IIJが「フルMVNO」に取り組む2つの理由 佐々木氏が解説:IIJmio meeting 15(2/2 ページ)

» 2017年04月24日 12時00分 公開
[房野麻子,ITmedia]
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IoTが横並びを打破する?

 通信業界でIoTが注目されているのは、人が通信サービスを利用するキャパシティーが限界に近づいているため。これからはモノとモノ、モノと人がインターネットにつながることで、新しいサービスが生まれることが期待されている。

 しかし、IoTにも課題はある。MVNOの課題を明確にするために、佐々木氏が例として取り上げたのは、子どもと自然な会話ができるぬいぐるみだ。ぬいぐるみの中にはスピーカーとマイクが入り、文脈の解析処理はネットワーク側がアシスト。定期的に新しい会話やボキャブラリーがダウンロードされ、飽きずにずっと楽しめるぬいぐるみを企画したと仮定する。

フルMVNO IoTの例として、しゃべるぬいぐるみをMVNOが開発、販売した場合を考えてみると、さまざまな問題が出てくる

 すると問題がいくつか出てくる。クラウドベースでコントロールするとなると、Wi-Fiで接続するかモバイルデータ通信でするかが問題になる。Wi-Fi版の場合は家にWi-Fiが必要で、SSIDやパスワードを入力させる方法を考えなくてはいけない。スマホ経由でSSIDを入力させることも可能だが、ユーザーにリテラシーが必要になる。

 モバイルデータ通信を採用した場合はどうか。一般的にぬいぐるみを購入するのは、孫にプレゼントする祖父母が多い。ぬいぐるみを使うには通信契約が必要だが、息子夫婦に契約させて、SIMカードを挿して、というやり方は想像しにくい。SIMカードをぬいぐるみに挿した状態で売ることもできるが、在庫時の通信料金は誰が負担するかという問題が残る。そもそも、ぬいぐるみで重要なのはかわいらしさで、どのキャリアのSIMを使っても問題にされず、SIMカードの交換ができるかどうかは重要ではない。

 通信料金をぬいぐるみの代金に含めるのは分かりやすいが、後日、ぬいぐるみをオークションで売ることになったらどうか。SIMカードを抜いて、携帯電話のようにSIMカードなしのモデルが出回り、購入者がSIMを入れて使うことになるのか。「非現実的なシナリオがいくつかあり、難しい問題がある」(佐々木氏)

 考えられる課題を整理すると、通信サービス事業者にとってIoT時代に重要になるのは、接続行程の簡便化と、料金設計の自由度だ。これらを実現するときに「一番簡単な道だったのが、IIJにとってはフルMVNOだった」(佐々木氏)。

フルMVNO 接続と料金設定の自由度のハードルを下げることが重要。そのためにはフルMVNOになることが必要

フルMVNOとは何か

 では、フルMVNOとは何か。世界的にフルMVNOの明確な定義はないが、おおむねね「MNOのコアネットワークの一部を自前の設備で運用しているMVNO」という意味だと佐々木氏は説明。コアネットワークを持たないMVNOが「ライトMVNO」で、日本のように、コアネットワークとインターネットのゲートウェイだけを持っているMVNOを、フルMVNOとするかライトMVNOとするかは国によって考えが変わるという。日本ではライトMVNOとされている。

 日本では、コアネットワークの中にある「HLR/HSS」という機械を自前で運用しているMVNOがフルMVNOということになってきている。

 HLR/HSSとは、SIMカードを管理するためのデータベースのことで「加入者管理機能」とも呼ばれる。SIMカードにはさまざまな情報が書き込まれているが、その情報をデータベースとして管理し、SIMカードを実際に使えるようにするためのサーバのことだ。フルMVNOになってHLR/HSSを持つと、SIMカードを自前で発行できるようになる。

フルMVNO HLR/HSSの説明

 自前でSIMカードを発行できると、製品に適したSIMカードを供給できるようになる。現在は標準、micro、nanoSIMカードしか扱えないが、くまのぬいぐるみの中に入れるとなると、特別なSIMカードが必要だ。しゃべれるぬいぐるみなので何らかの基板が入っているはずで、組み込みチップのようなSIMも使える。一方、とにかく安いSIMがいいという場合もあれば、クルマに搭載するとなると、夏の炎天下では80度にもなるといわれる車内で耐えるSIMが必要になる。自前でSIMカードを発行できるので、こうした要望にもIIJが応えられるようになる。

 また、設定や料金面の課題を解消できる。組み込みタイプのSIMになると、電源を入れただけでネットワークにつながるようにすることも、かなり容易にできるようになるという。料金設計の自由度が増し、売り切りモデルや月額課金モデルも分かりやすく設定できるようになる。SIMカードの開通や廃止をIIJがコントロールできるようになるので、在庫期間中のコスト削減が可能になるほか、廃止したSIMカードの再利用も可能になるという。

フルMVNO SIMカードを自前で発行できるようになると、製品に適したSIMカードを自ら提供でき、IoT機器の設定や料金面での自由度が増す

未定の部分はまだまだ多い

 IIJはドコモと約2年の協議を経て、HLR/HSSを独自に持つフルMVNO化を達成した。「テンプレートから外れた契約をMVNOがキャリアと交渉し、たどり着いたことはエポックメイキング」(佐々木氏)な出来事だ。

 HLR/HSSを自前で運用することにより関与できる範囲が広がり、IIJ自身が責任を持って、より自由にサービスを充実させることできるようになる。とはいえ、「完全に自由ではない」(佐々木氏)。基地局はMNOに借り、交換機も持っていないものが多い。それでも、「われわれがキャリアさんの設備の一部を自前で動かすようになることで、競争がしやすくなっていくのではないか」と佐々木氏は期待する。

 ただ、ユーザーにとってのメリットはまだ分かりにくい。例えば国際ローミングサービスを1枚のSIMカードで実現するにも解消すべき課題があるという。また、今回のドコモとの協議はデータ通信についての合意のみで、音声通話サービスは含まれていない。音声通話サービスには非常に難しい規制や課題があり、広範囲に渡っての事業者間協議が必要。今後、取り組むべき課題がたくさんあると佐々木氏は語る。

フルMVNO フルMVNO化を宣言したが、IoT以外の通信サービスについては、検討すべきことが多い

 「フルMVNOの話は、まだ全体の1割くらいしか語っていない。われわれが伝えなくてはいけないことはたくさんあるが、われわれの中でもまだ決まっていないこと、決まっていても話せないことがたくさんある。引き続き、IIJが何を考えているかを伝えていきたい」

 日本で最初のフルMVNOとして、これからサービスを始めるIIJ。今後の動きに引き続き注目していきたい。

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