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大日本印刷・北島社長が語る「DXを経営の柱に据えた理由」 データを活用して出版界全体の改革に取り組むデジタルを駆使(2/6 ページ)

» 2021年07月14日 09時32分 公開
[中西享, 今野大一ITmedia]

会員数660万人 「honto」ビジネスが好調

――DNPが運営している、丸善ジュンク堂書店、文教堂などのリアル書店、ネット通販、電子書籍が連動したハイブリッド型総合書店「honto」ビジネスが好調のようですが、その要因は何だと思われますか。

 2012年にスタートした「honto」の会員は660万人まで増えました。2019年度は50万人の増加でしたが、2020年度はコロナ禍の巣ごもりで100万人も会員数が伸びています。

 1回目の緊急事態宣言で、都心の書店では、DNPグループの丸善ジュンク堂など一部の書店は閉じましたが、郊外の書店は前年の2割も売り上げが良かったところもありました。このほか、ネットで買って本を読む人、電子書籍を読まれる方も多かったのです。人口減少、少子化により大きく需要が拡大することはないでしょうが、マンガも含めて書籍に対する活字ニーズはまだかなりあると思っています。

 リアルの本屋に来る人、電子書籍を読む人も含めて、どういう人がどういう本を買ったかを「honto」会員の属性データとともに把握できます。この購買データと書店の顧客層データを活用することで、書店にとっても出版社にとってもメリットがある書籍の流通が実現できるのではないでしょうか。売れ筋の本のデータをつかむこともできますし、本屋さんの返品を減らすこともできます。

 このデータの分析は出版計画にも役立つし、どういうタイミングでPRすればよいかなどを知ることもできます。こうした取り組みにより、出版社、取次店も含めて出版界全体の改革に取り組んでいきたいと考えています。

――具体的にはどんなことに取り組んでいきますか?

 需要予測に基づき、出版社に適切な在庫数などを提供すれば、出版社と書店がお互いにウィンウィンになれます。また、在庫の補充が必要な場合は、小ロットで印刷するPOD(プリント・オン・デマンド)で作りすぎも防げます。こうしたことはブック・ライフサイクルマネジメント(BLM)と呼んでいます。こうすることで書店の利益率も改善できるし、書店に一方的に配本する現状の出版流通を変え、生活者に読みたい本を読みたい時に提供できますね。

 最近は初版本でもベストセラーは別にして、3000から5000部ほどしか刷らない傾向が続いています。そのため都心の大型書店にしか配本されない場合もあり、都心と地方では売り上げが違ってきたりもしています。出版界を全体的に効率化していく必要があります。改革の方向性を、データを駆使しながら示していきたいのです。

――著者と読者が一緒に対話ができるオンライン読書会「ペアドク」という取り組みもヒットしているそうですが。

 もともと書店などでリアルイベントとしてやっていたものですが、コロナ禍でオンライン化しました。そうしたらペアドクのコミュニティーの参加者が増えて、コロナ禍前の4倍になりました。30分間本を読んだ後に、読者同士で感想を言ったり、著者も出席して、読者が著者とも直接話し合うことができたりもします。「ペアドク」は読書の輪、習慣、興味の範囲を広げることができるので、本を絡めたイベントを今後も計画していきたいと考えています。

コロナ禍でオンライン化したオンライン読書会「ペアドク」(以下、北島社長の写真以外は大日本印刷提供)
もともと書店などでリアルイベントとして開催していた

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