スティーブ・ジョブズCEOに代わってフィル・シラー上級副社長が登壇したWWDC 2009の基調講演は、「OS X」プラットフォームの大躍進の話から始まった。
2007年はじめの時点で2500万人規模だったOS Xユーザーは、そこから急激に増え始め、今では7500万人の大台にのろうとしている。その理由は4000万台のプラットフォームになろうとしているiPhone/iPod touchの躍進にある。だが、アップルは同OSが誕生したMacのプラットフォームそのものも進化させてきた。
基調講演はまずMacの新ハードウェアの説明を中心に進められた。フィル・シラー氏は、プロユーザーに人気の15インチMacBook Proに、17インチモデルと同様のバッテリー技術、つまり交換不可の本体内蔵型バッテリーを採用することで、バッテリー駆動時間を最大7時間と従来よりも2時間延ばしたことを紹介した。このバッテリーは交換不可とはいえ、1000回は再充電ができる(通常の製品は300回ほど)。つまり、平均的な使い方で約5年間はバッテリーが持つということで、プロユーザーがPCを乗り換えるサイクルよりも長い。また、同構造を採用したことにより、ゴミの量も3分の1に減らすことに貢献している。
これに加えて、新しいMacBook Proは、色域が60%も広くなった新LEDバックライト液晶ディスプレイを採用し、ExpressCardスロットに代わりSDメモリーカードスロットを備え、CTOオプションに3.06GHzのCore 2 Duoや、最大8Gバイトのメモリー、最大500GバイトHDDまたは最大256GバイトSSDの選択肢を追加した。
だが、さらに驚いたのは、これまでMacBookと呼んでいた13インチ液晶搭載モデルが、新たにMacBook Proに格上げされ、15インチモデルと同じ特徴を備えた点だ。つまり13インチモデルも同様に、7時間駆動の一体型バッテリーを内蔵し、60%広い色域を持つディスプレイやSDメモリーカードスロットを装備し、メモリ搭載量は最大8Gバイトに、ストレージは最大500GバイトHDD、または最大256GバイトSSDが選択可能になった。また、従来はMacBook Proとの差別化のために省かれていたFireWire 800ポートやイルミネーションキーボードといった特徴も備えるようになっている。この発表により、MacBook Proシリーズは、13インチ/15インチ/17インチの3つの液晶サイズが選べる製品としてラインアップを一新した。
なお、基調講演後に実施されたインタビューによれば、この製品ラインアップの変更により、これまでMacBook Whiteと呼ばれ特別扱いされていた白いポリカーボネート仕様のMacBookが、コンシューマー向け製品のMacBookとして正式にラインアップに返り咲くことになる。同製品は約2週間前の仕様変更で、ひっそりとCPUとHDD容量が強化されたばかり。同製品がとくに強いのは教育市場で、このタイミングで仕様がアップデートされたのは、まもなく始まる新学期(米国は9月)の製品導入の検討期間にあわせたためだ。
このほか、今回行われたラインアップの一新とともに、薄型軽量を売りにしたMacBook Airシリーズも大幅に価格が下げられた。その結果、MacBookは10万8800円から、MacBook Proシリーズは13インチが13万4800円から、15インチが18万8900円から、17インチが27万8800円から、そしてMacBook Airが16万8800円から購入可能になった。フィル・シラー氏は、新しいノート型Macのラインアップを、「最も手頃なラインアップ」と紹介している。
Netbookと呼ばれる安価な(製品によっては5万円を切るものもある)ノートPCが流行し、アップルにも同じ価格帯の製品を出すことを求める声が強くなっていたが、同社は常にある一定の水準を満たした製品しか売らない方針を貫いてきた。そして今回、同社はそうしたアップルの水準を保ちつつも、ぎりぎりまで価格を下げて、製品としての魅力を高めることに挑戦したようだ。実はその裏には、Macのハードウェアとソフトウェアの両面で、技術水準をレベルアップしようという狙いがあるのかもしれない。
新しいMacBookシリーズの紹介が終わると、壇上にはOS Xソフトウェア担当の上級副社長、バートランド・サレー氏が登場した。Windowsに手厳しいコメントを残すことで人気の副社長だ。
同氏はまず、Windowsマシン向けの雑誌でMac OS Xが「大半のコンシューマーを満足させる圧倒的に優れたOS」と高く評価されていることを挙げた後に、「Windows Vistaはメインストリームのユーザーをつかむのに失敗し、ビジネスからも閉め出された」というInformationWeekの記事を紹介。そして、マイクロソフトはWindows Vistaの失敗をとりつくろうために、新OS「Windows 7」を開発しているが、そのWindows 7にしても、DLLやレジストリ、ディスク最適化、ユーザーアカウント制御といった前時代的な技術で、使うユーザーを困らせている、と指摘した(ここで会場内からは喝采や笑い声)。
このWindows 7に対して、アップルが今年の9月にリリースするのが、新OS「Mac OS X “Snow Leopard”」だ。サレー氏は、Snow Leopardの特徴は3つあると語る。1つ目はOSとしての洗練、2つ目は新しい技術基盤の追加、そして3つ目は(Microsoft) Exchangeへの対応だという。
まず洗練という点で見ると、OSとしての機能の90%が見直され、ブラシュアップされた。例えば、Mac OS Xの顔とも言えるファイルブラウザ機能の「Finder」。評判がいいので、大きく見た目をいじることはしていないが、これまではCarbonという技術で実現していた機能を、Snow LeopardではCocoaという技術で書き直した。
この作り直しによって、アイドル時の負荷が小さくなったり、アイコンの描画が速くなったり、ゴミ箱を空にする操作が速くなったり、サービスメニューとの連携が強化されたり、ディスクの排出操作が改善されたりと、さまざまな点で使いやすくなっている。
Finderウィンドウの右下にはアイコンのサイズを変更するスライダが追加され、リアルタイムでアイコンサイズを変更できるようになった。また、書類を開いた状態のサムネイルアイコンで表示する点は従来通りだが、マウス操作でサムネイルのページ送りをしたり、ムービーを再生したりすることも可能になった(現行のLeopardでもCoverflow表示では、ページ送りやムービー再生ができたが、Snow Leopardでは書類アイコンそのもののサムネイルイメージが操作できるようになるのだ)。
Mac OS Xの人気機能であるExpose機能も、さらに磨きがかかった。Exposeには、開いているアプリケーションの全ウィンドウを一覧表示するモードと、アプリケーションごとに、そのアプリケーションの全ウィンドウを並べて表示するモードがあるが、Snow Leopardでは、このアプリケーション単位の表示をドックのアプリケーションアイコンをクリックして切り替えられる。マウスからの操作が断然しやすくなっているのだ。
このおかげで、Finder上で見つけた写真ファイルのアイコンを、開いているウィンドウで埋め尽くされた状態でも、簡単なドラッグ&ドロップ操作でMailの新規メールに添付できるようになる。
さらに、ユーザーとSnow Leopardとの最初の接点となるOSインストール作業そのものもブラシュアップが図られた。OSのインストールは約45%速くなり、インストール後の容量は6Gバイトほど減った。つまり、同OSをインストールすると、それだけでMacのHDDに6Gバイト分の空き容量が増えることになる。
パフォーマンスも改善される。プレビューというアプリケーションを使ってJPEG画像を開くスピードは2倍に、PDFは1.5倍まで速くなり、段組みが行なわれたPDF書類でのテキスト選択時は、きちんと段を認識したうえで選択できるようになる(これまで意図に反して、勝手にとなりの段のテキストが選ばれてしまうことがあった)。メールアプリケーションでもあらゆる操作が速くなっている。
また、QuickTimeは大幅に改良を施したQuickTime Xにアップグレードされる。QuickTime Xの特徴は、新しい技術基盤で全体的に書き直されたこと、ハードウェアアクセラレーションに対応したこと、ColorSyncによる正確な色表現が可能になったこと、そしてhttpストリーミングに対応したことの4つだ。動画の表示インタフェースも大幅に改良された。動画コンテンツをじゃましないようウィンドウの枠が省かれ、存在感を主張しすぎない黒いタイトルバーだけになり、動画上にオーバーレイ表示される半透明のムービー制御ボタンも、操作後しばらくするとフェードアウトして消えるようになった。
このほか、新たな文字入力機能として、最近のノート型Macで大型化したトラックパッドに指を使って文字を描くとそれを手書き認識する方法が加わった(ちなみにデモは中国語で行われていた)。
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