国内に天然資源やエネルギー資源を持たない日本は、これらを海外から購入するための資金を海外から稼がなくてはならない。その意味で輸出産業の重要性は今後も変わらないが、これに過度に依存する経済構造を見直していかなければ、日本の置かれた脆弱な立場は将来になっても変わらない。
しかも過去数年間、史上最高の業績を計上したといわれる製造業の収益の相当部分は、海外からのものであったといわれる。いわば「海外からの仕送りで何とか成り立っていた」というのが日本経済の実態ということになる。海外景気の直撃を受けることになった背景には、以上のような日本側の問題も少なくない。
内需拡大を唱える一方で、目先の勝者である自動車やAV関連企業を 褒めたたえてきたメディアの責任も重い。学生の就職活動で、自動車やAV関連企業が上位を占めてきたように、問題は国民全体が物事の表面しか見ようとせず、この社会経済構造に対して問題意識を持たなくなってしまっていたことだと思う。ここにも深く考えることなく、成り行き任せにしてしまっていた問題への答えが求められている。これもグローバル化の在り方を考える上での重要な課題である。
コスト競争に巻き込まれる製品や産業分野では、日本の高い賃金水準を維持することは本質的に困難なのだ。人材を育てて、高い賃金に見合うだけの高い能力とやる気を確保して、他国がまねできない高い付加価値の事業を創り出して活動していく以外に方法を思い付かない。“量を追うより質を尊ぶ”ような経済、社会構造、意識へと、早急に切り替えていくしか日本の将来はないと思う。
また、内需重視の経済には、食料とエネルギー自給率を高め、かつ国内を省資源、省エネルギー社会にすることと、物質中心主義から教育、医療、福祉など、“人間・文化志向のソフト経済社会”へ価値観を転換していくことが必須である。現在の構造を引きずっていては、内需を拡大すればするほど輸入資源やエネルギーが必要になり、そのための輸出産業拡大が必要になる。リスキーな構造は変えられない。
諸説はあろうが、日本は明治維新以降、殖産振興策と国力に不釣り合いなほどの海軍力を持とうとするような富国強兵策で、当時「列強」と呼んでいた先進西欧諸国の後を追って、周回遅れの帝国主義政策を進めた。しかし、国際的な状況認識力や外交力の弱さなど、バランスを欠いた国の能力から、第2次世界大戦に突入し、結果としてジョーカー札をつかまされることになった。太平洋戦争は資源を求めてアジアへ進出を図った資源を持たない国・日本と、その地域に権益を持つ西欧諸国との戦争でもあった。
現在でも、世界の紛争地域のほとんどは資源埋蔵国である。表面は内乱のように見えても、裏に大国の影がちらつく。武力をちらつかせ、工作活動をしてでも内戦に介入する大国、独裁国家にも手を伸ばす中国など、その背景には埋蔵資源への思惑が垣間見える。石油を持つイラクには侵攻した米国は、「悪の枢軸」と呼び非難はしても、そのほかの国と同様、資源のない北朝鮮(注4)には本気で介入はしない。これが現実である。
資源は戦争の火種である。少なくとも8割程度の自給率は確保すべきといわれている食糧問題と、9割をイスラム圏に依存しているエネルギー問題は、どこから何といわれようとうまく非難をかわし、早期に解決しなければならない。外交の在り方とあわせて、日本人の生命にかかわる喫緊の課題ともいえよう。しかし 日本の国家戦略や資源外交の姿が見えてこない。これは下手をすれば、また貧乏くじを引かされることになりかねない問題でもある。
特に今回のように、世界が同時に大きな経済危機に見舞われると、どの国も短期に危機から脱出する有効な手がなくなる。国情不安が増す中で生じてくるのがナショナリズム(国粋主義)である。各国が極めて利己的になり、極端な守りの姿勢「保護主義」(注5)に走る。
さらに状況が改善されないと、為政者は自身に対する国民の攻撃をかわすために、外に悪者を作り、国民の不満を外なる敵に向かわせる。戦争である。現在は「経済危機の犯人は米国」というのが世論であっても、米国はけんかの相手として大き過ぎるということになれば、自国と対等かそれ以下の理屈を付けやすい相手を選ぼうとする。実は「相手は誰でもよかった」という状況になる。こんな場合に資源は最も火種にしやすい対象の1つだ。世界が緊張してくると偶発的な事件が大問題に発展する可能性が増える。
不景気とは「需要の不足」である。そして戦争は巨大な需要を作る。“最大の公共事業”とさえいわれる。戦争当事国への影響には諸説あるが、周辺国は戦争で大いに潤うことになる。第2次世界大戦後の日本が経済復興のきっかけをつかんだのは、朝鮮戦争による特需であり、ベトナム戦争でもかなりの潤いがあった。
経済低迷が長期にわたると一部に戦争待望論、戦争不可避論が出てくる。それに基づく工作が行われない保証はない。北東アジア情勢が緊迫し、万一日本が軍備増強を行わざるを得ない状況に追い込まれれば、その恩恵を最も受けるのは米国の軍需産業だ。これはわれわれが歴史から学んだ事実であるが、これを避ける方法はまだ学んでいない(注6)。
今回は世界中で起きている事象を見渡し、それぞれの関係と世界における日本の現状を探った。後編では、ITにたずさわるわれわれが考えるべきこと、なすべきことにまで掘り下げて、日本という国が目指すべき方向性を考える。
公江 義隆(こうえ よしたか)
情報システムコンサルタント(日本情報システム・ユーザー協会:JUAS)、情報処理技術者(特種)
元武田薬品情報システム部長、1999年12月定年退職後、ITSSP事業(経済産業省)、沖縄型産業振興プロジェクト(内閣府沖縄総合事務局経済産業部)、コンサルティング活動などを通じて中小企業のIT課題にかかわる
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