10月30日、シカゴで4G Worldが開催されたが、この中でWiMAXの標準化団体であるWiMAXフォーラムが、今後のWiMAXアップデートについて発表した。発表内容は「WiMAXの将来の拡張で、3GPPが策定するTD-LTEのコアネットワーク標準の一部を、Additional Elementsとして参照する」というもの。表現としては分かりにくいが、要は部分的にTD-LTEとWiMAXが互換性を持つということだ。
翌日にはUQコミュニケーションズがニュースリリースを出し、「WiMAX 2+」の仮称でWiMAX Forumの打ち出したAdditional Elementsに準拠した通信サービスを提供する、と発表した。しかし、多くの報道はそれぞれを単体で伝えるもので、全体の枠組みの中でWiMAXがどう変化するのか。従来のWiMAXはどうなるのかなど、分からないことが多い。そこでUQコミュニケーションズに、彼らの考えるWiMAXサービス像に関して尋ねてみた。そこで見えたのは、以前よりもアグレッシブに新技術へと投資しようとする意欲だった。
話を進める前に「“Additional Elements”にて、TD-LTEの一部を参照する」という追加仕様の意味について書いておきたい。
WiMAXはOFDMA(直交周波数分割多重アクセス)という変調方式に基づく無線通信方式で、信号処理の世代としてはLTEやXGPなどと同じだ。一般的なLTEはOFDMAを変調方式に、FDD(周波数分割複信)で復信(上り、下りを同時に通信すること)を実現する方式だが、WiMAXはOFDMAを変調方式に採用し、復信にはTDD(時分割復信)を用いている。
変調方式は言語体系、復信方式は伝達手段と考えればいいだろうか。同じ言語体系でも、伝達方法が異なれば理解し合うことはできない。しかし、言語体系と伝達方法がそろえられれば、相互理解は進むだろう。
3GPP(もとは第3世代携帯電話網の標準化プロジェクトだが、現在はLTEを含む第四世代の標準化も進めている)が策定したTD-LTEは、その名前からも分かるとおり、LTEを基本に復信方式をTDDにしたものだ。したがってTD-LTEは、変調方式にOFDMAを採用し、復信方式にTDDを使っているWiMAXとは親戚関係となり、とても近しい間柄の通信方式である。
ただ、言語体系は同じでも、言語そのものや細かな約束ごとが異なるので、TD-LTEのネットワーク上でWiMAXを運用できるわけではない。もともとは同一体系の技術に基づいているので、(WiMAX 2+では)WiMAXの手順に従って接続できるが、データ通信の変調方式などはTD-LTEとまったく同じにしよう、ということになった。これが「3GPPが策定したTD-LTE仕様を一部参照」の意味だ。
表向きはWiMAXでも、実際の通信手順はTD-LTEと完全互換という関係にあるので、TD-LTE対応基地局を“Additional Elements”対応WiMAX(UQコミュニケーションズで言うところのWiMAX 2+)に容易に対応させることができる。ちなみに「一部を参照」としたのは、TD-LTEが持つすべての仕様に対応する必要性がないため。純粋なデータ通信網であるWiMAXと異なり、携帯電話向けに開発されたLTEには、音声通話に関する約束事も含まれている。それ以外の、例えばサービス仕様、USIMカード仕様、音声コーデックなどなどの仕様は、WiMAXには必要がないため参照していないということだ。
まとめると、WiMAX 2+と名付けられた、UQコミュニケーションズが将来サービスインをもくろんでいる高速通信サービスは、TD-LTEとまったく同じ言語と伝達手段で通信するということ。
TD-LTEは中国最大手の携帯電話事業者、中国移動通信(China Telecom)が次世代網として導入を検討しているほか、インドでのサービスが見込まれている。WiMAXのみでしか使えない基地局に比べ、基地局の機器調達のコストは大幅に安くなることが見込める。これがAdditional ElementsとしてTD-LTEの一部をWiMAXに取り込んだ理由である。
ご存知の通り、ソフトバンクが出資するWireless City Planning(WCP)が展開するXGPの後継技術AXGPも、WiMAX 2+とほぼ同じ要領でTD-LTEを参照している。WCPは、OFDMA+TDDだったXGPの無線区間技術を、より安価な機材調達が期待できたTD-LTEのものに置きかえAdvanced XGP(AXGP)とした。
つまりWiMAX 2+とAXGPは、会話を始めるためのちょっとした手続きが違うだけで、基本的には同じ無線方式ということになる。ただし、実際には基地局の打ち方などネットワークの組み方で違いが出てくる。また、相互乗り入れに関しても、若干のハードルはあるものの、不可能ではないとのことだ(もっとも、両社の親会社がライバル同士のため、相互乗り入れは、よほどの大きな変化がない限り難しいだろう)。
では今後のUQ WiMAXサービスはどうなっていくのだろう? XGPの場合、開始する予定だったXGPサービスそのものが本格的にサービスインされていなかったため、そのままAXGPで上書きすることができた。しかし、UQ WiMAXは2.5GHz帯に割り当てられた30MHzを10MHz×3で展開している。完全に使い放題で帯域制限のないサービス形態ということもあり、場所によっては通信帯域はいっぱいいっぱいの状況だ。この帯域を削るわけにはいかない。
そこで、UQコミュニケーションズは次世代WiMAX技術の802.16mに対応する「WiMAX 2」の開始を目指し、モバイル放送(モバHO!)の休止で空きが出る20MHz帯をWiMAX 2で利用する申請を総務省に出していた。実際、展示会などで実験環境ではあるが、130Mbpsを超える速度も見られた。WiMAX 2はWiMAX ForumのWiMAX Release 2.0という仕様に準拠する。実証実験は終わり、大手町周辺では実際に移動しながらその速度を体験するイベントも開かれたが、総務省の周波数割り当て審議は遅れに遅れ、WiMAX 2サービス開始のめどが立たなくなってきた。本来のスケジュールなら、2012年前半には割当先が決まり、基地局投資が進んでいるはずだったのだ。
しかし、現時点でも周波数の割り当ては決まっておらず、ちまたでは衆院選を挟んで新しい政権が生まれるまでは、話が進まないだろうと言われている。そんな折にAdditional Elementsを含む新しいWiMAX Forumの仕様(WiMAX Release 2.1)が発表されたので、UQコミュニケーションズは、申請している新規周波数の割り当て20MHz幅を獲得した場合、WiMAX 2ではなくWiMAX 2+で使うことにした――。これが連日の発表の流れだ。
今後、UQコミュニケーションズはWiMAX 2+とWiMAXの間をシームレスに行き来するネットワーク構築のための技術開発、実証試験を行っていく。基地局のアンテナはそのままに装置だけをWiMAX 2+(WiMAXも同時サポート)に置き換える方式で対応し、両方のエリアをハンドオーバーさせる。
速度に関しては、同じTD-LTEを用いる他方式を含めた中で、最も高速なサービスとなるよう開発するとのこと。WiMAX 2の下り最大165Mbpsの速度とTD-LTEは、技術仕様の面で同等レベルで、通信速度に関しても同様とのことだ。UQコミュニケーションでは導入時期の違いなどからネットワークの改良を施し、少なくともAXGPよりも高速な速度を実現できるよう準備を進めるという。海外には同様にWiMAXへの投資を行ってきた事業者が多数あるため、彼らと連携して既存のWiMAXをWiMAX 2+に移行していくノウハウを共有。仲間を増やすことで、WiMAXを巡るエコシステムを縮小させないようにする。
ただし課題もある。WiMAX立ち上げ時にはインテルが全面協力し、多数のPCに非常に安いコストでWiMAXモジュールが内蔵されていった経緯があったが、WiMAX 2+にはそうした“ブーストアップ効果”を引き出す要素はない。
もっとも、トータルで言えば利点の方が大きい。TD-LTEとの互換性が高いことから、接続する端末には将来、事欠かなくなるだろうと想定されるからだ。Additional Elements対応のエリアが増えてくれば、WiMAXとWiMAX 2+の切り替えではなく、Additional Elementsシングルモードの端末も実用性が高まってくる。auが展開する+WiMAXのように、音声ハンドセットとの接続もしやすくなる。
UQコミュニケーションズでは2013年度下期にWiMAX 2+の導入を目指すとしているが、それも総務省の周波数割り当て次第。既存基地局の装置部だけを置き換えるため、作業が始まればかなり早いタイミングでの切り替えが可能と予想されるが、周波数の割り当てが2013年春ぐらいまでズレ込むようだと厳しいだろう。一方、2012年内か来年早々にも割り当てが決まれば、来年の今ごろは、新たなる高速通信サービスが誕生しているかもしれない。
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