“謎の国”北朝鮮のケータイ事情に迫る韓国携帯事情

» 2009年06月24日 05時21分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 韓国の携帯電話サービスの発展は目覚ましいが、すぐ隣にある北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のケータイ事情はどうなっているのだろうか。一般向けの携帯電話サービスがあるのかないのか。存在するならばどの程度のユーザーが使っていて、どんな内容のサービスなのだろうか。厚いベールに覆われた“謎の国”のケータイ事情を、韓国から垣間見た。

GSMサービスを2002年から開始

 韓国政府の統一部が2003年2月に発表した資料によると、北朝鮮は2002年11月に首都平壌とロシア国境にある経済特区の羅先でGSM方式のサービスを開始したという。経済発展のためには携帯電話など通信網の充実が不可欠――という政府の判断によって導入されたようだ。タイのLoxleyグループ傘下のLoxley Pacificが事業化を進め、運用は政府との合弁企業である朝鮮逓信会社が行っていた。

 端末の価格は「高額に設定」(統一部)されていたようで、誰でも簡単に使えるものではなかったようだ。『韓国日報』は1台980ユーロ(約13万円)もしたと報道している。その後は端末の価格下落などで利用者も増え、北朝鮮のGSMサービスは約2万人が利用していたといわれている。

 2004年5月には、北朝鮮に居住する外国人も携帯電話を利用できるよう許可が下りた。ところが、これとほぼ時期を同じくして北朝鮮は、一般人が所有している携帯電話を回収し、使用を制限するようになった。はっきりとした理由は分かっていないが、韓国メディアは1カ月前に起きた龍川駅列車爆発事件がその引き金になったと見ている。

 2004年4月、中国国境に近い平安北道龍川郡の龍川駅で大規模な爆発事故が発生した。車両交換所で硝酸アルミニウムを乗せた貨物列車が衝突し爆発、約150人の死亡者と約1300人の負傷者を出したといわれている。この直後から北朝鮮は情報統制を強め、内部情報が外部に流出することを憂慮して、自国民の携帯電話利用を制限したようだ。

 ただ、人々のケータイ熱はさすがの北朝鮮政府でも統制できなかったのか、それ以降も一般のケータイユーザーが存在したようだ。『連合ニュース』によると北の住民たちは、中国国内から携帯電話をこっそり仕入れ利用していたという。中国内の基地局電波を使うため、丘の上など見晴らしの良いところに行かなければ通じないことも多かったというが、それでも便利さは何にも代え難く、政府が締め付けに躍起になるなか利用者は増える一方だったという。

加入者2万人を超えた3Gサービス

 北朝鮮内の携帯電話サービスは2004年春にいったん停止したが、一部の外国人向けに提供されたほか、中国から持ち込んだヤミケータイのユーザーもかなりに上ったようだ。

 それから約4年半。韓国統一部によると北朝鮮は、2008年12月からW-CDMAによる3G携帯電話のサービスを開始した。エジプトのOrascom Telecom(OT)と北朝鮮の逓信省が“チェオ”という合弁会社を設立し、「KORYO LINK(コリョリンク)」というブランドでサービスを提供しているという。

 同社は本サービス開始前の2008年5月から試験サービスを行っており、平壌とその周辺に12万6000人程度が利用できるサービスエリアとインフラを敷設した。『アジア経済』によると、チェオはサービス開始から3年間で4億ドル(約382億4800万円)を投じて、平壌を含む主要都市でW-CDMAサービスを提供していく予定だ。

 当初は高級官僚向けに“優待価格”として約200ドル(約1万9000円)で販売していたが、のちに一般向けに加入費と端末費を合わせて350ドル(約3万3500円)で発売。始めは思うように加入者が伸びなかったようだが、一般にも提供することで加入者が確保できたという。

 KORYO LINKケータイの加入方法は、最寄の電話局か郵便局に行って端末を購入し、身分証明書を提示するというもの。これにより、10けたの電話番号が与えられるという。また料金の支払いも、電話局か郵便局の窓口で行うこととなっている。

 値下げ効果もあってか、2009年4月には加入者が2万人を突破(統一部)するなど普及に向けて勢いを増している。また『NEWSIS』によると、5月からは新聞や政府発表など、一部の情報を見るためであればパケット通信も可能になったという。

 利用者が増えればビジネスの可能性も広がり、北へ進出を目指す企業も増えてくる。『電子新聞』によると、ベトナムの通信キャリアViettelが北朝鮮への進出を狙っているという。現在政府と交渉を行っているもようで、もし進出すれば独占状態のKORYO LINKと企業間競争も起こるだろう。またW-CDMAは韓国でも採用されている通信規格であるため、韓国企業の進出も有利になるのではという期待感も膨らんでいた。

 『電子新聞』によると北朝鮮の金正日主席は2008年、「科学技術発展のためには海外からも技術を導入することが大事」と発言したほか、同年9月からは小学校でもPC教育が始まるなど、ITに対する関心は国を挙げて高いといえる。

韓国との交流も

 IT分野における南北間の交流は、1989年の南北経済交流に端を発している。具体的には共同でソフトウェア開発を行ったり、ネットワークを構築するといった内容で、開始当時の韓国側協力企業はKTやSamsung電子、Hanaro Telecom(現SK Broadband)などそうそうたる面々だった。

 中でも携帯電話メーカーのVK Mobile(現在は会社再生法適用中)は、北朝鮮の三千里技術会社と携帯電話ソフトウェアの開発事業で提携した。GSM携帯に使われるソフトウェアを開発することを目的に、中国・北京の研究所で南北の技術者が共同開発を行っていたが、VKが不渡りを出したことから白紙撤回となった。

 また2004年6月には、LG Telecom(LGT)から北の三千里貿易総会が開発した「礼成川の将棋伝説」「プロビーチバレーボール」というモバイルゲームが配信された。特に礼成川の〜は、高麗時代の伝説に基づくストーリーの将棋ゲームで、試合に勝てば美女を獲得できるという内容だった。

 一般人には“北朝鮮製モバイルゲームを購入できる”くらいの実績しか目にできない南北技術交流だが、以前はまったく交流がなかったことを考えれば、これも大きな発展といえるだろう。

 現在、南北関係は決して良い状態とはいえないが、後に回復すれば今後さらに技術交流が盛んになると予測される。また、経済面で北朝鮮が解放されれば海外企業の流入も顕著になるだろう。政治や軍事などの問題で揺れる国ではあるが、技術発展への意思は高く、それだけに今後も大きな発展が見込まれる。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。弊誌「韓国携帯事情」だけでなく、IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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