今後10年で10兆円規模へ──自動車ビジネス×モバイルICTの新市場神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)

» 2009年10月15日 11時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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EVやカーシェアリングなどにも「モバイルICT」が必須

 EV(電気自動車)やカーシェアリングなど、自動車産業の新分野でも、モバイルICTの技術やサービスは欠かせない。そして、ここもまたモバイルICT産業にとって注目の新市場だ。

 まず、最近注目が集まるEVは、クルマ本体と街中の急速充電スポットとの連携にモバイルICTの必要性がある。EVの一般販売は2010年から本格化するが、弱点である“航続距離の短さ”をカバーするために、急速充電器の位置通知や案内サービスが欠かせないのだ。

 「EV用の急速充電器は(ガソリンスタンドに比べて)設置が簡単ですので、今後急速に広がっていくでしょう。ですから、サーバと連携して新たな充電スポットの位置をすぐにカーナビに反映する必要があります。その一方で、街中の充電スポットはガソリンスタンドのように専任スタッフが付きっきりで管理するというわけではなく、無人で運用されるケースもあります。こういった場合を考えますと、『充電器側に故障診断システム』を搭載して、オンラインで管理する必要があるでしょう。EV側には“正常に稼働中の充電器”の情報を通知・案内するといったサービスの必要性が出てきます」(三菱自動車工業 広報部)

PhotoPhoto 三菱自動車のiMiEVをはじめ、EVでは「急速充電」の管理や運用の領域でモバイルICTやオンラインサービスの需要がある

 また今後EVが増えていくことを想定すると、運用面からも充電インフラへの通信モジュール搭載とオンライン管理の必要性が出てくるだろう。その背景にあるのは、EVの充電時間の問題だ。EVの急速充電時間は、航続距離160キロ前後のタイプの場合、約30分で80%程度となる。つまり、1台のEVが充電を始めると、その急速充電器は30分間は利用できない。

 今後、EV用の急速充電スポットは増加するが、多くは既存駐車場を改良して2〜10台程度の急速充電器を設置する形になるだろう。となれば、EVが増えてくると、前車が充電中で待たされるといったケースも当然発生するのだ。この問題とドライバーの不満を解消するには、急速充電器の利用状況や混雑情報をオンライン管理によって“見える化”し、カーナビなどと連携しておく必要がある。

Photo カーシェアリングもモバイルICTを活用して実現可能になった新ビジネスだ

 一方、EVと並んで注目が集まるカーシェアリングも、モバイルICT活用が必須だ。

 カーシェアリングは会員制でクルマを“短時間・短距離”だけ貸し出し、ユーザーは基本料金と使った時間に応じた利用料金だけでクルマに乗れるというサービスだ。この仕組みではカーシェアリング車両のオンライン管理が必要になる。例えば、カーシェアリング最大手のオリックス自動車では、ドコモのFOMA通信モジュールを使った車載器と独自のテレマティクスサービスを開発・搭載してまでサービス運営を行っている。

 カーシェアリング事業はまだ黎明期の新ビジネスだが、パーク24や中古車販売大手のガリバーインターナショナルなども参入。今後は自治体や公共交通事業者、そのほかのロードサイド事業者などの新規参入も予想されている。となると、この分野に参入する事業者すべてが、オリックス自動車のように独自にシステム開発・運用ができる大手ばかりとは限らなくなる。今後さらに成長するカーシェアリング市場では、車載通信機の需要が伸びるだけでなく、カーシェアリング用テレマティクスの開発やASPサービスの需要も伸びていくだろう。

クルマ×モバイルICT連携市場を10兆円規模に

 クルマとクルマ関連ビジネスは今、100年に1度といわれる変革期に入っている。20世紀最大の産業である自動車産業は、大きく変わるのだ。その中で、モバイルICTは重要な役割を担うことになり、この分野のキャスティングボートを握るチャンスも多く存在する。今回のコラムで紹介できた事例は、氷山の一角だ。国際自動車通信技術展では、これら「クルマ×モバイルICT」の連携ビジネスや新規市場の可能性を、展示やカンファレンスで幅広く集めた。第一回ということもあり規模はそれほど大きくないが、モバイルICT産業成長のヒントがそこにはあると自負している。

 そして、クルマとモバイルICTの連携・融合市場には、今後10年で10兆円規模にまで成長するポテンシャルがあると、筆者は考えている。通信キャリアの新規契約だけでなく、モバイルICTを活用した新サービスや新ビジネス、モバイルソリューション開発、そしてまったく新しいMVNOまで、「クルマ」と「クルマ関連ビジネス」、そして「交通サービス」の分野には、それだけの新規市場を生み出す力があるのだ。そして、国内におけるこの新しい10兆円市場は、“クルマ”のビジネス特性を鑑みれば、その一部は海外展開も可能になるだろう。

 筆者は、今回の国際自動車通信技術展を、クルマ×モバイルICTの新ビジネス/新サービスを生みだし、育む「揺りかご」にしていきたいと考えている。モバイルICT産業の成長領域の1つとして、国際自動車通信技術展を見てもらえれば幸いである。

お知らせ

10月20日に、筆者である神尾寿氏とIT戦略コンサルタントの山崎茂樹氏が「クルマ × ICTの新ビジネスと新市場」をテーマにした特別講演を行います。時間は15時40分から16時30分、場所はコンベンションホールBです。


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神尾 寿『次世代モバイルストラテジー』

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