「iPhoneから切り替えてほしい」――エイサーが日本でSIMフリースマホを投入する理由SIMロックフリースマホメーカーに聞く(2/2 ページ)

» 2015年11月27日 20時00分 公開
[石野純也ITmedia]
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AndroidはiPhoneに追い付き、追い越している

―― このタイミングで日本市場に参入した理由を教えてください。

宇佐美氏 やはり製品は子育てのようなもので、作っているうちにどんどん成長してきます。ソフトメーカーとわれわれハードメーカー、チップメーカーと日々詰めていき、問題をつぶしていくとパフォーマンスも上がります。Androidはものすごくサクサク動きますし、今もどんどんよくなっています。Windowsに関しても、メーカーとして納得がいくパフォーマンスが出せる時点で出したい。「日本エイサーのWindows Phoneは動きが遅いよね」と言われてしまいたくはありません。

 Androidはそこに達したということです。今までは、ソフトやハードを一緒に作っているiPhoneにはどうしても勝てないというイメージがありましたし、確かに2、3年前まではiPhoneが強かった。自分自身もAndroidを使っていて、iPhoneを持ったときに「すごい」と思いました。ただ、ここに来て、Androidが追い付き、追い越しているというのは実感してます。ですから、端末を出すうえでは、いいタイミングなのではないかと思っています。

楊氏 5.0以降に関しては、かなり納得がいくOSになっています。UIもそうですし、デザインもそう。ここ最近のGoogleさんの努力もあって、われわれのデバイスとOSががっぷり四つに組めるようになりました。ここが1つのターニングポイントです。

 また、PCベンダーとして、われわれはマーケットリサーチに重点を置いています。社内リソースも限られているので、一気にいろいろなリージョン(地域)で始めるのではなく、フォーカスポイントを絞って展開を進めています。まずはまだ3Gがメインの国でどんどん経験を積んでいき、そこから成熟国、さらには日本のような超成熟国に安心して製品を持っていくというのがわれわれの戦略です。今が、そのタイミングだということです。

 また、同じ台湾のASUSさん、HTCさんや、韓国のLGさんなど、ライバルはいち早く参入しています。彼らの出してきた製品をしっかり勉強していきます。それはいいところも、よくないところもです。

 サポートの面もそうで、使ってもらううえでユーザーエクスペリエンスがいいのは当たり前。万が一トラブルが起きたとき、どう対応していくかが重要です。これはモノを提供するメーカーの責務です。そこで全てのサポート領域をしっかり見直し、キーとなるパートナーと組ませていただき、グローバルとは違う日本独自のスキームを入れました。コールセンター、修理、ディストリビューターも含め、日本にしっかりとしたプロダクトを出せるようになったのが本日(Liquid Z530の発売日)ということなのです。

Z330は、通常のLTE対応機種の価格帯では出せないモデル

―― Liquid Z530はミッドレンジですが、ここに関してもまずは真ん中から攻めていくというお考えでしょうか。

楊氏 高い価格帯には、オペレーターさんの専用端末がありますからね。ソニーさんのXperia、シャープさんのAQUOS、サムスンさんのGalaxyがあり、そのうえでiPhoneまであります。そういったところの価格帯は、競合がひしめき合っているという認識です。まずは日本のマーケットで無理のない戦略を取り、お客さまの声を聞いていきながら、徐々にボトムからアップしていくビジネスをやっていきたい。リスクマネジメントもしっかりしていきたいと考えています。

―― 逆に、楽天モバイルさんにはLiquid Z330を導入しました。スペックはより低くなりますが、1万2000円というのはかなり衝撃的な価格ですね。

楊氏 楽天さんとの出会いは、2月のバルセロナ(Mobile World Congress)にさかのぼります。われわれのブースに来ていただき、そこから話が始まりました。かれこれ、10カ月ぐら至っています。

Liquid Z330 楽天モバイルから提供する「Liquid Z330」

宇佐美氏 あの金額ですが、スペックには高い要求を突きつけられました(笑)。ですから、部品メーカーとの交渉から、詰めています。

楊氏 日本エイサーは品質に、厳しいクライテリア(基準)を設けています。そこにミートしながらの、あの価格帯です。ヘッドクォーター側のスマートフォンビジネスグループの仲間には、かなり頑張ってもらいました。通常、あの価格帯でLTE対応モデルは出せません。

宇佐美氏 プロモーションという意味では、大きいですからね。そこに応えていければ、われわれのチャンスも拡大しますから、努力をしてきました。

楊氏 われわれとしても第1のキーパートナーとして、アグレッシブにやっていきます。平井副社長は第4のキャリアとして、1000万契約を掲げています。全体数をそのレベルまで持っていくという大志ですね。われわれも、その大志はサポートしていきたいと思います。

競合製品がひしめく中でのZ530の強みとは

―― なるほど。グローバルモデルをそのまま持ってきたというわけではないんですね。

楊氏 もちろんグローバルモデルのLiquid Z330がベースにはなっていますが、そこに楽天さんの独自アプリや、ドコモさんの周波数帯をカバーした(LTEのBand 1、3、19、28対応)スペシャルなモデルになっています。われわれ独自でIOT(インターオペラビリティテスト:相互接続性試験)はしていますし、楽天さんもやっています。

宇佐美氏 自分たちのエンジニアだけではなく、オペレーターさんが認証をやっているテスト会社と組んでIOTをやっています。ドコモさん、KDDIさんなどのIOTをやっている、かなり実績のある会社と組ませていただいています。

Liquid Z530 日本市場参入の鍵を握る「Liquid Z530」

―― Liquid Z530はミッドレンジのど真ん中という印象ですが、この価格帯は競合製品も多いと思います。その中での強みはどこにあるとお考えでしょうか。

宇佐美氏 正直われわれは後発なので、他社さんはリスペクトしていますが、あまり気にはしていません。一番お客さまにお伝えしたいのは、Androidの良さであり、2万円台でこんなにサクサク動くということです。個人的には、ターゲットはiPhoneだと思っています。結局会議などでみんなが使っているケータイを見ると、半分ぐらいがiPhoneだったりしますからね。ですから、iPhoneから切り替えてもいいのではというメッセージをお伝えしたい。そこからパイをちょっとでももらえればいいと思っています。

 こんなことを言うと社長に怒られてしまいますが(笑)、正直、今はAndroidの中で一番にならなくてもいいとすら思っています。Android全体のパイが上がってくれれば、少しはうちの数も増えるのではないでしょうか。(Android端末メーカーの)他社を否定したりということは、全く考えていません。

 女性の方にはiPhoneがいいと口コミで広まっていますし、自分もかつてAndroidを使っていたときは遅いと感じていました。ただ、今はAndroidも使い勝手がいいですし、結局iPhoneで使っているのも、LINEやTwitterなどのアプリケーションです。どうやったら金額を抑えられるか、どうやったらキャリアの縛りから抜けられるかを考えて、うちを選んでいただけるとうれしいですね。

グローバルでもボトムアップのビジネスを目指す

―― ここまで本腰を入れられるようになったのは、グローバルの事情の変化もあったのでしょうか。

楊氏 グローバルのストラテジーとしても、ポスト・ジャンフランコ・ランチ(現・レノボ COO)の時代に、会社として赤字が2年続いてしまいました。その中で、新しいビジネスに対する投資がなかなかできなかったのは事実です。そのため、他社よりもスマートフォンに本腰を入れるのには、時間がかかりました。ただ、おかげさまで2014年には黒字に転換して、それは2015年も続いています。より投資ができ、アグレッシブにラインアップを構築できる体制になりました。グローバルの助けなしでは、日本のビジネスも成り立たないですからね。

―― グローバルでもようやく本格的にスマートフォンを展開する体制が整ったということですね。ただ、アプローチはどちらかというと、下から攻めて上に行くというように聞こえて、フラッグシップから派生した廉価モデルを作っていくメーカーとは逆の印象も受けます。その理解で正しいでしょうか。

楊氏 グローバルの中でも後発組で、ようやくエマージングマーケット(新興国市場)のオペレーターさんと契約ができてきている状況です。2015年に関してはグローバル全体で800万台ぐらい、ここから徐々に増やしていければと考えているところです。

 スマートフォンに変えていないお客さまは、まだまだグローバルにもたくさんいます。そういう方々に、まずはスマートフォンのよさを提供したい。ほかの皆さんがタッチしないテリトリーから入ってき、ボトムアップでビジネスをしていくことを考えています。

 われわれは台湾の会社で米国や中国の会社とは違います。大きな組織で一気に動くというよりは、小回りが利いて、それぞれの国の文化を知ってそこから築き上げていく。これが台湾スタイルです。

ブックオフでの販売を通じてサポートを学んだ

―― ボトムアップという点では、ブックオフでの販売から何か得たことはあったのでしょうか。

楊氏 もちろんあります。われわれとしては日本市場で初の試みですからね。ただ、その時は1バンド対応で3Gのみでした。まずはああいう仕組みを取り、日本に製品を用意するためには、どういった工程が必要なのかを非常に勉強しました。また、ブックオフの後ろにいるパートナーさんがどういうものを求めているのかも、しっかり学びました。

Liquid Z200 ブックオフで販売している「Liquid Z200」

宇佐美氏 特にサポートは勉強になりました。どういう問い合わせがあるのかすら、未知の領域でしたからね。PCと同じオペレーションでいいのか、どういうところと組めばいいのかは、ものすごく考えました。爆発的にヒットしてしまうとサポートが追い付かないこともあり、限られた人数でスタートするという点で、ああいった取り組みになっています。

楊氏 その経験を生かして、PCとはまるっきり違う体制を作り出しました。コールセンターからリペアまで、全部PCとは違う、スマホビジネスに精通しているところにお願いしています。

―― ちなみに、SIMロックフリー端末を発売しましたが、大手キャリアの採用を狙っていくお考えはありますか。総務省で議論がされた結果として販売モデルにメスが入れば、ミッドレンジモデルが求められる可能性もあります。

楊氏 徐々には狙っていきたいですね。既にお話をしているプロダクトもありますが、まずはうちが体力をつけなければいけない。うちはサムスンさんやファーウェイさんのような大所帯ではないので、身の丈に合ったお付き合いができればと考えています。

取材を終えて:エイサーの参入は遅くなかった?

 グローバルでも、スマートフォンメーカーとしての存在感を徐々に高めている日本エイサー。日本市場に本格参入できた背景には、全社的にスマートフォンを拡大している方針があった。また、日本市場に合わせた体制を構築することにも、時間をかけたことが伺える。MVNOの拡大を受け、一気に広がったSIMロックフリースマートフォンだが、まだ割合は全体の数%といったところ。その意味では、日本エイサーの参入も決して遅くはないのかもしれない。Windows 10 Mobileの端末を開発できる有力な1社としても、注目しておきたいメーカーだ。

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