名実ともに“電話”のためのOSに――Microsoftの「Windows Phone」戦略(1/2 ページ)

» 2009年03月19日 15時15分 公開
[日高彰,ITmedia]

 スペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress 2009の期間中、MicrosoftはWindows Mobileの新バージョンとなる「Windows Mobile 6.5」を発表した。このアップデートからは、同社の戦略のなかでWindows Mobileの重要性がこれまでになく高まっていることが分かる。

PDAではなくPhoneのための「Windows Mobile 6.5」

photo Microsoft CEOのスティーブ・バルマー氏

 同社CEOのスティーブ・バルマー氏は、Mobile World Congressに合わせて行った発表会で、Windows Mobileを搭載した携帯電話を今後“Windows Phone”と呼ぶ方針を明らかにし、講演の中でもWindows Phoneという言葉を何度も用いた。

 これは、Windows XP/Vistaを搭載したPCが“Windows PC”と呼ばれていることを意識したものだ。現在、世界には10億台超のPCが存在し、そのうちWindowsのシェアは約9割と言われる。一方、今や世界で1年間に10億台以上が出荷される携帯電話市場の中で、Windows Mobileのようなオープンプラットフォームが採用される割合はまだ低く、今後のシェア拡大が確実視されている。Windows Phoneという呼び方は「PCに続く一大市場として、Microsoftは携帯電話の分野をターゲットにする」という決意表明とも受け取れる。

 同社によれば、Windows Mobileを搭載したデバイスは累計でおよそ5000万台が出荷されており、このうち約2000万台は2008年中に販売されたという。PCに比べればまだまだ少ないが、同社のWindows Mobileビジネスが急拡大しているのは確かだ。

 またWindows Phoneという呼び方からは、もう1つの意味も読み取れる。かつてWindows Mobileの“Mobile”には、パームサイズPCやPocket PCなどのいわゆるPDAを含むニュアンスも込められていた。Windows Mobileの操作体系は、スタイラスペンを利用して階層型メニューを操作するもので、PDAの操作を前提としている。そのため、片手で操作する携帯電話の利用スタイルとは相いれない面もあった。

 Windows Mobile 6.5で導入された新しいホーム画面やWebブラウザ(Internet Explorer mobile)には、携帯電話らしく片手操作を意識した改善が加えられており、今後Mobileという言葉が意味するデバイスは“PDA”ではなく、ほかならぬ“Phone”であるということをアピールしているように思える。

photophotophoto Windows Mobile 6.5の操作画面
photophoto MicrosoftはMobile World Congress会場の向かいにあるホテルを借り切り、Windows Mobile 6.5の発表会などを行った

通信事業者との共存共栄を謙虚に目指す

photo マイクロソフト モバイルコミュニケーション本部 本部長の越川慎司氏

 MicrosoftのWindows Phone戦略において、OSと並ぶもう1つの軸となっているのが、同時発表された「My Phone」や「Windows Marketplace for Mobile」などのWebサービスである。クラウドを介したWindows PCとの連携をウリにすることで、Windowsブランド自体の価値を高めていこうとするものである。

 Windows Mobileは、企業のExchange Serverに蓄積されたメール、スケジュール、連絡先といった情報を外出先に持ち出すことを目的として開発されただけあって、サーバ連携という利用シーンは大いに得意とする分野である。実際に、Windows Mobile 6シリーズ搭載端末とExchange Server 2007を組み合わせると、メールや機密情報の処理、端末の一元管理など、非常に高度な連携が可能だ。

 しかし、そのようにして提供されていたサーバ連携機能はビジネス向けのものばかりであり、個人向けの機能としては「Windows Live Messenger」のクライアントソフトがプリインストールされている程度だった。

 このスキを突いて登場したのが、Appleの「MobileMe」である。インターネットを介して、iPhone・サーバ・PCの間でメールやスケジュールを同期できるという機能は、まさにExchange Serverが提供する機能そのもの。My PhoneはMicrosoft版のMobileMeと見ることができるが、今から考えればこれまでWindows Mobile向けにこのようなサービスが用意されていなかったのが不思議なくらいだ。また、MarketplaceはいうまでもなくiTunesの「App Store」のサービスをWindows Mobileで実現するものだ。

 携帯電話向けのサービス展開ではAppleを追う格好になったMicrosoftの姿勢は、Windowsの圧倒的なシェアを背景に、PCのあり方そのものを定義してきたかつての同社とは対照的で、あくまで謙虚だ。現時点では機能に差があるとはいえ、My Phoneは基本的に無料で提供する。

photophotophoto Windows Phone内の画像、連絡先、スケジュールなどをクラウド上にバックアップする「My Phone」。ただし、クラウドとPCのOutlook等の同期をとる機能はまだなく、PCからはWebブラウザでアクセスする必要がある

 また、マイクロソフトの日本法人でWindows Mobile事業を統括する越川慎司氏によると、まだ具体的な予定があるわけではないが、Symbian OS搭載携帯電話やiPhone OSに向けてMy Phoneのサービスを開放することも、「可能性としてはあり」だという。もちろん、Windows Mobileで利用したときに最も優れたユーザー体験が得られるサービスになるようデザインするが、そのほかのプラットフォームを締め出すつもりは毛頭ないとしている。

 また越川氏はMarketplaceで、アプリの代金を月々の電話料金に合わせて通信事業者が回収する「回収代行」の仕組みをぜひ実現したいと話す。これが実現すれば、ユーザーはクレジットカードや専用の決済ポイントなどを利用しなくてもアプリやコンテンツを購入できるので、特に日本のように、ゲームや携帯コミックの代金を電話代感覚で支払うのが当たり前になっている市場では、アプリ購入に対する心理的障壁を下げる効果は大きいだろう。

 ただし、回収代行で得られるメリットはそれだけではない。越川氏は「回収代行が実現すると、オペレーター(事業者)との間でのレベニューシェア(収入の分け合い)が容易になる。これによってモバイル向けアプリの訴求をオペレーターと共同でできるようになる」と話す。App Storeでは、アプリの売上はアプリ開発者とAppleとの間で分配されるため、アプリがいくら売れても通信事業者にとっては基本的にうまみがない。しかし、Microsoftはアプリの売上の一部を事業者にも還元したいとしているのだ。最初にiPhoneが発売されたとき、Appleと米AT&Tとの間では、ユーザーの月々の電話料金の一部をAppleが受け取る契約が結ばれていたといわれているが、Microsoftは逆に、通信事業者との共存共栄の道を探ろうとしているのである。

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