ここでリテイクかよ!? “無茶振り”が生んだ高性能コンパクトPC「LITTLEGEAR」開発秘話企画と開発のせめぎ合い(2/2 ページ)

» 2015年12月02日 16時00分 公開
[ITmedia]
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何度も作り直したプロトタイプ 「この子はバタバタでしたね……」

 続いて小林俊一氏にLITTLEGEARを開発するにあたってこだわった部分や苦労話を聞いた。杉澤氏と小林氏の関係を簡単に説明すると、LITTLEGEARの開発は、杉澤氏が「こんなの欲しいんだよねー」とざっくりしたコンセプトを考案し、それを元に小林氏がパートナー企業とともに実際の製品に落とし込んでいくという流れだ。

―― 杉澤さん本人がいる前で答えづらいかもしれませんが、企画の無茶な要求とダメ出しで開発はだいぶ苦労しましたか。

小林 そうですね……(笑)。先ほど杉澤が言ったとおり、このモデルは昨年の夏ごろ開発がスタートして、リリースまでに1年以上かかっています。本当はもっと早く出せる予定だったのですが、何度か……何度もリテイクがあり、延び延びになってしまいました。

LITTLEGEAR開発担当の小林俊一氏

―― 具体的にどの部分でやり直しがありましたか?

小林 デザインからシャーシ改良まで本当に多かったです。プロトタイプがほぼ完成して「G-Tune:Garage」新店舗オープンのイベントに水冷のFury Xを搭載したデモ機を用意したんですが、このとき初めてラジエーターが干渉して中に収まらないという問題が発覚しまして、量産直前の段階でストップがかかったときは嫌な汗をかきました。

―― あのイベントでお披露目したときに8〜9月発売予定と言ってましたが、もうそのときには「あ、これ延期になる」って薄々感じてたんですね。Fury X非対応でそのまま押し通すのは、イベントに登壇したのがAMDだったことを考えると……

杉澤 そもそも全グラフィックスカードに対応するコンセプトで開発していたので、やはり作り直すべきでしょうと。

小林 はい。リアファンを省き、元々のクーラーを変更したり、水冷ラジエータのチューブと電源ケーブルが干渉しないように、電源ケーブルを固定する部分の金型をおこして修正しています。

量産直前で電源ケーブルを固定する位置が変更された

 ほかにも、プロトタイプはH81マザーで開発していたのですが、もう1つのH110で組んだときに判明したものもあります。LITTLEGEARは実は3基2.5インチベイがあって、2基は左側面の内部にあるスイングするカバーの裏側、もう1基が右側面側の内側に用意されています。で、問題になったのはH110マザーに実装されているM.2スロットで、これはボードの裏側にあり、当初の設計だとちょうど右側面の2.5インチベイを収めるためのくぼみと干渉してしまう。

右側面の内側にも2.5インチストレージを搭載するスペースがあるが、初期設計ではそのためのくぼみがマザーボードの裏側に搭載されるM.2スロットと干渉していた。H81マザーを採用していたプロトタイプでは気づかなかったという

―― M.2を使わないという選択は……

杉澤 パフォーマンスで妥協しない、がコンセプトなので。

小林 はい。「それは許されないだろう」ということで作り直しました。これは板金自体の金型も変えてしまわないといけないので、リテイクのタイミング的にかなり厳しかったです。幸い最終的にはパートナー様も「やります」と言って頂けましたが。

―― デザイン面でのこだわりはありますか?

小林 デザインは、G-Tuneブランドの製品なので黒を基調とし、持ち運びを想定したハンドルをつけています。また、NEXTGEARのように出っ張った部分があるとその分場所をとってしまうので、スペースを取らない小型モデルという製品コンセプトが崩壊してしまわないよう、全体的にシャープなフォルムとなっています。ただ、フロントマスクや天面にわずかに曲面を取り入れることでより小さく見える工夫をしています。側面のメッシュパネルがわずかにくぼんでいるのも、よりシャープに見せるためです。

いかにも「G-Tune」という独特の雰囲気を持った外観

―― ちょっとメカメカしい感じの、男の子が喜びそうなデザインですね。良い意味で厨二的というか……NEXTGEARのデザインと同じ匂いがしますが、これは

杉澤 もちろん私の考えたデザインが素案です(笑)

小林 これも何度かやり直しがあって、ハンドルの位置は最初、本体前方の斜めに切り落とした側面パネルの延長線上になる形で配置されていましたが、片手で持ったときの重量バランスを考慮してやや後ろ側に取り付けています。

ハンドルの位置は最初、側面パネルの斜めに切られた直線の延長線上に沿う形で取り付けられていた

ハンドルの位置をやや後ろに移動。本体自体は8キロほどあるが、重量バランスがよく、女性でも片手で持ち運べる

小林 実はこのハンドル部分もかなりの試行錯誤があって、強度を確保するために中のフレームを厚くしたり、表面に滑り止めのテクスチャをつけたりしています。それで、「よし、これでOK」となってから、杉澤が実際に持ってみて「これハンドルの内側にもテクスチャつけよう」と言い始めまして。

杉澤 「いま言うのかよ」みたいな(笑)

小林 作り直しましたけどね。それよりも時間がかかったのはフロントマスクにある、赤く光る“目”の部分です。赤いイメージを持つMASTERPIECEのパワーを小さなLITTLEGEARでも実現できる、とアピールできるようなデザインにしたいと杉澤から言われまして。電源を投入したときだけ紫にしてほしいという要望を汲みつつ、ちょうどよい光り方をするように、パネル部分の透明度から、光が拡散する形状まで、さまざまなパターンを試しました。

杉澤 中にはレーザーみたいに光るのもあって「目が痛いよ」と何度もリテイク(笑)

小林 赤と青の素子が1つになっているLEDを使っているのですが、結局、LITTLEGEAR専用にLEDもレンズも作って、ようやく主張しすぎず、本体に秘められた性能をイメージさせる光り方になったとOKが出たときにはほっとしました。

LITTLEGEARのためにLEDもオリジナルで製作。クリアパネルもさまざまな素材、透過率、形状を試したという

小林 ほかには、もともとパートナーが作っているシャーシでは光学ドライブを載せられないのですが、杉澤曰く「BTOが主体のメーカーなんだから搭載できないと」ということで、デザインを崩さずに、スライド式カバーで閉じておけるスロットイン式の光学ドライブを搭載できるように改良しています。

―― ……開発が長引いた要因の1つはどう考えても杉澤さんです。本当にありがとうございました。

杉澤 いやぁ、この子はバタバタでしたね。小林は私の無茶振りによく応えてくれたと思います(笑)

オススメは、H110ベースの「i310PA1」をカスタマイズした構成

 最後にLITTLEGEARシリーズのオススメ構成を聞いたところ、H110チップセットベースでCPUはCore i5以上、グラフィックスはGeForce GTX 970以上、メモリは8Gバイト以上という回答。ちなみにこれは製品版Oculus Riftの推奨スペックでもある。

 また、H110ベースの利点はUSB 3.0を4基利用できる点で、Oculus環境であればポジショントラッキングとジャイロですでに2基を使ってしまい、(現時点では憶測でしかないが)今後USB 3.0で接続するOculusのタッチインタフェースが登場した場合、H81ではハブ経由となり遅延が問題になる可能性があるという。

 「それに、H110のM.2スロットのために直前で作り直したので、せっかくならH110をという気持ちもあります(笑)。オススメはi310PA1をカスタマイズしてメモリを16Gバイトに増量し、M.2 SSDを追加した構成ですね。これは東京ゲームショウに出展したOculusのデモ機の構成に近く、まったく遅延を発生させずに動作しているので実績のあるスペックです」(小林氏)とのことだ。


 「PCゲームの関わるところへトータルソリューションを提供していくのがG-Tune」と語る杉澤氏。

 最近ではG-Tuneのオリジナルゲーミングキーボードやゲーミングマウスもラインアップし、「パソコンに詳しくない人でもG-Tuneでそろえておけば快適にPCゲームが楽しめる環境」(同氏)を整えつつ、その一方で、e-Sportのイベントに協賛したり、OculusをはじめとするVRの未来に可能性を感じ、業界を積極的に支援するなど、単なるPCメーカーを超えた取り組みを幅広く行っている。これからも杉澤氏の“無茶振り”で魅力的な製品がG-Tuneに登場することを期待したい。

 小林さん、がんばってください……。

マウスコンピューター/G-Tune

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