未来のiPhoneアプリと開発者の物語WWDC 2009基調講演を振り返る(1/4 ページ)

» 2009年06月24日 17時19分 公開
[林信行,ITmedia]

 世界同時にiPhone OS 3.0がリリースされ、米国、英国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、スイスなどの国々では、すでに「iPhone 3GS」も発売された。そして日本でもいよいよ6月26日から販売が始まる

 インターネットではiPhone OS 3.0やiPhone 3GSの新機能の話題でもちきりだが、果たしてこの新OSと新ハードウェアの登場で、iPhoneを取り巻く状況はどのように変わっていくのだろうか。またはこれからどんなアプリケーションが出てくるのか。そのヒントは、まだあまり語られていないWWDC 2009の基調講演の後半に隠されている。ここではその講演の内容を細かく振り返ってみよう。

iPhoneの成功を彩る開発者物語

スコット・フォースタール氏

 WWDC 2009でiPhoneの説明を担当したのは、前年に続きスコット・フォースタール氏だ。同氏が「この1年はiPhoneにとってすばらしい1年だった」と振り返るように、2008年、アップルはiPhone OS 2.0用のアプリケーションを開発するためのSDKの配布を開始し、その反響は「驚異的」だった。SDKのダウンロード数は100万件に達し、その結果、現在App Storeには5万本のアプリケーションが登録されている。

 これらのアプリケーションが動くiPhone OS機器、つまりiPhoneとiPod touchは、合計ですでに4000万台に達している。この4000万のユーザーはApp Storeのアプリケーションをダウンロードするのが大好きで、App Storeは2009年4月23日に10億ダウンロードを突破した。わずか9カ月間での出来事だ。

App Storeには5万本のアプリケーションが登録され、iPhone OSで動作するデバイスは4000万台に達し、App Storeのダウンロード数は2009年の4月に10億を突破した

 フォースタール氏は、iPhone OS機器の顧客と開発者の両方に感謝の辞を述べた後、「我々は開発者達から驚くような話をたくさん聞いた。そのいくつかをみなさんと共有したい」と述べてビデオを上映した。このビデオは現在、アップルのWebサイト「Developing apps for iPhone」で見ることができる。

 ビデオには5人の開発者が登場し、少しずつ自分の体験や考えを語るのだが、ここでは各人の話を人単位でまとめて紹介しよう。

 ビデオはいきなり渋谷の交差点の映像から始まる。Q-FRONTの側から交差点を渡ってくるのはIgloo Gamesのネイサン・ハンレー(Nthan Hunley)氏。彼は昔から旅をしながらゲームをすることを夢に見ていた。そしてiPhone SDKのリリースが、その夢を現実に変えた。

 彼の作ったゲームの第1弾はDIZZY BEE。ある日、深夜1時にApp Storeを見てみると、ゲームが公開されていて、心が破裂しそうなくらいに興奮したという。ハンレー氏は「iPhone SDKの開発環境は非常によく整っており、豊富な機能がAPIとして用意されているので、自分が得意なことに注力するだけでゲームを作ることができた」と語り、iPhone開発を非常に楽しんでいると付け加えた。

 2人目の登場人物はMLB.comのチャド・エバンス(Chad Evans)氏。日本では配布されていないので知らない人も多いかもしれないが、このMLB.comは米国では超人気アプリケーションの1つだ。ダウンロードすると、米国大リーグの全チームの試合の状況をリアルタイムで確認できる。しかもただスコアが分かるだけでなく、どのベースにどのランナーがいたのか、直前に投げた球がどのコースだったのかといったことも確認できるうえ、なんといってもすごいのが、直前までのハイライトシーンを動画で確認できる点だ。例えばイチロー選手がヒットを打ったら、数分後にはその映像をiPhone上で楽しむことができる。いわば半リアルタイムの放送が楽しめるわけだ。

 エバンス氏は「我々の目標はベースボールファンにとって最高の体験を作り出すことだ」と語っている。iPhoneはまさにうってつけのプラットフォームだった、ということになる。ある日Evans氏は、空港でうれしい場面に遭遇する。飛行機を待っていると、テレビでフィラデルフィア・フィリーズの試合が放映されていた。イニングが終わった直後、テレビでMLB.comのCMが流れると、回りの人達がみんなポケットからiPhoneを取り出してApp StoreからMLB.comをダウンロードし始めたのを目撃したのだという。iPhone SDKでの体験についても、「シンプルに見えて、その実、非常にパワフルで、すべてが期待通りに動いた」と印象を語っている。

 iPhone OS 3.0では、動画のストリーミング再生が可能になる。これによりMLB.comでも、iPhone上で野球の放送をリアルタイムに見られるようになるようだが、エバンス氏はその事実に大変興奮しているという。彼は今の子供たちが大人になってから、iPhoneで野球を見て育ったことを振り返り、あたかもそれが野球の楽しみの自然な一部のように語ってくれるのではないかと楽しみにしているという。

 講演後半にも登場するAirStripという医療ソリューションを提供する会社からは2名の開発者が登場した。トレイ・ムーア(Trey Moore)氏と医学博士のカメロン・パウエル(Cameron Powell)氏だ。ムーア氏は、以前から「もしモバイル機器で心拍数を監視することができれば」と思っていたという。

 パウエル氏は「以前は医師として日々、ひとりひとりの患者の生命に影響を与えてきたが、今日ではiPhoneアプリを通して、より多くの患者をサポートできるようになった」と語る。一方のムーア氏も、アプリ開発の現場にいろいろ注文を出しても、まったく限界を感じさせない、と驚きを隠さない。iPhone SDKのAPIは非常に充実していて、まるでデスクトップPC用のAPIであるかのように感じる、とも語っている。

 ムーア氏はiPhone OS 3.0の新機能では「Push Notification」に期待をしているという。この機能を使えば、患者に対して個別に、この兆候が出たら警告をしてほしいといった設定ができるようになるという。そしてiPhone SDKの登場が、開発者にとって開発という行為そのものを再び楽しいものにしてくれた、と歓迎の言葉を述べている。

 実際、会議中に患者のことが気になってiPhoneで生体情報を確認したところ、異常があることに気がついて病院へ向かう。ナースから容態急変の知らせがあった時には、すでに医師が病院に戻っていた、といったこともあったという。Powell氏は、iPhoneが医療業界における最有力プラットフォーム、最有力デバイスになるだろう、と予言する。

 5人目の登場人物は、iPhone用に数々のヒットアプリを出し続けているApp Storeランキング上位の常連、Gameloftのミシェル・ギユモ(Michel Guilmot)氏だ。彼はSDKを見た時、「これで我々が夢見ていたゲームが作れる」と喜んだそうだ。

 ギユモ氏は「ゲームの楽しさのルーツに戻る」ことを目指してビジネスを始め、今ではそれは、iPhone上でも数百万本クラスの売り上げを持つゲームをたくさん抱える大成功したビジネスになっている。

 そのギユモ氏もiPhone OS 3.0は高く評価している。同OSのSDK登場で、ゲームをほとんど制約を感じずに開発できるようになったという。このOSの登場でエンドユーザーも大きく前進し、もはや元には戻れなくなるだろう、と語っている。

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