以前紹介したキルギスの西にあるウズベキスタン共和国(以下、ウズベキスタン)は、人口約2700万人と中央アジアで最大の人口を抱える。その首都タシケントにも、中央アジアでは最大級となる200万人近くの人が住む。街には中央アジアで唯一の地下鉄が3路線も走っている。中央アジアを駆け巡るアジアン・アイティーは、ウズベキスタン最大の都市タシケントと、第3の街で世界遺産の街のサマルカンド、さらに第5の街で同じく世界遺産の街のブハラに潜入し、バザールやIT系ショップで“ナマの”IT事情に触れてきた(キルギスのIT事情は月収1万円でハイエンド携帯電話を選ぶキルギスのIT事情を参照のこと)。
ウズベキスタンで「家電やPCを売っている有名な街はあるか?」と尋ねれば、誰もが「タシケントに大きなマーケットがあるよ」と胸を張る、ウズベキスタン人自慢の街がある。地下鉄「G'ofur G'ulom」(ガーフル・グラム)駅の近くにあるこの家電街は、長さ1キロほどの大通り沿いに家電系ショップが連なる。各ショップの広さは、秋葉原でいうところの小さなショップが2、3店舗集まったような感じだ。その店内に白物家電からAV家電、PCまでが売られているが、特に冷蔵庫やエアコン、テレビが主力のようだ。扱っているメーカーはSamsungやLGなどの韓国メーカーが強く、そこに日本やドイツのメーカー製品も並ぶ。店頭に並ぶ製品の価格帯もは、上はソニーのBRAVIAから、下は「Roisen」というウズベキスタンローカルメーカーの製品までと幅広い。なんと“本物の”iPhoneも並んでいた。
「Roisen」は付加価値をつけず、既存部品を組み立てただけのシンプルな製品を販売するウズベキスタンの総合家電メーカーだ。国民からも「安かろう悪かろう」と認識されているそうだが、それでも多くの家庭や職場で同社製品を見かけた。ウズベキスタンで自国生産品が広く使われている状況は電気製品だけでなく車も同じで、「ネクシア」などのウズベキスタン製の車が普及している。こうした背景には、市場規模(人口)がそれなりにある以外に、ウズベキスタンでは、関税を製品価格並みに課しているため、輸入品が約2倍もの価格になってしまうという事情が影響している。
ウズベキスタンの1人当たりの国内総生産は500ドル強と、旧ソ連領各国の中で最も低いレベルにある。国民の所得水準も低く、PCは手の届かない存在だ。以前、この連載でも紹介したキルギスでは、本職月収1万円以下が普通で、副業をしないと家族持ちは普通の生活すら難しいが、ウズベキスタンの所得水準はキルギスを下回るのが普通。しかも、ウズベキスタンの通貨「ソム」が数年前からハイパーインフレを起こしている。こういう経済状況では、ウズベキスタン国民の生活もまた大変だろうと容易に察することができる。「PEMOHT」と書かれた修理屋はどこにでもあり、人々は電器製品を一度買ったら買い換えず長く使う。
先ほど紹介したように、家電街では高級品が売られているが、こういう状況のウズベキスタンでは誰もが買えるわけでない。所得が低い国々の多くがそうであるように、ウズベキスタンでも携帯電話が「自分で買うことができる」最も魅力的なITガジェットだ。1台の携帯電話をMP3プレーヤーとしてもデジカメとしても使いこなすのは、ウズベキスタンに生きる若者の基本であるのは、キルギスに生きる若者のライフスタイルと変わりない。
使うお金に余裕がないウズベキスタンの若者は、買い物で失敗が許されない。それゆえ、人柱的な買い物なんてすることもなく、人気の高い定番モデルを買って長く使う。地元の人々に話を聞く限り、故障することなく長く使えるモデルに人気が集中するため、店頭に数多く並ぶ中国製のノンブランド製品を選ぶ購入者は少ないという。
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