同じ垂直統合でも戦略は対照的――「FREETEL」と「TONE」が目指すもの石野純也のMobile Eye(11月21日〜12月2日)(2/2 ページ)

» 2016年12月03日 06時00分 公開
[石野純也ITmedia]
前のページへ 1|2       

1機種を磨き込むTONEは音声定額や子ども向けサービスを拡充

 端末を自社で開発しつつ、MVNOとしてはオープンな方向を目指すFREETELに対し、TONEは垂直統合を強く志向するMVNOだ。「端末自体を自社で作っている。それも1機種。10機種ではなく、1機種で10倍のコストをかけて作る」(石田氏)というのが、TONEの方針。ソフトウェアまで徹底的にカスタマイズしており、端末と回線はセットで提供する。他社のSIMロックフリースマートフォンの販売も「軸がぶれる」(同)という理由で行っていない。そのTONEが重視しているのが、「端末のスペックよりも顧客価値」(同)だ。

TONE 垂直統合を強く志向するTONEのビジネスモデル
TONE 端末は1機種を中心に提供。ソフトウェアで新味を出していく

 現行の主力モデルは、2015年に発売された「TONE m15」。7月に合計28項目に及ぶ大型アップデートをかけ、その結果として「端末への満足度もアップしている」(石田氏)。ハードウェアの種類を増やすのではなく、ソフトウェアでバリエーションを出すというのがTONEの方針。子どもに持たせることを想定した機能制限や、シニア向けのシンプルなユーザーインタフェース(UI)などは、全てTONE m15の中に入れ込んでいる。発想としては、iPhone1機種で幅広い層をカバーするAppleに近い。

TONE 現行モデルの「TONE m15」で、初めてLTEに対応した

 多モデル展開する方向性については、「端末数を増やすと夜も眠れない資金繰りになってしまう(笑)。エグゼモード(石田氏がかつて手掛けたハードウェアベンチャー)でそれは懲りた」と否定的だ。大手キャリアと比べるとリソースが限られるMVNOが端末を増やそうとすると、SIMロックフリースマートフォンメーカーから調達せざるをえなくなる。そうなると、端末はどうしても横並びになりがちで、差別化が難しくなる。1機種に集中しているのは、大手キャリアに比べるとリソースの乏しいMVNOならではの戦略といえるだろう。

 端末から回線、サービスまで、全てを1社で手掛けることで、バラバラだと提供が難しい機能も実現している。12月のアップデートでスタートした「あんしんインターネット」はその1つだ。あんしんインターネットは、フィルタリングサービスと一体になったブラウザで、開発には1年半をかけ、「ファームウェアまで作り込んでいる」(石田氏)という。単なるアプリとして作ると、「子どもに解除されてしまうおそがある」からだ。

TONE 充実した子ども向けの安心機能を搭載する

 あんしんインターネットは、閲覧制限機能をネットワーク側から親が設定できるだけでなく、子どもがどうしても見たいサイトがある場合は、“おねだり”することもできる。子どもから、制限解除のリクエストを受けた親が個別に判断して、そのサイトを見せるかどうかを決められるため、「ご家庭の形に合わせて運用できる」(石田氏)というわけだ。

TONE 子どもが親に閲覧許可のリクエストを送れる「あんしんインターネット」

 TONE m15に搭載されたIP電話アプリにも、端末とネットワークを垂直統合的に提供するメリットが生かされている。「IP電話の(品質を保つうえで)一番の問題がWi-Fiだった。Wi-Fiにはさまざまな環境があり、変なものをつかんでしまうと着信もできない」(石田氏)という欠点を解消するために、このアプリは、Wi-Fi接続時でも、強制的にLTEで通信を行う仕様になっている。もちろん、LTEも無線区間の混雑などはあるため、100%というわけにはいかないが、Wi-FiよりはTONE側で品質を管理しやすくなる。

TONE IP電話接続時に、Wi-Fiを経由しないよう設定できる

 このIP電話アプリにもアップデートがかかり、月額700円(キャンペーン時は500円)で、最大10分までの通話が無料になる音声定額を開始した。「お子様とシニア層、ファミリー層が多い」(石田氏)という同社のユーザーは電話を使う頻度も高く、定額プランのニーズが高かったためだ。こうしたユーザー層が安心して使えるよう、定額が終わる30秒前の9分30秒で通知音を鳴らす機能も搭載した。

TONE 9分30秒でアラームを鳴らす機能も搭載した

 同じ垂直統合のビジネスモデルを目指すFREETELとTONEだが、その方向性は真逆だ。オープンを志向し、他社端末の提供にも踏み切ったFREETELに対し、TONEは1機種1料金を貫き、地道にユーザーを増やす方針を変えていない。当然、どちらにも一長一短がある。FREETELの場合、端末のバリエーションが多く、幅広いユーザーを狙うことができる。ハードウェアの進化にキャッチアップしやすいのも、メリットといえるだろう。逆に、TONEほど、ネットワークレイヤーやアプリレイヤーと端末が密接に連携したサービスは、提供できていない。

 対するTONEの場合、端末、回線、アプリをバラバラで提供している以上のサービスを実現できる一方で、ハードウェアのバリエーションが限られてしまい、新機種の提供スパンも長くなるため、どうしても店頭の変化が出しづらい。代わり映えがしないと思われてしまうと、ユーザーが店頭から遠のいてしまう恐れもあり、実際、MVNOの主要ユーザーである30代、40代の男性層が手薄になっている。現時点では、どちらのビジネスモデルが正解かは見えていないが、単に料金を安くする“格安スマホ”にとどまらない異色のMVNOとして、今後の動向にも注目しておきたい。

基本情報から価格比較まで――格安SIMの情報はここでチェック!→「SIM LABO

格安SIM、SIMロックフリースマホのすべてが分かる

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2025年12月06日 更新
  1. 飲食店でのスマホ注文に物議、LINEの連携必須に批判も 「客のリソースにただ乗りしないでほしい」 (2025年12月04日)
  2. NHK受信料の“督促強化”に不満や疑問の声 「訪問時のマナーは担当者に指導」と広報 (2025年12月05日)
  3. 「スマホ新法」施行前にKDDIが“重要案内” 「Webブラウザ」と「検索」選択の具体手順を公開 (2025年12月04日)
  4. 三つ折りスマホ「Galaxy Z TriFold」の実機を触ってみた 開けば10型タブレット、価格は約38万円 (2025年12月04日)
  5. 「楽天ポイント」と「楽天キャッシュ」は何が違う? 使い分けのポイントを解説 (2025年12月03日)
  6. 楽天ペイと楽天ポイントのキャンペーンまとめ【12月3日最新版】 1万〜3万ポイント還元のお得な施策あり (2025年12月03日)
  7. 楽天の2年間データ使い放題「バラマキ端末」を入手――楽天モバイル、年内1000万契約達成は確実か (2025年11月30日)
  8. ドコモが「dアカウント」のパスワードレス認証を「パスキー」に統一 2026年5月めどに (2025年12月05日)
  9. NHK ONE、簡単には「閉じられないメッセージ」表示へ 目的は“NHK受信料”の徴収 なぜ強引な仕様に? (2025年11月12日)
  10. 鉛筆デザインのiPad用スタイラスペン「Nelna Pencil」発売 物理ボタンに9機能を設定可能 (2025年12月03日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー