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» 2009年05月23日 21時01分 UPDATE

神尾寿のMobile+Views:国内100万台突破も視野に――存在感を増すiPhoneのエコシステム(後編)

iPhone OS 3.0の登場で、さらなる成長が予想されるiPhoneのエコシステム。この先進性を理解し、ビジネスに取り入れることが、ICT企業に新たなチャンスをもたらすかもしれない。

[神尾寿,ITmedia]
Photo iPhone 3G発売日の様子。先行販売を行った店舗には順番待ちの行列ができた

 2008年7月の登場時、多くのマスコミや業界関係者が、iPhoneを「タッチパネルケータイ」として見た。確かにタッチパネルを軸としたUIでiPhone 3Gほど先進的かつ優れたものは今にいたっても登場していないが、iPhoneの魅力であり、ライバルに対する脅威の本質はそこではない。

 iPhone OSというモダンなプラットフォーム環境と、それを取りまくように成長していくエコシステムこそが魅力の源泉といえるだろう。今回、大きくは取り上げなかったが、iPhone OSと密接に連携するApple製ソフトウェアや、クラウドサービスの「MobileMe」など、アップルはiPhoneのエコシステムが今後さらに急成長し、モバイル業界を席巻するための布石を数多く打っている。

 一方で、振り返れば日本の携帯電話市場も、Apple同様に「エコシステム」で成功した。言わずもがなであるが、iモードある。

 iモードは携帯コンテンツの世界でApple同様のエコシステムモデルを構築し、日本のモバイルビジネスを花開かせた。誤解を恐れずに言えば、iモードはAppleの10年先を行っており、おサイフケータイiコンシェルなど、今でもAppleをリードしている分野がある。元NTTドコモの夏野剛氏をはじめ、1999年から今に続く“iモードチーム”の功績は大きい。

 しかし、そのiモードも、プラットフォームのグローバル展開と、Dockに見られるようなハードウェア部分のエコシステム化では失敗した。この10年、iモードのコンセプトとエコシステムはかなり優れていたのだが、“日本のキャリア”というくびきからは抜け出せなかったのだ。また、1999年から増改築で積み上げられたiモードは、インターネットとのシームレスな連携が当然となった今では、設計思想が古すぎてどうにもならない部分もある。すでにその端緒は見え始めているが、iモードのモダン化と、その優位性を保ったまま国際的なプラットフォーム/エコシステムと融合することは急務だ。

日本のモバイルICT業界は「津波に乗れ」

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 筆者は2008年のiPhone 3G発表時、入念に仕込まれたAppleのビジネスモデルやエコシステムを「津波」と評した。あれから約1年が経過し、その予想通り、iPhoneのエコシステムは世界的に成長し、日本に押し寄せている。iPodの普及曲線で鑑みれば、足下をひたすようになった波が、津波となって日本市場に大きな影響を及ぼすのも時間の問題だ。

 そのような中で、日本のモバイルICT業界はどうすべきか。

 まず、コンテンツ/サービスプロバイダや周辺機器/家電メーカーにとっては、iPhoneは大きなチャンスだ。国内外で急成長し、これほど洗練されたプラットフォームは今のところほかにはないからだ。特にゲームや位置情報/ナビゲーションサービス、非接触IC連携、家電連携といった分野では日本企業に優位性があるため、iPhoneのエコシステムへの参入を検討する価値がある。これまでの国内携帯電話向け市場と異なり、個別のキャリアや機種を気にせず、世界で競争ができる。また、これはiPhoneに続く、Windows MobileAndroidの時代に向けた準備にもなるだろう。むろん、現時点では国内の既存携帯電話向け市場ほど“手堅いビジネス”にはならないが、2010年以降を踏まえれば、iPhoneなど国際的なエコシステム上でのビジネスに布石を打つことはとても重要なことだ。

 一方、キャリアはこれから2〜3年ほど、大きな舵取りの変更が求められるだろう。この10年に構築したエコシステムの見直しと、国際的なプラットフォーム/エコシステムとのマイグレーションが求められるからだ。

 この取り組みでは、すでにNTTドコモが積極的な開発投資をしており、ソフトバンクモバイルも新時代のプラットフォームであるiPhone OSWindows Mobileへの移行に前向きだ。ドコモは技術力と資金力の豊富さで、ソフトバンクモバイルは持ち前のフットワークと見切りのよさで新時代への移行を進めるだろう。

 ドコモとソフトバンクモバイルと対称的に、新時代に向けて不安が残るのがKDDIである。auのエコシステムはその統一感や使いやすさにおいて評価すべきところが多々あるが、一方でその中身は、ドコモやソフトバンクモバイル以上にガラパゴス化してしまっている。しかもKCP+は、生まれたときから世界の傍流だ。現時点ではそれでもいいのだが、新時代へのマイグレーションでは、他キャリア以上に難易度が高い可能性がある。この状況を打破するには、KDDIはWindows MobileやAndroidに積極投資し、その上でauらしいエコシステムを再構築する必要がある。さもなくば、これから1〜2年で国際的な潮流から取り残されてしまう危険すらある。

 そして最後に日本の携帯電話メーカーだが、彼らはこれからビジネスモデルとプラットフォームの大変革が必要になるだろう。(分離プラン開始時の2年縛りが解ける、最初のタイミングとなる)今年後半に一時的な端末販売増が見込まれるが、中長期的に見れば、既存の携帯電話の市場は縮小する。当面は法人需要で糊口をしのぐとしても、持続的な成長のためには、オープンなプラットフォームの採用と、グローバルなエコシステムへの参入は避けられない。その上で、メーカーとしての独自性を打ち出し、一方でキャリアやライバルメーカーと合従連衡しながら、iPhoneなみの普遍性や互換性を構築・維持する努力が必要になる。

 これまでのように個々の製品単位で短期的なモノ作りをしていたら、日本メーカーに勝ち目はない。求められるのは、世界的なエコシステムの潮流や競争をどう捉えていくかという、マクロかつ長期的な視野での戦略である。

 筆者はAppleが日本市場を見捨てず、その洗練性を制限されることなく「日本に上陸」したことは、日本にとって、このうえなく幸運なことだったと考えている。またソフトバンクモバイルが、料金や販売促進、さまざまな導入事例の構築で、“日本でのiPhone 3G”を後押しし、しっかりと育てたことも幸運だった。

 iPhoneのエコシステムは今後さらに成長の速度をあげて、津波となって日本に押し寄せる。しかも、モバイルICTにおける「国際的なエコシステム」の波はiPhoneのそれだけではない。Windows MobileやAndroidのエコシステムも急速に進化・拡大し、日本市場に影響を及ぼすだろう。日本のモバイルICT産業、そして日本のユーザーにとって重要なのは、それらの波に乗り、次の10年の世界に確実に足を踏み入れることだ。

 存在感を増すiPhoneのエコシステムを直視し、それを認め、そして向き合うことが、日本のモバイルICTの未来にとって、重要なことではないだろうか。

著者プロフィール:神尾 寿(かみお・ひさし)

IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネスの企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。ICT技術の進歩にフォーカスしながら、それがもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。得意分野はモバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。現在はジャーナリストのほか、IRIコマース&テクノロジー社の客員研究員。2008年から日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを勤めている。


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