庶民がPCを使うとき、より身近に感じるサービスは「インターネット接続」ではなく「PAYNET」だ。「PAYNET」という看板は都市部のいたるところに掲げられている。PAYNETとは、オンラインで公共料金や電話料金が払えるサービスを提供しているWebサイトではあるが、そこから転じて、100ウズベキソム(約7円)の手数料でPAYNETサイトを使って公共料金を代理で支払うサービスを呼ぶようになった。店舗を構えて行う業者もいれば路上の売店も扱っているこのサービスは、PCとネット接続環境があればだれでもすぐに始められる副業だ。店舗ならダイヤルアップかADSL回線を使えるが、屋台のような路上の売店となると、GSMのデータカードでネットに接続するのが一般的だ。
興味深いのは、PAYNETサービスを扱っている店舗の店員を見ていると、「暇なときに店のPCを使ってゲームで遊ぶっ!」という光景がほとんど見られないことだ。そういえば、ウズベキスタンのネットカフェでも、数時間もこもってPCを使っているユーザーはほんのわずかだった。ウズベキスタン人に「日本の事務職は8時間近くPCを操作している」といったら「僕には無理だ……」と驚いていた。長時間連続してディスプレイを見つづけるという行動がウズベキスタン人には人間の限界を超えていると認識されているようだ。

首都タシケントの市街地中心。PAYNETに海賊版ショップ、携帯電話ショップも写真の現像屋と多種多彩(写真=左)。このように店舗を構えたPAYNETはある一方で、屋台のような露店でもPAYNETを起業できる(写真=右)ウズベキスタンもキルギスと同様に、バザールや「ツム」と呼ぶ街の百貨店で多くの商品が集中して売られている。ただ、キルギスとウズベキスタンのバザールでは大きく異なる事情がある。キルギスのバザールでは、野菜から携帯電話まで値段が書かれているのが一般的だが、ウズベキスタンのバザールでは野菜はおろか携帯電話でさえ値段が書かれていることは珍しい。
バザールだけでなく、一般の商店で売られているペットボトルの水やジュースにも値段は書いてないし、タクシーもメーター制でなくドライバーの言い値だ。当然、ふっかけれらることは日常的という。ウズベキスタンを旅行した日本人の記録を検索すれば、知らないことをいいことに、長距離バスなどの公共交通でも不正に高い金額を徴収された例が確認できる。
ペットボトルの水や、タクシーの料金、長距離バスの運賃は地元の人々ならおおよその相場がなんとなく分かるかもしれない。だが、値札がついていない携帯電話の「適正価格」はどうやって把握するのだろうか。
すでに説明したように、携帯電話はウズベキスタンでも最も人気のIT製品であり、扱う店も多い。当然、店同士の販売競争は激しく、下手に値札を下げると口コミで、より安く販売している店に客が流れるから価格は明らかにしない。こういう事情は、扱う店がごく少数というデジカメやノートPCでも同様で、店頭に置いてある製品の価格を知ることはできないようになっている。ウズベキスタンにはPCやデジカメを扱う情報誌もないし、価格比較サイトもない。店頭で適正価格は分からない、価格比較もできない状況で、地元の購入者は必要以上に高い価格で購入していないだろうか。
どうもその答えは「イエス」らしい。IT製品が普及していないウズベキスタンでは、転売する相手はいくらでもいる。実際、日本を訪れたウズベキスタン人は、日本の中古PCショップで購入したノートPCやデジカメを帰国してからマージンを上乗せして売りさばくことが少なくない。そういうウズベキスタン人の1人に、日本製品の評判を聞いてみた。
「ウズベキスタン人の多くは、日本がどういう国かも知らないが、中国や台湾の安いNetbookよりも日本製PCは安くて頑丈(たぶん中古PCを指しているんだろうなと)。転売するときのセールストークは“長く使えるMade in Japan”“自分でPAYNETが始められて長く使える”なんてことを熱弁すればたいてい買ってくれるね。バザールに知り合いがいると情報がバザール中に広まってあっという間に売れるよ。あ、日本のPCをウズベキスタンで売りさばくときは、OSの設定でキー配列を英語にして、キーボードにスラブ文字のシールを貼る作業が必要なんだ。俺だって努力してんだよー」
……商売繁盛でなにより。
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