登場から17年。独自のフォルムと機能で完成度の高い「超」整理手帳の2012年版はデザインを一新。「発売以来、最大の変化」と担当者は話すが、果たして何がどう変わったのだろうか。
登場から17年。独自のフォルムと機能で完成度の高い「超」整理手帳の2012年版はデザインを一新した。果たして何がどう変わったのだろうか。
発売から長い時間がたった製品は二律背反の問題を抱えている。完成度は高く、愛顧する顧客も多くそうそう大きくは変えられない。その半面、見た目やコンセプト、製品構成などを変化させて新しい層を開拓することも必要だ。つまり、不変でありつつ変えるべきは変えることが求められるのだ。これは、ロングセラー製品を抱える担当者が一度は直面する問題だろう。
ましてや手帳は変化が使い勝手に直結する。大きく変えることがユーザーに大きな賛否をもたらす商品の代表格だ。どう変えるかは慎重にならざるを得ない。1990年代に登場して以来根強いファンに支えられてきた「超」整理手帳も、その問題に直面していた。そして出た答えは、統一的なブランディングを構築することを含めた大幅な刷新策だった。
「超」整理手帳を担当する講談社の大川朋子氏(新企画出版部第4編集部)は次のように話す。
「『超』整理手帳は、既存ユーザーを見ながら作ってきました。発売からずっと支持しているユーザーの意見からは、今までも影響を受けて来ています。ですが、同時に新しい層にアピールする必要も感じていました」
過去に新規ユーザーに対してアピールしたことがないわけではない。例えば、20代をターゲットとした開拓活動もやった。大学生に使ってもらったり、大学生協においてもらったりなどをしていた。だが「シンプルなので良さが伝わりにくかった」(大川氏)。
一方ここ数年、大川氏も「超」整理手帳のデザイン面を大幅に変えたいという気持ちを持っていたという。新年向けの手帳は発売後の2月に売り上げ成績が出る。そして刷新の方針を決定されたのは今年3月だった。ターゲットは20代後半から30代半ば。いわば「一番忙しくて一番切羽詰まった年齢層」に訴求することも決まった。「持っていてかっこいいものをと考えました。今回はそれをやってみました」(大川氏)
デザインはブランディングまで視野に入れ、広告代理店での経験もあるデザイナーに依頼。その結果、パッケージ前面にある「超」のロゴに結果が出た。
今までの「超」整理手帳の商品名は、明朝体で表現していた。いわば大きな本文であり見出し的な扱いだ。今回はオリジナルのロゴが生まれた。特に「走(そうにょう)」の下部は、ジャバラシートをイメージ。パッケージの背面には「超」整理手帳の特徴である(1)8週間が一望できること(2)A4サイズの紙が収納できること(3)Web連携があること――などを簡潔に示している。
各部に散見する動物のモチーフもそうだ。今までの「超」整理手帳でもA5版は「エレファント」というネーミングを採用していた。今回はそれを推し進め、例えばA4用紙をはさむ「カンガルーホルダー」にセットしていた定規は「カンガルルーラー」から「ゼブラルーラー」という名になった。目盛りがしま模様に見えるというわけだ。
ジャバラ式スケジュールシートやA4版に対応した「超」整理手帳自体は完成度が高く、コンセプトも変えようがない。だが、それでも今回もっとも変わった部分がある。その部分が「ジラフノート」だ。縦長プロポーションが特徴のこのメモ帳、ネーミングはもちろん首の長いキリンに由来する。ジラフノートはカンガルーホルダーにセットする。従来ここには、縦型の専用ノートをセットしていたが、変更した。
「超」整理手帳と相性のいいメモ帳と言えば、ロディアの縦長メモ帳であるNo.8を思い出す人もいるだろう。実際この2つを組み合わせて使っている人もいる。ヒントになったのは、講談社の社内にあったあるメモ帳だったという。
「週刊現代の記者たちが使う記者手帳というのがあるんです。張り付きで取材するのに便利なように天を綴じた無地のメモです。これが直接のヒントになりました」。写真で見ていただくと分かるが、この2つは確かにそっくりだ。
切り取り式のメモ帳にすることも「超」整理手帳の考案者である野口悠紀雄教授(早稲田大学大学院)の発案だった。メモはメモすることと同時に散逸しないことも大切だが、メモしたものを撮影してクラウド上に保存するようにすれば、この問題は解決する。綴じてあるメモ帳をそのまま持つよりも便利なわけだ。
ジラフノートは、バーティカル式と相性がいいことも分かった。ジャバラ式のシートを縦方向に拡げたときに、ジラフノートは横位置になる。表紙を横に開いて記入できるからだ。念のために言えば、従来の縦型ノートは別売りで今後も提供するという。
「超」整理手帳をいかに伝えるか。これは発売から17年がたった現在でも課題だ。そして今回は、商品展開を思い切って絞り込むことでこの問題に取り組んだのである。
まずサイズは1サイズ、カバーも1色のみとした。「超」整理手帳は、文具店や雑貨店でも扱いがあるが、売り上げの9割以上は書店だという。そして大手手帳メーカーと異なり、品目を拡げすぎると細かなケアができない。色やサイズ展開が多いときにフォローできなくなってしまうという。
そこで今回はサイズをスタンダード(A4版)1本に絞り、A5版は廃止した(リフィルはノグラボで供給)。またカバー色も「ネイビーブラック」の1色のみだ。今までは、複数色を作っていたが、1色に絞る利点もあった。「スケールメリットが生まれ、よりよい素材が使えるようになったんです」(大川氏)
種別 | 製品 | 価格 |
---|---|---|
手帳セット | スタンダード版 | 1800円 |
バーティカル版 | 1800円 | |
方眼版 | 1800円 | |
スケジュールリフィル | スタンダード | 1200円 |
バーティカル | 1200円 | |
方眼 | 1200円 | |
●以下はノグラボにて取り扱い | ||
スケジュールリフィル | 方眼A5サイズスケジュールシート | 1200円 |
方眼A7サイズスケジュールシート | 1100円 | |
ノート | Notebook(ポスタルコデザインノート、3冊セット) | 1260円 |
どの色に絞るかにも議論があった。最初に100の候補を出してから10候補に絞り、そのうち黒と紺の2種類になった。どちらかとなったときに野口教授が支持したのが紺だったという。品目を1つに絞り込むことで、欠品を防いでユーザーに確実に届けられる効果も狙っているのだ。
カバー自体にも新しい機能を付けた。ポケットでスマートフォンを入れられる様になったのだ。従来クリアタイプのカバーでもポケットはあったが、ポケット自体は梨地で中身がよく見えないようになっていた。今回は透明度を増し、タッチ操作もできるようになっている。
カバーに組み合わせるスケジュールリフィルは「スタンダード」「バーティカル」「方眼」の3種類。これもデザインの細部を見直した。特に「方眼」はスタイリッシュ志向だ。紙自体はグリーンで、ほかのリフィルにはある週ナンバーも六曜もない。曜日を表現する色もない。いわば極限までの“削ぎ落としの美学”なのだ。これも一つの挑戦なのである。
大川氏によれば「超」整理手帳にとって今回の刷新は「初めてのブランディング」だという。「『超』整理手帳には、手帳本体はもちろんですが、iPad版も存在していて、一種のブランドになっています。ところが今までは製品群に共通するブランドイメージがなかったんです。今回デザイナーに提案してもらったロゴも含めてはじめてブランディングができたと思います」。iPad用の「超」整理手帳アプリもこの新しいロゴをアイコンに採用している。
ユーザーと市場が育てた製品のどこを変えてどこを変えないのか。新しい「超」整理手帳がどんなふうに受け入れられるのか、今後も注目だ。
アスキー勤務を経て独立。手帳やPCに関する豊富な知識を生かし、執筆・講演活動を行う。手帳オフ会や「手帳の学校」も主宰。主な著書に『手帳進化論』(PHP研究所)『くらべて選ぶ手帳の図鑑』(えい出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『システム手帳の極意』(技術評論社)『パソコンでムダに忙しくならない50の方法』(岩波書店)など。誠Biz.IDの連載記事「手帳201x」「文具書評」の一部を再編集した電子書籍「文具を読む・文具本を読む 老舗ブランド編」を発売
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.