「CUDAもDirectComputeも競合しない」──SIGGRAPH Asia 2009 NIVIDAプレスカンファレンス

» 2009年12月18日 14時33分 公開
[長浜和也,ITmedia]

 12月16日からパシフィコ横浜で「SIGGRAPH Asia 2009」が行われている。このイベントは、コンピュータグラフィックス開発者向けの最新技術を発信することが目的で、北米で“本祭”ともいえるSIGGRAPHが年に1回開かれるほか(2009年は8月にニューオリンズで行った)、アジア地域でも年1回のペースで「SIGGRAPH Asia」が開かれている。このイベントに、GPUメーカーのNVIDIAも参加し、米国本社から主要な幹部スタッフが来日して同社の最新技術をアジアのグラフィックス関連技術者にレクチャーした。

 SIGGRAPH Asia 2009の初日となった12月16日は開発者向けのテクニカルセミナー「GPUコンピューティング・マスター・クラス」「Tech Talk」が行われ、12月17日には、NVIDIA フェローのデビット・カーク氏による基調講演とNVIDIA本社の幹部スタッフによるプレスカンファレンスが開かれた。SIGGRAPH Asia 2009で扱うのは、グラフィックス関連の開発者向けに特化した内容になるが、プレスカンファレンスでは、エンドユーザーも気になるCUDAとDirectComputeの関係や、コンシューマー向け製品におけるGPUコンピューティングの影響に言及している。ここでは、そこで紹介された話を取り上げよう。

競合するより重要なことがある。

 プレスセッションでは、NVIDIA モバイルコンテント上級副社長 兼 クロノスグループ プレジデントのニール・トレベット氏からOpenCLとTegraの最新情報が紹介された。トレベット氏は、OpenCLが普及するために必要な条件として、並行処理コンピューティング市場の成長と統合した開発環境の構築を挙げている。この件については、NVIDIA フェローのディビット・カーク氏も、「GPUコンピューティングの開発はまったく新しい世界だ。この新しいプログラムに対応できる環境と人材を育てなければならない。新しい世代の人材を育成するために、NVIDIAは、CUDAの解説書執筆活動や、大学のカリキュラムなどを支援している」と語る。

 GPUコンピューティングの開発環境として、「Open CLとCUDAは競合するのではないか」という質問に対して、トレベット氏は「NVIDIAは“OpenCL クロノスワーキンググループ”の取りまとめであり、OpenCLをサポートしたGPUを最も早くリリースした」と述べた。また、マイクロソフトのDirectComputeに対しても、「CUDAもOpenCLもDirectComputeも、GPUコンピューティングに対応したプログラム開発環境の選択肢に過ぎない。“CUDA C”は高級言語のCと同様にプログラムが記述できる一方で、OpenCLは低レベル(ハードウェアにより近い)でコンピュータリソースを制御できる。開発者は用途によって使い分ければいい。それよりも、今は、マルチコアに対応したプログラムが増えてくれることが重要だ」と、それぞれが競合するものではないと訴えた。

GPUコンピューティングを実現する開発環境の構成。CUDAもOpenCLもDirectComputeも開発環境の1つだ。目的と習熟度に応じて開発者が選べばいいとNVIDIAは説明する(写真=左)。クロノスグループが進めているOpenCL策定作業スケジュール。現在は1.1のフィードバックを集めていて、その反映させた内容を2010年前期に確定する予定だ(写真=右)

 これまで、GPUコンピューティングの利用目的として、HPCなどによる複雑なシミュレーションにフォーカスが当たっていたが、トレベット氏は、PCやモバイルデバイスにおける動画データのトランスコードや動画の再生アクセラレーションといった、コンシューマー利用についても訴求している。

 この項目で特に強調していたのが、Adobe Flash Player 10.1がNVIDIA ION、GeForce TegraプラットフォームでGPUアクセラレーションに対応したことだ。トレベット氏は、Adobe Flash Player 10.1をGeForceやIONプラットフォームで利用することで、Netbookで採用されているインテルベースのAtomプラットフォームでは快適に利用できなかった、フルスクリーンにおけるHD、SDクラスの動画再生が可能になると、CUDAに対応したNVIDIAプラットフォームの優位性をアピールした。

HPCやサーバレベルで訴求してきたGPUコンピューティングも、GeForce、ION、Tegraプラットフォームにおいて動画のエンコードや再生支援などのコンシューマー向け用途でも利用機会が増えつつある(写真=左)。Adobe Flash Player 10.1がGPUアクセラレーションに対応したことで、Atom搭載のPCでもこれまでできなかったHD、SDクラスのフラッシュ動画再生がIONを採用することで可能になる(写真=右)

GPUコンピューティングはTegraでも

 モバイルデバイス向けのTegraでも、Adobe Flash Player 10.1の導入でフラッシュ動画の再生が快適になる。トレベット氏は、消費電力15ワットのCore 2 Duo(動作クロック1.8GHz)搭載ノートPCがCPU負荷率100%でフレームレート37.20となるフラッシュ動画を、消費電力0.15ワットのARM11統合Tegra600プラットフォームでフレームレート39.31になる例を示した。

 現在、Tegraプラットフォームを採用した携帯端末としてマイクロソフトから「Zune HD」が登場している。Zune HDは720pの動画再生が快適にできる(ドッキングステーションからHDMIで大型テレビに接続して画像を表示することも可能)だけでなく、IEEE802.11b/gでWebブラウジングも可能だ。

 現在、Tegraプラットフォームを採用した製品としては、Zune HD以外に目立った動きが見られない。サンプルベースでは、COMPUTEX TAIPEI 2009でノートPCタイプのTegraマシンも多数展示されていたが、まだ、正式にリリースされたとは聞いていない。Tegraを採用した製品の登場時期についてトレベット氏は「NVIDIAはそれぞれのメーカーについて語ることはできないが、それでも、2010年には多くの製品が登場するはず」と述べるにとどまった。

 プレスセッションでは、TestaやQuadroがカバーするHPCにおける動向も紹介された。「次の大きな変革は、膨大なプロセッサによるビジュアリゼーションコンピューティング」というNVIDIAの考えを示し、これからのハイエンドコンピューティングでは、グラフィックス処理と通常の物理演算処理の境界がなくなりつつあるとし、その実用例として、車開発における流体シミュレーションや医療向け超音波3D表示システム、Industrial Light & Magicが開発した映像エフェクト処理システムなどが紹介された。

Adobe Flash Player 10.1がGPUアクセラレーションに対応することで、ARMを採用するTegraプラットフォームでもフラッシュ動画が快適に再生される(写真=左)。HPCやワークステーションにおける大規模シミュレーションの世界では、ビジュアル処理と通常の演算処理の境界がなくなりつつあるという。その例として紹介された流体シミュレーションでは、本物のように描画された車のCGに物理演算で描かれる流体の動きが表示される(写真=右)。ほかにも、Industrial Light & Magicが開発した映像エフェクト処理システムでは、CPUで13時間かかっていた処理がQuadroなら10秒で済んでしまった例が紹介された


 NVIDIAはSIGGRAPH Asia 2009で展示ブースも設けており、ここで紹介したトピック以外に、グラフィックス関連の開発者向けに、PhysXとともに、今回の展示でNVIDIAが最も力を入れているレイトレーシングエンジンの「OptiX」や、映像機器などで注目を集めている「GeForce 3D Vision」のライブデモを多数行っている。会期は土曜日の19日までなので、NVIDIAの最新技術を体験しながら米国本社の開発スタッフと意見を交換したい技術者は、会場に足を運んではいかがだろうか。

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