「デジタルライフスタイルの未来はiPhoneにある」――フィル・シラーアップル上級副社長に聞く(2/4 ページ)

» 2009年11月26日 17時33分 公開
[林信行,ITmedia]

日本での販売は非常に好調

―― 日本人は、よく日本の市場は特別だと考えがちですが、日本市場ならではの違いといったものを感じることはありますか?

フィル・シラー 2008年度の日本での売り上げは非常に好調でした。特に前年同期比のノートPCの売り上げの伸びがすばらしく、60%強の伸び率を記録していました。また、最新のiMacも東京などの都市部では大人気で、非常に高いマーケットシェアを獲得しています。東京の小売店の販売シェアで12%ほどを達成しています。

 私はこれは非常に納得がいく結果だと思っています。というのも、歴史的に見ても、日本のコンシューマーは優れたデザインや革新的な機能、製品の品質に対して責任を持つ企業の姿勢といったものを非常に重視する傾向があるからです。そうした日本人の傾向が、我々の新商品に対して非常に有利に働いてくれているのではないでしょうか。

―― それはいいニュースですね。ところで、このMacの好調なセールスにiPodやiPhoneは関係しているのでしょうか?

フィル・シラー ええ、まさにその通りです。これをハロー効果と呼ぶ人もいますが、我々が販売しているiPodやiPhoneの大半はWindowsユーザーが買っています。これは非常によいことです。iPodやiPhoneで良好な体験をしたユーザーは、Macを見て「今度PCをMacに切り替えたら、同じようにすばらしい体験ができるかもしれない」と思うようになるでしょう。こうしたことが、彼らの購入判断にも大きな影響を与えるのです。

アップル流の“モノ作り”を支える原理とは

―― Mac、iPod、iPhone。今やアップルはPCだけでなく、非常に幅広い製品を出していますが、これらの製品が実はすべて同じ方向を向いて進化を続けています。多くの日本企業は、毎年数えきれないほどの新商品を出しつつも、その方向性はバラバラです。アップルは、売り上げなどの規模では、すでに一部の総合家電にも並んでいるのに、どうして今でもこれほど全体の統制が取れているのでしょう?

フィル・シラー 1つ言えるのは、我々は非常に単純明快な原理原則で動いているということです。それは何か――「自ら愛せる商品を作る」という原理です。

 我々はPCであろうと、音楽プレーヤーであろうと、携帯電話であろうと、それ以外のどんなカテゴリーの商品であろうと、その中で最良の製品を目指して開発をしています。そして、そこでアップルの大きな特徴でもある、1社でハードウェアとソフトウェアの両方を作っているという事実が効いてくるのです。

 実はこうしたことは、Mac、iPod、iPhoneといった製品枠組みを超えて共通しているアップルの特徴です。それに加えて、アップルが作る製品の多くは、同じ資産の上に成り立っている部分も多くあります。例えば、アップルのすべての製品は、同じ工業デザインチームがデザインを行っているのです。また、ソフトウェアを開発しているのは、同じソフトウェア開発チームの面々で、それにより非常に効果的な製品開発体制ができあがっています。

 この体制のおかげで、我々はそれぞれの製品から学んで、そのノウハウを別の製品にも転用することができます。アップルの製品はこのようにしてほかの製品の影響を受けたり、及ぼしたりしあったりしています。そういったことが我々のビジネスをするうえでの強みにもつながっているのです。

―― 驚くべきは、御社がこうした効率化や改善を、製品開発だけでなく、製品の流通やマーケティング、さらにはパッケージ作りといった点でも行っていることです。その姿は多くの日本の製造業の会社にとって、ほとんど魔法のように見えるんじゃないでしょうか。

フィル・シラー 私が先ほどから言っている「すばらしい製品作りに対して責任を持つ」という言葉の意味は、単によいハードウェア、よいソフトウェアを作るというだけの意味ではありません。そこにはすばらしい購買体験を用意すること、つまりきちんとしたマーケティングをするということや製品サポートも含まれています。我々は顧客とのすべての接点に非常に気を配っています。

―― 私はしばしば、アップルやグーグルがどのようにしてイノベーションを起こしたのかについての講演を行ったり、本を書いたりしているのですが、その中でいつも挙げるアップルの特徴が、事業フォーカスと、顧客からのフィードバックを非常にうまく取り入れているという点です。

 例えばアップルストアのジーニアスバー1つをとっても、あれは一見、顧客の相談窓口のようでいて、その実、相談を受けることで顧客がどんな問題を抱えているのかを吸い上げる機能も果たしていると主張しているのですが、これについては同意されますか?

フィル・シラー まったくもっておっしゃる通りです。我々のアプローチは、まずレーザー光線のように的を絞って、できるだけ少ない製品で、できるだけ多くの顧客を獲得しようと発想します。そのように開発する製品を絞り込むことで、我々は社内にあるすべてのリソースを、その絞り込んだ商品ラインアップが最高のものに仕上がるよう、集中投下できるのです。これこそが、フォーカスすることの利点です。

 また、我々は顧客の声にも対しても非常に敏感で、フィードバックが得られるあらゆる場所にレーダー網を張っています。直営店のアップルストアはもちろんですが、インターネット上のブログサイト、ユーザーから送られてくる電子メールなどなど――顧客にとって本当によい商品を作るためには、顧客が何を求めているか、その声に耳を傾ける以外に方法はないからです。

顧客に替わって下す勇気の決断

―― 非常に参考になる答えをありがとうございます。ただ、今、おっしゃったように、アップルが、できるだけ少ない商品で最大限の顧客を獲得しようとするアプローチを取っている限り、どうしても「漏れ」の問題が生じます。大半の人が満足するアップルの商品ラインアップでも、ある人にとっては「高価すぎる」「スペックが物足りない」といったことがあります。大成功のiPhoneにしても、5割を超えてシェアを伸ばすことは難しいでしょう。こうした問題にアップルはどのように対処していくのでしょうか? 例えばiPhone nanoのように、徐々に製品シリーズを増やしていって「漏れ」を少なくしていくのか、あるいは製品の魅力が伝わらない人々に考えを変えるようなメッセージやソリューションを発信していくのでしょうか?

フィル・シラー どんなにすばらしい商品にもトレード・オフはあります。例えばノートPCを例に挙げてみましょう。最近のノートPCでは、パフォーマンスが求められます。CPUに加えて、大容量のメモリ、そしてHDD。しかし、その一方で、薄型軽量であることも求められています。また、長いバッテリー動作時間を求める声もあれば、手ごろな価格への要望もあります。これらすべてが相互のトレード・オフ要因となっているのです。

 これは顧客にとっても、非常にやっかいで悩ましい問題です。そんな中、私がアップルで非常に誇りに思っているのは、アップルは勇気と責任を振り絞って、顧客に代わり、この難しいトレード・オフの中での最良のバランスを見つけ、難しい決断を下し、そしてそのバランスの中での最良の製品を作るということを実践している点です。

 我々はこのプロセスをMacでも、iPodでも、iPhoneでも行っているのです。もっとも、この中でもおもしろいのがiPhoneとiPod touchです。というのも、これらの2製品にはApp Storeの豊富なアプリケーションが動作するからです。

 iPhoneとiPod touchは、合算して5000万台の規模のマーケットですが、この市場規模のおかげで、世界中から非常に多くのデベロッパーがこのApp Storeに集まっており、よいビジネスになるということで10万本を超える豊富なアプリケーションが作られています。

 そうした背景もあって、我々はこうしたがデベロッパーの作ったすべてのアプリケーションが、iPhoneとiPod touchの上できちんと動作するように責任を取っていかなければなりません。そういったことからもiPhoneにおいては、製品ラインアップをシンプルにしておき、アプリの動作の互換性も保っておくことがほかの製品以上に重要なのです。

 実際、この点は、競合製品に対しても大きな強みとなっています。例えば他社のスマートフォンでは、同じアプリが動くはずの電話でも、機種によって細かく搭載している機能にバリエーションがあったり、画面サイズまでが違っていたり、メーカーが違っているために、すべての機種ですべてのアプリが動く保証はありません。機種ごとの動作確認も面倒だし、開発する側も大変、機種選びも大変と、何もかもがゴチャゴチャと混沌としていて、わけが分からなくて……アップルが目指しているのはそういう世界ではありません。

 我々はユーザーに変わって、製品の理想的なバランスという難しい決断を下しているのです。これは大変に勇気がいる行為ですし、我々の決断に不満を感じる顧客が出てくる危険もはらんでいます。しかし、こうしたタフな決断を下すということが、長期的に見ると、ユーザーにとって非常によい体験を提供することになるのだと我々は信じています。

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