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» 2009年06月02日 10時58分 UPDATE

3.9G技術の実力は?:ソフトバンク、茨城県水戸市のLTE実証実験を公開――2×2 MIMOの通信も検証

ソフトバンクモバイルが、2009年2月から茨城県水戸市で実施中の次世代技術「LTE」の実証実験を公開した。実験では3つの基地局と3台の端末を使用し、カバーエリア内をバスで走行しながら速度を計測した。

[田中聡,ITmedia]

 ソフトバンクモバイルは5月29日、茨城県水戸市で実施している第3.9世代の広帯域無線通信技術「LTE(Long Term Evolution)」の実証実験を公開した。同社は2009年2月にLTEシステムの無線実験局の免許を取得しており、水戸市内でフィールド実証実験を進めている。

理論上は下り約106Mbpsの速度が出せる

photo ソフトバンクモバイル 執行役員兼CS 技術総合研究室長 筒井多圭志氏

 ソフトバンクモバイル 執行役員兼CS 技術総合研究室長の筒井多圭志氏は、「今回のトライアル(実証実験)では、ソフトバンクの3Gサービスでも使用している、2GHz帯の10MHz幅を共用している」と説明。

 ただ、トライアルシステムの制約として「電波が切れたときに他局の電波に接続する『リセレクション』をサポートしていないこと」と、「移動機が基地局を判定、情報が輻輳するときに参照する『リファレンス信号』が衝突する場合があること」を挙げた。

 とはいえ、「(基地局を切り替える)ハンドオーバーが失敗しても手動でリセレクションできるので、完全な失敗というわけではない」(同)という。

 また10MHz幅では本来50のリソースブロックが割り当てられるが、実証実験用の端末に割り当てられるリソースブロックは16に限られており、使用できる帯域幅は10MHz中2.88MHz。30%の帯域幅しか使えないため、実験でも3割程度の速度しか出ないという。

photophoto LTEトライアルシステムの制約について(写真=左)。写真右の図表は、縦軸が周波数、横軸が時間を示している。トライアルシステムでは、リファレンス信号の位置をずらせる「Frequency Shift機能」を実装していないため、(基地局のカバー範囲である)セル間の干渉が起きてしまう。「本来はセル間でリファレンス信号がぶつからないよう調整をしないといけないが、今回はシステムの制約上、(リファレンス信号が)同じ場所にある」(竹中氏)
photo ソフトバンクモバイル 技術総合研究室 無線システム技術開発センター センター長 竹中哲喜氏

 ソフトバンクモバイル技術総合研究室無線システム技術開発センター センター長の竹中哲喜氏は、LTE実証実験の目的とシステム構成について説明した。

 「LTEの基地局は、商用基地局の鉄塔と設備を共用しているので、商用サービスと同様の環境で評価できる。ベンダーさんの目的は基地局の装置を作ることだが、われわれ事業者にとっては装置を使ってどのようにサービスを作るかが重要。その中で商用化に向けた課題を明確にし、解決しながら技術蓄積を図りたい」(竹中氏)

 実証実験には3つの基地局と3台の端末を使用し、コアネットワークに相当する設備を汐留の本社に設置している。また、データの転送には、最高で64QAMの変調方式を採用。「無線の状態に応じて変調方式を変えられる。環境がいいときは大容量のデータを送信できるが、無線の状態が悪いと受信できるデータ量は少なくなる」(竹中氏)

photophotophoto モバイル無線システムの技術の変遷について。LTEは3.9Gの技術として導入される(写真=左)。LTEトライアルシステムのネットワーク構成。赤い矢印で示したものが基地局(写真=中)。水戸市内のトライアルエリアには、3つの基地局が設置されている(写真=右)
photo 既存の3G用の基地局の下に実験用の基地局がある

 アンテナ構成には、2本のアンテナから2種類のデータを送受信できる「2×2 MIMO(マイモ)」を採用。これまでの実験では、下り約17Mbpsの最大速度を観測したという。この実験システムで約17Mbpsという速度が出たということは、10MHz幅をすべて使用できた場合、約53Mbpsのスループットに相当する。さらに、4本のアンテナを使う「4×4 MIMO」にすることで、理論上は下り約106Mbpsの速度を達成できる。

 基地局については、既存の3G用アンテナにLTE実験用のアンテナを新設しており、それぞれ構成やパラメーターが異なる。

 他キャリアとの電波の調整について竹中氏は「2月16日に総務省から免許をいただき、電波法も通過していろいろな検証結果や課題が見えてきた。周囲には他社の商用電波も飛び交っているが、ドコモ、KDDI、ウィルコムと事前に調整し、(LTEの)電波を出しても問題ないことを確認した」と説明した。

下り最大17〜18Mbpsのスループットを実現

 実証実験のエリアは、水戸市の赤塚駅周辺。移動端末を乗せたバスで、実証実験で使う3局のカバーエリアを走行しながら、信号の品質や通信速度を検証した。

photophotophoto 移動中は現在地がモニターにリアルタイムで表示されるほか、通信中の基地局やそのほかの基地局、信号の品質、通信速度が表示される(写真=左)。走行試験に使ったバス(写真=中)。移動機のアンテナがバスの屋根に設置されている(写真=右)

 走行中にハンドオーバーがうまくいかず、通信が途切れることが何度かあったが、走行中は平均で下り5Mbpsほどの速度が出た。途中からMIMOによる通信に切り替えたところ、走行中は通信できなかったが、停車時には通信に成功し、最大で下り17〜18Mbpsの速度が出た。「今のところ、ベストパフォーマンスが出るのは時速0〜15キロメートルのスピード」(竹中氏)

photophotophoto 走行中はモニターを見ながら通信状況を確認していった(写真=左)。「RSRP」は「信号の強さ」、「RSRQ」は「信号の品質」を現している。基地局ごとに番号(Cell ID)を付けて、どの基地局と通信しているかを表示。「Serving Cell」では通信中の基地局、「Neighbor Cell」では近くの基地局の信号の強さと品質が分かる(写真=中、右)。なお、信号の強さは周囲の建物やアンテナとの距離によって変わる
photophoto 地図上の赤いマークが実験用の基地局を示している(写真=左)。Serving CellとNeighbor Cellの信号の強さ(RSRP)の差がなくなり、ハンドオーバーする。写真では5番から2番の基地局に切り替わることが分かる。なお、4番はドコモの基地局を示している(写真=右)
photophotophoto 走行した道に付けられていく色は、信号の品質を示しており、緑色が高品質、黄色が低品質となる(写真=左)。走行中はハンドオーバーがうまくいかず何度か通信が途切れたが、平均5Mbpsほどの速度が出た(写真=中)。停車時にはMIMOによる通信も成功した(写真=右)
photophotophoto 実験用のアンテナを設置した鉄塔の1つ。鉄塔全体の高さは50メートル、実験用のアンテナまでの高さは45メートルとなっている。周囲には田園が広がっており、見通しの良い環境だ(写真=左、中)。最上段に3G用のアンテナが、その下に実験用のアンテナが2つある(写真=右)

 LTEの今後について竹中氏は「仕様が固まっても、商用の設備を整えて端末を調達し、お客さんが増えるまでには時間がかかる」と慎重な姿勢。「3Gは2000年から導入したが、弊社の場合は仕様が完成してから100万加入に到達するまで約5年かかった。ドコモさんもW-CDMA(FOMA)の開発を進めてから普及するまでに3年ほどかかった。LTEもゼロから設備や端末を開発するとなると、それ相当の時間がかかる。(水戸市のような)小規模な地域はもちろん、都心部を含めた全国でしっかり展開できるのか、まだ踏むべきステップは多い」(竹中氏)

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