ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズは9月11日、携帯電話の評価用試作機から金を抽出し、半導体に加工して携帯電話に再利用する資源循環プロセスを確立したと発表した。このプロセスを採用した最初の携帯電話を、au向け端末として2010年に出荷する予定。すでに市場に販売された使用済みの携帯電話を回収して金を抽出するプロセスはあるが、携帯電話メーカーが自社の試作機を回収して金を新製品に再利用するのは国内初となる。
ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ 常務取締役の高垣浩一氏は「使用済みの携帯電話を集める自主回収活動はすでに開始しているが、さらに何かできることはないかを考えた際、“試作機”に注目した。現在、携帯電話には1機種あたり数千台の試作品を使っており、これまでは廃棄物として処理していたが、これを再利用したいと考えた」と取り組みの経緯を説明した。
ソニー・エリクソンは環境への取り組みとして「化学物質管理」「省エネ・地球温暖化防止」「資源循環(リサイクル)」の3つを展開している。今回の資源循環プロセスは、3つ目のリサイクルに踏み込んだものとなる。
資源循環プロセスでは、ソニー・エリクソンがこれまでに開発した試作機約5000台を自主回収し、そこから約230グラムの金を抽出、約30キロメートルの金線へ加工する。その後、携帯電話約100万台分の半導体を製造し、加工した金線を含む半導体を携帯電話の新製品に利用する。加工された金線は半導体のアンテナ用スイッチMMIC(モノリシックマイクロ波IC)に使われている。
なお、今回の実験にはソニーグループが排出した廃基板処理や、ソニーが北九州市で2008年9月から実験してきた小型電子機器回収のノウハウを活用している。今回製造した約230グラムの金の中には、ソニーが北九州市で使用済み小型電子機器から自主回収した金が40グラムほど含まれる。この新しい取り組みは「ソニーグループの協力があって実現できた」(高垣氏)。
ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ 社会環境室の蔵田竜一氏は金に着目した理由について「携帯電話は電気を通して作動する部品が多いので、導電性の高い金を採用した。また金は金メッキのように広く伸ばして使えることも大きい」と話した。ただし商品の生産数に応じて試作機が作られているわけではないので、「少量の金でも使える半導体を探した」という。
約5000台の試作機から約100万台分の金を抽出できたということは、試作機1台で200台分の金を抽出できる計算になる。「(日本国内の)ソニー・エリクソン製携帯の試作機は年間5万台ほど製造されている」(蔵田氏)ので、単純計算すると、資源循環プロセスを採用した半導体を利用できる携帯電話は年間約1000万台に上る。
一方、金の資源循環プロセスの期間は、ソニー 調達本部 第1調達部門 機構部品1部 資源循環室 室長の山縣朋仁氏によると、使用済み試作機から金を抽出して金線へ加工するまでに約3カ月、半導体を製造するまでに数カ月、計半年程度を要するという。蔵田氏は「金鉱山から再生した金も、家電から再生した金も品質は同じだが、金線にするまでの方法が異なるので、材料が一緒でも再評価に時間がかかる。開発ロスを抑えないと、1年という製品開発サイクルでは実現できない」と話す。2010年以降も毎年・毎商戦、金の資源循環プロセスを継続するかは未定とのことだが、いかに効率よく品質を評価できるかがカギとなりそうだ。
金の資源循環プロセスを立ち上げるにあたり、ソニー・エリクソンはパートナー企業との役割分担を34パターンほど検討した結果、ソニーと組むのが得策だと判断。金属系廃棄物の分別と排出はソニー・エリクソン、貴金属の精錬と部品への再生はソニー、製品への使用はソニー・エリクソンが担当することになった。同社は最初のステップである分別と排出を実践するにあたり、社内ルールを変えたという。「試作機にはバッテリーやポリ袋などがセットになっている。従来はまとめて廃棄していたがこれを分別し、排出は都度ではなく、一定量たまったらまとめて行うようにした」(蔵田氏)
今回の資源循環プロセスで使用する半導体は現在は1品種のみだが、「半導体は複数品種に増やしたい。また対象となる金属についても、銀や銅、パラジウムなどの採用も検討している」(高垣氏)。同社は今後も「環境への負荷を低減する活動に積極的に取り組んでいく」とした。
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