカメラ」も異なっていたりする。日本から来た観光客は、携帯電話のカメラで撮影する割合が高いのに対して、中国人はデジタル一眼レフカメラ(中国語で「単反数碼相機」、略称「単反」)の比率が老若男女を問わずに高い。

 ちなみに、写真を撮るときに写される側はきまって“自信みなぎる堂々たる不動のポーズ”になるのが中国人観光客のお約束。こういうところでも、中国人観光客と日本人観光客の区別ができたりする。

 北京や上海は、中国で人口が集中している中原地域から近く、距離的にも費用的にも旅行に行くのは難しくない。一方で、チベット、新疆ウイグル、雲南省などの内陸奥地になると、中原地域からは遠く離れ、移動や滞在のための費用もかさむ。所得が低いとされている多くの中国人のなかでそういうところに旅行できる層はある程度限定されてしまう。そうした辺境の観光地では、中国人観光客のデジタル一眼レフ所有率がずっと高くなる。

中国人がとても大事にする“メンツ”と“記念写真”

kn_yamaphot_04.jpg 胸を張って足をそろえて満面の笑顔。これが中国の正しい被写体スタイル

 中国人としてはなかなか受け入れがたいかもしれないが、筆者のような外国人が受ける一般的な印象として、中国人はメンツをとても大事にしている。“メンツ”を“見え”と言い換えてもいいかもしれない。さらに、所得水準が低い地域でよくあるのが、デジタル一眼レフカメラのような「高いもの」を買うことが偉いという価値観だ。この連載でも紹介しているように、安いNetbookより高価なVAIOノートやThinkPadを所有することが偉いのであり、コンパクトな携帯電話よりも高機能高価格のスマートフォンを所有することが偉いのであり、そして、コンパクトデジタルカメラよりも見ばえのする大きなデジタル一眼レフカメラを所有することが偉いのだ。

 中国人で広く共有されている価値観において、偉い人は、高価なデジタルガジェットを所有していることが必須条件となる(機器を使いこなせるか否かは関係ない)。もっとも、そういう高価なデジタルガジェットを購入する費用は自分の財布ではなく、「公費や経費」からであったりする。そういう意味では、ここでいう「偉い」は、お金持ちだから偉いということではなく、文字どおり「地位が高いから偉い」ということに通じることになる。

 このように、豊かな沿岸部であろうと窮する内陸部であろうと、お偉いさんのマストアイテムとなったデジタル一眼レフカメラだが、自分のメンツのために買った(もしくは買わせた)ので、最初は“アクセサリー”気分で持て余しているものの、ちょっと使ってみると、価格と見かけに見合った面白い「玩具」であることに例外なく気がつくようだ(このあたりの“メカ”に対するおじさん世代の好奇心は日本も中国も変わらないらしい)。さらには、お偉いさんにデジタル一眼レフカメラを使わせてもらった「親しい間柄」(それが、家族親族に限らず、側近であったり、親しい女性であったりするが)の面々も同じようにデジタル一眼レフカメラに興味を持つ。彼らが口コミでその面白さを伝えていくうちに、中国全土でデジタル一眼レフカメラファンが増えていったという。

 それとは別に、中国でデジタル一眼レフカメラが好まれる理由として、中国人の物持ちのよさも影響している。物持ちがとてもよい中国人は、長く使えることも重視するわけだ。そのため「高級品を買うならば、金が払える限界まで一番いいものを買いたい」と考える傾向が強い。

 この心理は「せっかく思いきって高級なノートPCを買うつもりだから、安物のNetbookは選ばない」に通じるが、中国人にとって、カメラはPC以上に重要で生活に密着した製品として扱われている。中国の友人宅に遊びに行けば、必ずアルバムを見せられるし、団体旅行は「名所で記念写真を撮るために行く」行事と考えている中国人も少なくない。写真、いや“記念”写真は中国人の生活にとってとても大事な要素なのだ。その記念写真を撮影する道具であるカメラの位置付けがノートPCよりも高く、購入するなら所得に関係なく「デジタル一眼レフカメラに限る」と考えるのは当然だろう。

       1|2 次のページへ

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

この記事が気に入ったら
ITmedia PC USER に「いいね!」しよう