“物作り”の価値は少ない――ノキア シーメンスが語るインフラ企業のサバイバルワイヤレスジャパン2010(2/2 ページ)

» 2010年07月28日 10時38分 公開
[山田祐介,ITmedia]
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生き残るには「市場=世界」「グローバルで1つの製品」

photo NSNはもちろん、Ericsson、Alcatel-Lucent、Huaweiなど、主要なインフラベンダーは自国より海外の売上が大きい

 コスト削減のニーズに応えるには、世界市場を相手にマーケットボリュームを拡大する必要があると小津氏は説明する。同社は現在、150カ国以上に拠点を設け、取り引きする通信キャリアは約600社。マーケットを国内に閉じた場合と世界に展開した場合では、コストは「異次元の世界になる」と小津氏は語る。さらに、世界を相手に販売台数を増やすことは製品の改良サイクルも加速させることにもなるという。

 「2009年に日本で設置された基地局台数は1万7000台。これを仮に3ベンダーで分けたとすれば、1社5000台程度の規模だ。一方、基地局をアルミダイキャストで作るとすれば、型を起こすのに5000万〜1億円ほどかかり、償却するには5万〜10万台を販売しなければならない。つまり、日本市場のみで戦った場合、5年から10年は同じ型を使う必要がある。世界で年間20万台の基地局を販売する我々の場合、1年に型を4回変更できる。ネジの位置を少しずらしてコストが3円下がるなら、平気で新しい型を起こせる」(小津氏)

 さらに、通信方式に依存しない共通ハードウェアの開発もコスト削減に効果を発揮する。ソフトウェアを変更するだけで、W-CDMAやGSMはもちろん、LTEにも対応する製品を開発することで、製品の低価格化と通信キャリアの投資効率を上げることができると小津氏は説明する。「LTEの製品だからといって、高く買ってもらえるわけではない。ハードを共通化して数を稼ぎ、安くする必要がある」(小津氏)

photophoto 通信方式や設置環境が違っても同じハードウェアが利用できる

 コスト削減のためには、製品の汎用性を高めるためにあらゆる環境に耐える堅牢な製品作りも必要とされるという。また、技術の標準化に積極的に取り組む事も、小津氏はコスト対策の1つとして挙げる。「標準に沿ってグローバルで1つの製品を作っていかないとベンダーも生きていけない。たまたまプロプライエタリで成功しても、次はない」というのが同氏の主張だ。

“物作り”だけでは生きていけない

photo 事業領域を拡大し、「新しい分野に入っていかないと稼げない」と小津氏は話す

 このように、規模の経済で徹底的なコスト削減に取り組む同社だが、小津氏は「機器コストを下げるだけではとても生きていけない」と、さらに厳しい言葉を付け加える。「製品を納品して終わり、ではもう済まない。顧客はコストをエンド・ツー・エンドで見ており、トラフィックの増加が続いても通信キャリアが利益を上げられるTCOの削減方法を提案する必要がある。そうしなければ、中国勢がどんどんシェアを伸ばしていくだろう」(小津氏)

 事実、同社は現在、通信設備の販売や設置以外の事業を精力的に拡大している。世界に3つのネットワークオペレーションセンターの拠点を構え、通信キャリアに替わってネットワークマネージドサービスを展開するほか、加入者データ管理や課金システム、IPTVソリューションなど、さまざまなサービス事業を手掛けている。こうしたサービス分野においても、規模の経済によって低価格化が実現できると小津氏は説明する。

 また、障害監視システムや加入者データシステムを一元管理する「One-NDS」など、通信事業者の顧客満足度や新サービスをサポートするようなソリューションの提供にも注力している。ドイツのある通信キャリアは、通信障害が発生した際に同ソリューションを使って障害のあったエリアにいた加入者を特定し、復旧後にSMSでお詫びとクーポンの提供を行うサービスを開始しているという。

photo 「One-NDS」の紹介

 コスト削減からユーザーエクスペリエンスの創出まで取り組むという同社の事業戦略からは、単なる物作り企業から脱却しようという意志が顕著に見て取れる。講演の中で小津氏は、モバイル市場で大きな成功を収めているAppleのiPhoneを例に挙げ、こう話した。

 「iPhoneのソフトウェアやハードウェアの開発には莫大なコストがかかっているはずだが、iPhoneが成功した理由はビジネスモデルやカスタマーエクスペリエンスが優れていたから。つまり、製品の価値を生みだすのはそれらであり、残念ながら製造ではない。物を作ることは大切だが、それ以外の分野でどうやって価値を創出するかを我々は検討している」

日本市場の開拓はカスタマイズが鍵

photo

 その一方、“物作りの国”である日本では、製造や開発に重きを置いたビジネスが展開されがちだと小津氏。通信キャリアが求めるスペックに合わせて製品を個別にカスタマイズするといったビジネスモデルが、グローバルベンダーにとって壁になっているという。そして、NSNによる推定では、日本は国内ベンダーが7割のシェアを持つ「世界に類を見ない独占市場」(小津氏)となっている。

 しかし、世界の通信事業者の売上の1割弱を一国で占める日本は、海外ベンダーにとっても魅力的なマーケットだ。NSNでも、中国、インド、ブラジル、アメリカに並ぶ戦略国の1つとして日本を位置付け、事業拡大を狙っている。その上で同社は、「グローバルスタンダードを押しつけても日本では成功しない」として、コストパフォーマンスを維持しつつ日本のカスタマイズのニーズに応えるという事業方針を掲げている。


photo カスタマイズをしてもなお低価格な製品を日本市場に提供するという

 カスタマイズにあたっては国内メーカーとの協業も実施。例えば、NTTドコモ向けのLTE無線基地局を、パナソニック モバイルコミュニケーションズと共同で開発している。互いの開発スタッフが両社に出向しあうような深い共同作業を通じて、開発が行われたという。「我々にできないカスタマイズは、日本でプロフェッショナルに事業を展開されている企業と共同開発し、それをグローバルにも売る」(小津氏)

 また小津氏は、日本市場に対するローカライズの姿勢として、外資企業でありながら入社時の英語力を求めない点を紹介。「英語は入ってから話せるようになる。何よりも必要なのは、通信業界におけるキャリアであり、日本市場を理解していることだ」(小津氏)。そのほかにも、日本向けにカスタマイズしたホームページや、同社がスポンサーである通信業界向けニュースサイト「WirelessWire News」の展開など、日本法人独自の取り組みを通じて顧客からの信頼獲得を目指しているという。


 講演後の7月19日、NSNはモトローラの無線事業の大部分を買収することを発表。世界規模でのコスト競争の中、合従連衡の動きが加速している。「吸収合併を行ったボリュームのあるベンダーがどんどんシェアを獲得し、それ以外が日の目を見なくなる。最終的には3、4ベンダーほどしか生き残らないのではないか」(小津氏)

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