4月に入り、世界的な携帯電話メーカー各社が2009年の第1四半期決算を発表した。この不況の中、端末メーカーの実績はいずれも思わしくはないが、Samsung電子とLG Electronicsの韓国勢はともに高い実績を上げている。両社が好調な理由とは何だろうか。
Samsung電子の第1四半期の売上高は、単体で18兆5700億ウォン(連結で28兆6700億ウォン、日本円で単体約1兆4486億円/連結約2兆2365億円)、営業利益は1500億ウォン(連結4700億ウォン、単体約117億円/連結約367億円)。9400億ウォン(約734億円)もの営業損失を出し、赤字に転落していた2008年第4四半期から、大きく回復した。
携帯電話やネットワーク機器などを含む、通信部門の売上高は単体で8兆600億ウォン(連結9兆7700億ウォン、単体で約6296億円/連結で約7632億円)で、前年同期比は34%増、前期比でも4%増となった。営業利益は9400億ウォン(同1兆1200億ウォン、単体で約734億円/連結で約875億円)で、前年同期比2%増、前期比509%増のV字回復を達成したことになる。
Samsung電子はイ・ゴンヒ会長が不正資金問題で2008年4月に退任して以来、大規模な組織改編が行われて、現在の事業部門はデバイスソリューションとデジタルメディア&コミュニケーションの2つになった。
Samsung電子の売上高は、半導体や液晶ディスプレイなどを手がけるデバイスソリューション部門より、携帯電話や家電を担当するデジタルメディア&コミュニケーション部門のほうが高い。後者の中でも通信、とくに携帯電話の売上高は大部分を占め、同社全体の実績を左右する要素となっている。以前は半導体も同社を支える中核事業だったが、価格下落などで不振なことから、携帯電話への期待は高まるばかりだ。
一方、LG Electronicsは全部門が黒字という好調ぶりで、売上高は、単体で7兆700億ウォン(連結は12兆8500億ウォン、単体で約5523億円/連結で約1兆38億円)、営業利益は4372億ウォン(同4600億ウォン、単体で約342億円/連結で約360億円)だった。
携帯電話やネットワーク機器などを含むモバイルコミュニケーション部門の売上高は連結で3兆9159億ウォン(約3061億円)、前年同期比は22.6%増、前期比では4.3%減となった。営業利益は2626億ウォン(約205億円)となり、前年同期比42%減、前期比は22.4%増という結果だった。
モバイルコミュニケーション部門は、液晶テレビなどを手がけるホームエンターテインメント部門に続く売上高を記録。携帯電話部門は、LG Electronicsの主要部門である薄型テレビ部門を営業利益で上回るなど、携帯電話事業が全体の実績を左右する部門になっているのはSamsung電子と同じだ。
とはいえ、両社とも世界同時不況の影響を受けなかったわけではない。Samsung電子の携帯電話出荷台数は、前年同期比(4630万台を記録)から1%減となったほか、LG Electronicsは同7%減の2260万台にとどまった。
出荷台数が前年割れしたとはいえ、その差は10%以内。ほかのメーカーが急激に実績を落とす中、下げ幅を小さく抑えたのは評価できるだろう。両社とも、利益率が高いミドルからハイエンド端末が人気を得ており、また欧米など先進国での売り上げが依然として好調なことから、出荷台数が減っても効率よく利益を出せる収益構造を維持できている。
Samsung電子の代表的な人気端末が、1カ月で80万台を販売したタッチパネルケータイの“Touch Wiz(タッチウィズ)”こと「SGH-F480」と、QWERTYキーボードを搭載しメッセージ機能を強化した「SGH-A767」だ。とくにTouch Wizに搭載されている独自のインタフェース(UI)は、“遊びのあるフルタッチ端末”という新コンセプトで旋風を巻き起こした「Haptic」(ハプティック)と同じもので人気が高い。
LG Electronicsでは500万画素のカメラを搭載した“Viewty(ビューティ)”こと「LG-SH210」が世界的ベストセラーとなっており、安価なフルタッチパネル携帯という新市場を切り開いた「LG-SU910」も世界で200万台を販売した。
韓国内では、両社ともターゲットを明確化した安価な端末を発売して人気を集めている。Samsung電子はひもを引くと警報が鳴るセキュリティ機能がついた「SPH-W7100」、LG Electronicsはビジネスパーソンを狙ったスマートなイメージの“Suit Phone(スーツフォン)”こと「LG-SV710」を販売するなど、あらゆる価格帯に売れ筋を投入しており、2社の厚いラインアップは、他の追随を許さないほどになっている。
第1四半期は比較的好調だった両社だが、第2四半期は不況の影響が続くとして消極的な予測を出している。両社とも今後の効率経営を目指して戦略モデルや高価格端末を立て続けに投入する見通しだ。
Samsung電子の次期戦略モデルが、有機ELディスプレイや800万画素カメラを搭載した「Ultra Touch」(ウルトラタッチ)、Googleのオープンプラットフォーム「Android」を搭載した「i7500」、HD動画の録画機能とQWERTYキーボードを搭載したタッチ端末“OMNIA HD”こと「i8910 HD」などだ。第1四半期に好調だった欧州市場には、厚さ11.9ミリのフルタッチ端末「S5230」や、下り最大7.2MbpsのHSDPAに対応した厚さ12.9ミリの「S5600」など、スリムでコンパクトなモデルで攻勢を強める。また北米市場ではシェア1位の座を維持するため、販売戦略をより一層強化するという。
一方LG Electronicsには、3Dの新UI「S Class UI」を搭載した「ARENA」(アレナ)、透明なキーが新しい“Crystal”(クリスタル)こと「GD900」、800万画素カメラを搭載した「Viewty Smart」などが控えている。また2005年に初めて販売したQWERTYキーボードを搭載したシリーズも好調で、これまで世界で2000万台を売り上げている。2008年のシェアが20.9%にまで伸びた北米市場では、映画「トランスフォーマーII」に専用携帯電話を提供するなどマーケティング体制も強化中だ。
また先進国だけでなく、新興市場でのシェア拡大も忘れてはいない。特に世界最大の市場である中国には積極的で、Samsung電子はChina Mobileへ、LG ElectronicsはChina MobileとChina Unicom、China Telecomの3社へ3G端末を供給する予定だ。とくにSamsung電子は、北京郵電大学大学院に携帯専攻課程を設立するなど、販売以外の分野からも中国にアプローチしている。
韓国企業の強みといえば経営決断と市場対応の速さだが、これは世界企業となり、力を十分につけた今でも変わらず、流行や市場をリードするまでになっている。単に高価端末でブランド力を高めただけでなく、常に話題となる新端末を提供するなど期待を裏切らなかったのも、強さの秘訣と言えるだろう。また、“技術のSamsung電子”“デザインのLG Electronics”というブランドイメージを生かした端末開発も、シェアを伸ばす要因になっている。
次第に「追う側」から「追われる側」へと市場での立場を変えてきている両社は、決して守りに入ることなく、常に攻めの姿勢で市場拡大を狙っている。その戦略が世界同時不況下でも好調を維持し続けられるかに注目が集まる。
プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。弊誌「韓国携帯事情」だけでなく、IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。
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