チェーンメールというシステムの欠陥小寺信良「ケータイの力学」

» 2010年07月13日 08時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 前回は、チェーンメールというねずみ算式の情報拡散方法に問題があるのではないか、というところまで考察した。今回はその続きである。

 チェーンメールがどのように拡散していくのかを、実際にトレースすることは難しい。なぜならばメールは私信であり、「通信の秘密」の原則に則って、その内容を検閲することができないからである。そこで情報の拡散がある程度確認できるTwitterで同様の例がないかを調べてみた。

 たまたま7月6日、「USTREAM Asiaが日本の著作権理事業者と楽曲の利用許諾に関する包括契約を締結」というニュースが流れた。リリースの内容をよく読めば分かるように、これはJASRAC、イーライセンス、JRCの3社が管理する楽曲を「演奏する」こと、「演奏に合わせて歌う」ことが可能になったということであった。

 しかしこのカッコ書きされたところだけを読むと、放送局との間で以前行なわれてきたようなタイプの包括契約、つまり音楽をそのまま流していいような印象を受ける。このタイトルだけが一人歩きすると、当然起こりうる誤解である。案の定、「Ustreamで音楽を流せるようになった」と縮めてツイートしたものが、Twitter上に広まった。

 あるフォロワーの多い1ユーザーのTweetに注目して検索してみると、この発言が約70人にRTされた結果、本人のフォロワー数と合計で、情報拡散総数としては4時間弱で約8万人という結果が出た。1人の発信元でこれだけの数なので、それ以外の発信元まで含めれば、数倍から数十倍の拡散数になるはずである。

 もちろんオリジナルのリリース文までリンクを辿って読めば、正確なことが分かるのだが、カッコ書きされた本文だけを読んで誤解した人も相当にいただろう。しかしTwitterの場合は、情報が修正されるのも同じように速いという特性があるので、すぐに別の発信者を中心とする正確な情報で、上書きされていった。筆者の元にも、巡り巡って両方の情報が届いた。上記の情報をRTした人の中には、訂正情報の方が先に届いていた人もあった。

開いたシステムと閉じたシステム

 Twitterのシステムと、チェーンメールの情報拡散を比較してみると、いろいろ見えてくるものがある。まずチェーンメールでは、伝送されるルートを遡ろうと思っても、直前の人しか分からない。したがって全体の伝送ルートは、誰にも把握できない。

 一方Twitterの場合は、RTでIDが連なってくれば、前の前の人は誰だったかぐらいまでは分かる。あまりにもIDが多すぎると省略されることもあるが、それでも2〜3階層までは遡れるわけである。ある程度ルートが分かるということは、人間関係も分かりやすいということである。友だちの友だちぐらいならば、直接つながれることもあるだろう。伝達ルートが可視化されることで、修正情報も別ルート、あるいは逆ルートで拡散することが可能である。

 情報ルートが確認でき、誰の発言でも探せるということは、改ざん防止にも役立っている。間違った情報や、オリジナルとは違う情報が流れてきたら、誰のRTで書き換えられたのか、発言を遡っていけば分かるからである。

 しかしチェーンメールでは、1世代しか遡れないという点に加えて、それがメールという私信であるが故に、前の人に届いたメールの内容をこちらが確認する手立てがない。途中で改ざんされても、誰にも分からないのである。これは、Twitterが公開情報として内容を伝達しているのに比べて、チェーンメールは非公開情報であるメールシステムで情報を伝達するからである。

 チェーンメールで訂正情報が流れず、投げっぱなしになってしまうのは、やはり年齢的なものもあるだろう。訂正情報の流布とは、正確な情報を伝え直すということに加えて、自ら不正確な情報を伝達した誤りを認めるということでもある。大人ならばこれまでいくつかの失敗を乗り越えて、自分の自尊心よりも社会利益を優先すべきであるということは理解できる。

 しかし、中学生ぐらいの時の自分自身を振り返ってみてほしい。初めてケータイやメールを使い出し、そして半ば恐怖心からチェーンメールの伝達に荷担してしまった子どもには、そのような自らの過ちを認めるのは難しいだろう。

 これらいくつかの要素が巧妙なバランスを作り出しているが故に、チェーンメールは何度でも何度でも蘇り、撲滅されることがないのだと考えられる。いわゆるトイレの花子さんのような話と一緒で、オリジナルから尾ひれが付いてさまざまなバリエーションを産み出し、都市伝説化していくのと同じである。

 しかし、少なくともこの考察により、なぜチェーンメールは内容の如何に関わらず、ダメと言えるのか、理由が付けられたように思う。ネットの問題は、巻き込まれる人が増えるにしたがって、ルールやマナー、あるいはネチケットの名の下に対策がパターン化され、理由が抜け落ちる傾向がある。「ダメなものはダメ」などという教え方ではなく、立ち止まって理屈を考えることで、親も子も成長できるのではないだろうか。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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