“実測100Mbps以上”で世界観が変わる――UQ野坂社長に聞く「WiMAX 2」の展望(1/2 ページ)

» 2011年08月02日 09時40分 公開
[田中聡,ITmedia]

 下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsの高速通信が利用できるUQコミュニケーションズのUQ WiMAX。2009年のサービス開始以降、好調に契約数を伸ばし、2011年6月15日には100万契約を達成。2011年5月には基地局数が1万5000局を超え、人口カバー率は全国で71%、東名阪主要都市で99%に達している。

 そんなUQ WiMAXが、新たなステージに突入しようとしている。同社はWiMAXの次世代規格「WiMAX 2」(IEEE802.11m)の実証実験を進めており、20MHzの帯域幅を用いることで、下り最大165Mbps、上り最大55Mbpsの速度を実現する。7月6日には報道陣向けに公開テストも行い、実測で150Mbpsの通信が可能なことを披露した。現在は総務省の審議を待つ状態だが、WiMAX 2の商用化は2013年度を予定しており、さらに上を行くモバイルブロードバンドの提供が期待される。UQコミュニケーションズの現状、そして今後の展開について、同社代表取締役社長の野坂章雄氏と、技術部門 副部門長 兼 ネットワーク技術部長の要海敏和氏に話を聞いた。

女性ユーザーも増加、「これ何なの?」から少し認識されてきた

photo UQコミュニケーションズ 代表取締役社長 野坂章雄氏

―― 100万契約を突破したということで、ユーザー層も広がっていると思います。ITリテラシーがそれほど高くない人たちも増えているようですね。

野坂氏 ようやくそこに来たという感じです。特に女性ユーザーが増えていますね。100万〜300万契約あたりは女性をはじめとする一般ユーザーへの普及がカギになります。最近は女性誌でも、WiMAX PCは女性の生活にフィットするといった宣伝が目立つようになりました。お母さんの視点だと、車内で充電ができるからキャンピングカーで使って、ニンテンドーDSの通信に使うというイメージでしょうか。最近は勝間和代さんや(明治大学教授の)齋藤孝さんなど感度の高い方がWiMAXを使っていることが話題になっており、そういったことも追い風になっています。

 弊社は定期的に「お客様の会」を開いていますが、女性ユーザーの参加者も増えてきています。ただ、まだまだルーターの概念が分からない人も多い。「これ何なの?」から少し認識されてきた感はありますが。(ソフトバンクの)白戸家じゃないけど、その人の生活シーン似合う利用法を示せばいいのでは、という意見もいただいています。

photo UQ WiMAXのCMでは、ガチャピンとムックがUQブルーに染まったWiMAXの使者「ブルーガチャムク」として登場する

―― 今オンエアしているガチャピンとムックのCMで、そのあたりの障壁がなくなりつつありますか?

野坂氏 あのCMでは「40Mbpsのインターネットを持ち運べること」を訴えています。特に固定ブロードバンド特有の配線工事が不要なのが大きい。若い女性は、自宅に配線業者のおじさんが入ってこないのがいいという人もいるでしょう。ただ、あのCMでも“その先”を説明する人が必要なんですよね。猫を使った「入ってる?」よりは分かりやすいと思いますが、まだ気付きの段階ですね。

―― モバイルWi-Fiルーターを使いながら、電波がどこから出ているのかが分からない人がいるという話もたまに聞きます。女性ユーザーが増えているということですが、男女比はどのくらいでしょうか。

野坂氏 データを集めたことはありませんが、ほとんどが男性です。直感的には男性8:女性2。7:3は行っていない気がします。

―― 利用者の年代はどのくらいでしょうか。

野坂氏 大きな像で言うと、やはり20代〜40代の男性です。

WiMAX対応電子書籍リーダーやカメラも登場する?

photo 日本初のWiMAX対応スマートフォン「HTC EVO WiMAX ISW11HT」

―― WiMAX対応端末も広がっています。

野坂氏 もともとはデータ端末から始まりましたが、最近は持ち歩けるルーターがポイントになってきています。スマートフォンやタブレット、iPod touch、ゲーム機と組み合わせて40Mbpsのスピードが出ることが訴求できています。新規契約者の6割ほどがルーターを購入していて、あとは2割強がPC、2割弱がデータ端末という感じです。WiMAX対応ルーターを購入するのは、Wi-Fiスポットを持ち歩く感覚ですね。スマートフォンやタブレットが普及したことも大きい。

―― auからはWiMAXを内蔵した「HTC EVO WiMAX ISW11HT」も発売されましたし、この秋には対応機種がさらに増えることが期待されます。

野坂氏 私もこの秋のWiMAXスマートフォンには期待しています。米国の(WiMAX事業者)Clearwireも、WiMAX対応スマートフォンの影響で契約数を伸ばしています。

―― カメラや電子書籍リーダーなども含めたマルチデバイス化への期待も高まりますが、具体的に話を進めているところはあるのでしょうか。

野坂氏 電子書籍リーダーやカメラメーカーとはかなり話をしています。現実感のあるところでは4〜5社ですが、これから先は料金提示をしないといけない。「(ユーザーが)ずっと使うわけじゃないので、たまに使うときはいくらですか?」と聞かれることがあります。

―― こうした端末メーカーとは、WiMAX 2を見越した話もされているのでしょうか。

野坂氏 皆さんWiMAX 2には興味を持たれていますが、まずはWiMAXから提供します。WiMAX 2が開始されたら、例えば対戦型ゲームは圧倒的に違ったユーザー体験が得られるでしょう。そのへんの期待はありますね。

―― ゲームや電子書籍など、UQがコンテンツを管理するといったこともあり得るのでしょうか。

野坂氏 それは考えていません。それをやるとKDDIやドコモになってしまう。我々はオープンネットワーク、オープンデバイスを掲げているように、物理的なデバイスがインターネット機器になることが重要だと考えています。

―― 一番可能性を見出しているデバイスはありますか?

野坂氏 進行中の商談があるので下手なことは言えませんが(笑)、写真、ゲーム、本で(展開する)というのはあります。電子書籍はまだこれからという感はありますが。

WiMAX基地局のアンテナを増やしていく

野坂氏 WiMAX 2導入の背景として、WiMAXルーターがものすごいトラフィックを生んでいることが挙げられます。PCデータ通信の月間トラフィックは7Gバイト近くになっています。スマートフォンの普及でトラフィックがフィーチャーフォンの10倍くらいになったと言われていますが、それでもデータ通信ほどではない。我々はPCやルーターを扱っているからこれだけのトラフィックが生まれる。さらにタブレットやスマートフォンが加わっていきます。このままいくと、2012年度中に都心の一部でトラフィックがオーバーフローするという観測もあります。我々はデータ専業ですから、トラフィックをどう処理するかが使命だと思っています。

 WiMAX 2を加えてシステムをバージョンアップすることで、データの増加に対処し、結果として電波の利用効率が上がってビット単価が下がる。これが一番大きな目的です。2010年のCEATECで実施したデモでは40MHzの帯域幅を使って下り330Mbpsを出せました。今回の実証実験では20MHz幅の電波を割り当てていただいたので、ちょうど半分の165Mbps、WiMAXの4倍ほどの速度が出ます。

photophoto データ通信のトラフィック量は年々増加している(写真=左)。WiMAX 2導入の目的(写真=右)

 通信可能なデータ容量を増やすには、基地局を増設する方法もありますが、これ以上大都市に高密度で基地局を打つのは困難です。100メートル間隔で増設すると、基地局が干渉してかえって速度が落ちてしまうというのが技術陣の見解です。そこで周波数帯を追加して新技術のWiMAX 2を導入するわけです。

 (WiMAXとWiMAX 2の後方互換を維持できるので)WiMAX 2の基地局はWiMAXに重ねていきます。WiMAXとWiMAX 2のトラフィックを吸収できるので、お互いにとってプラスになります。もちろん、WiMAX対応端末だけだとトラフィックを吐き出せないので、今後はWiMAX 1/2の両方が使えるミックスモードのデバイスを出していく必要があります。まずはデータ端末やルーターから入り、その後はPC。チップのコストが下がってきたらスマートフォンやM2Mデバイスにも入ってくるでしょう。

photophoto WiMAX 2は、2の「電波利用効率の向上」と3の「周波数の追加」を合わせたものになる(写真=左)。WiMAX 2端末がWiMAX 2対応基地局を使うことで、WiMAXの帯域が空いて通信がより安定し、システム全体の容量アップを実現する。1つの基地局でWiMAXとWiMAX 2の両方をカバーできるので、お互いにとってプラスになる(写真=右)

―― M2Mといえば、WiMAX搭載自動販売機など、法人向けソリューションにもWiMAXが使われていますが、このあたりもWiMAX 2で変わってくるのでしょうか。

野坂氏 法人向けはどちらかというと、KDDIが展開している分野です。WiMAX 2が始まるとさらにニーズが増すとは思いますが、当面はコンシューマーデバイスに注力していきます。監視カメラ、カラオケ、写真シール機などのデジタルサイネージにWiMAXが採用されていますが、今は速度よりも常時接続の方が重要なので、上下10Mbpsくらいで十分というところが多いんです。100Mbpsでどんな需要が出てくるかは、話をしてみないと分からないですね。

photo UQコミュニケーションズ 技術部門 副部門長 兼 ネットワーク技術部長 要海敏和氏

―― WiMAX 2の基地局は、具体的にどのように増やしていくのでしょうか。

要海氏 新しくアンテナを建てていきます。WiMAX 2で高速化を図るためには4×4MIMOでアンテナを追加していく必要があります。IEEE802.16e(WiMAX)とIEEE802.16m(WiMAX 2)ではアンテナの設計が少し違うので、共用するよりは新しく作った方がいいんです。WiMAXの2×2MIMOを足すので、基地局のアンテナは6本になるイメージです。

―― KDDI大手町ビルの基地局を見学したことがありますが、この基地局も同じようにアンテナが増えていくのでしょうか。

要海氏 大手町の基地局には、3本×2つのアンテナエレメントが入っています。WiMAX 2ではよく見たらケーブルが多く見えるくらいで、外観はそのままに4つのエレメントが追加されます。

―― 工事の手間は……。

要海氏 それほどではないですね。アンテナと装置があって、ケーブルが何本かつながっているくらいなので。

―― 基地局の装置は変更するのですか?

要海氏 装置も変えます。2007年に設計したものを2008年から使っているので。WiMAX 2のタイミングで5年ほどが経つので、プラットフォームを設計し直すにはいいタイミングだと思います。装置はSamsung、日立、NECに製造いただいていますが、WiMAX 2の基地局をどこにお願いするかはまだ決めていません。

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