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» 2000年11月23日 12時00分 UPDATE

IT Business フロントライン(14):オンライン書店、戦国時代の到来〜アマゾン・コム日本上陸で役者はそろった〜

[磯和春美(毎日新聞社),@IT]

 2000年11月、オンライン書店という概念をインターネットに定着させた草分け、「アマゾン・ドット・コム」(以下、アマゾン・コム)がいよいよ日本に上陸した。日本人は本好きで知られており、オンライン書籍販売市場の潜在的な規模を期待させるのに十分らしい。

 すでに2000年6月には、欧州最大の出版・販売業、独ベルテルスマンのオンライン書店「ビー・オー・エル(bol.com)」が日本に進出してきている。もちろん、国内でも老舗の「紀伊国屋書店」や「丸善」、「八重洲ブックセンター」がオンライン書店を開設。オンライン専業の「bk1」や「本屋さん」なども独自のサービスで健闘している。さらに電子書籍の試みとして「パピレス」などが続いており、日本は今や世界でも有数のオンライン書籍販売大国だ。各サイトの取り組みを比較して、日本市場での成功の可否を占ってみよう。

満を持して上陸?アマゾン・コム

 「すでに19万3000人の日本人顧客が米サイトを利用してくれている。われわれは日本最大の電子商取引(EC)サイトだ」。2000年11月1日、日本進出を発表する記者会見の席で、ジェフ・ベゾスCEOは誇らしげに語った。同日夜には日本語のサイトがオープン、日本の書籍110万点、洋書60万点の計170万点を取りそろえて、万全の体制を整えた。

 アマゾン・コムは2年前に日本法人を設立。日本通運と業務提携して千葉県市川市に物流センターを建設したほか、北海道にカスタマー・サービス・センターを設置。書評や書籍情報を扱う雑誌「ダ・ヴィンチ」を発行するメディアファクトリーとも提携し、毎月150冊以上の書籍レビューを掲載する。

 米国でのアマゾン・コムは1995年に開設以来、書籍やビデオ、CDなどのオンライン販売で他の追随を許さない地位を築きあげている。商品点数1800万点、整った検索システム、思いきった値引き、顧客ごとにサイト情報を徹底してパーソナライズするなど、使い勝手の良さが確立されている。この使い勝手の良さを日本のサイトでも実現できれば「日本でもわれわれは支持されると信じている」(ベゾス氏)という言葉は真実味を帯びてくる。

bol.comの勝算は?

 しかし、当たり前のことだが日本の市場は米国のとは違う。例えば、日本には書籍再販制度があるため、アマゾン・コムお得意の割引は自由には行えない。このためアマゾン・コム・ジャパンでは洋書の30%引きと、年内の国内配送料無料を顧客獲得の切り札にする方針だ。

 同じように、海の向こうから日本市場に殴り込みをかけてきた先輩格のオンライン・メディア販売サイト「bol.com」でも、市場でのプレゼンスを上げることに必死だ。2000年6月のサイト開設以降、年内配送料無料のほか、人気作家スティーブン・キングの最新作の独占先行販売や、国内150万タイトルの書籍データベースの整備、コンビニエンス・ストア「サンクス」との提携によって決済、商品受け取りの便宜を図るなどのサービスを次々に打ち出してきた。

 bol.comは独ベルテルスマンのオンライン販売部門という位置付けで、日本を含め14カ国でサービスを展開している。サイトを見ると、ワンクリックで本が買える、といった使い勝手よりもむしろ直感的に自分が欲しい本が見つけられるジャンル分けや検索システムの充実に力を入れているように見える。

もっとも、基本的なショッピングの手順はアマゾン・コムとほぼ同じで、先進的なオンライン書店はどこも積極的に「優れている」とされるアマゾンのやり方を研究して取り入れている様子がうかがえる。

 BOLジャパンの代表取締役社長である田中功氏は「まず書籍の販売からスタートし、付加価値の高いショッピング機会を提供したい。オンライン・ショップのリーダーを目指すとともに、日本の書籍市場を活性化させたい」と抱負を語っている。特徴的なのは、CD販売などにとどまらず、将来は音楽や映像のダウンロード販売も手掛ける意向を鮮明にしていることだ。

さらに、日本で独自の発展を遂げているコミックやゲーム攻略本も取り扱い、幅広い層にアピールすることを狙っている。アマゾン・コムもコミックは当初から取り上げており、日本市場の研究を進めていることがうかがえる。

 BOLジャパンはビジネス・パートナーとして出資している角川書店のほか、日本出版販売、大日本印刷、佐川急便、オリエントコーポレーションなどと提携しており、オンライン・サイトを日本で確実に運営していくための経営戦略は堅実だ。

苦境に立たされつつもブランド力で勝負する老舗書店サイト

 日本の書籍流通は再販制度だけでなく取次制度と呼ばれる専門の問屋を仲介する特殊な形式で、既存の書店はがっちりとした従来の流通の流れに組み込まれているという。その中で、老舗書店の何軒かは早い時期からオンライン書籍販売の試みに取り組んでいる。しかし「クリック&モルタル」にも徹しきれず、まだまだ「敷居の高いオンライン・ショップ」として今後の変革をまったなしで迫られているところだ。

 例えば丸善。専門書の紹介は充実しており、情報提供も豊富だが、書籍を購入するにはまず会員登録をしなければならない。「クレジットカードで本を買うのに会員登録を求めるような書店にお客が来ると思いますか?」というのは電子商取引に詳しい月刊誌ライター。確かに丸善の会員登録ページはトップページではなく、何ページか奥の階層にあって、登録無料とはいうものの敷居が高い印象を受ける。

ところがこの会員制、なんと紀伊国屋書店も採用しているのだ。しかもこちらは入会金1500円、提携カードを利用する場合には年会費1250円が必要というもの(本文末に補足説明あり)。クレジットカードを作ると入会金の一部は商品券の形で還元されるが、それにしても気軽なオンライン・ショッピングからはほど遠い。

 もっとも、紀伊国屋書店によるとこの会員数は17万人、月商2億円と「立派にビジネスとして成立している」(ネット事業部)とのこと。老舗書店のブランド力の強さはオンラインでも有効な面があるようだ。

また、同書店は「クリック&モルタル」、すなわちWebで在庫を検索して予約、同書店の店頭で引き取ることができるハイブリッドWebサービスも提供しており、これはだれでも利用できる。現在は全国6店舗で行っている。電子書籍展開にも熱心で、マイクロソフトとの提携を発表したところだ。

新興勢力が「オンライン書店」を面白くする

 そのような日本の既存書店を追い越そうと、新興勢力も続々と誕生している。本好きの間で話題を呼んでいるのは2000年7月に開設されたばかりの「bk1」だ。書評家や作家などが書評を寄せるシステムや、業界内の注目を集めるユニークな切り口による独自ニュースの提供など、ただの書籍検索と電子商取引のサイトではなく、自覚的に書籍をリコメンド(推薦)する「本屋たらんとする」気概があふれている。180万点のデータベースと、配送料250円(7000円以上の購入者と、予約本配送は無料)は国内でも良心的な部類といえる。

 京都が本拠地の「本屋さん」も健闘中だ。全国一律配送料280円、代引き手数料無料で、最近は音楽サイトも開設、コンビニエンス・ストア「ミニストップ」約1000店での店頭受け取り、おまけに法人向けの営業窓口もサイト内に作った。「足を棒にして何軒もの書店を回っても、同じような本しか置いてない」というユーザー側の素朴な不満から1997年に設立されたベンチャー企業だ。さらに実験店舗「本屋さんSalon」を1998年に東京・霞ヶ関にオープン、オンデマンド・プリントなどの依頼を受けている。1999年12月からはNTTのiモードからも購入が可能になり、店舗を持たないオンライン・ショップならではの自由な試みを続けている。

戦国時代は始まったばかり

 実はアマゾン・コムの各国でのサイト開設としては、日本は4番目にあたる。ドイツ、フランスに次いで日本の市場に進出した理由をベゾス氏は「輸出先としての日本はわれわれにとって最大のマーケットだった。ほかの国で展開したような顧客重視のサービスを徹底すれば、これから日本で成功するのも簡単だ。日本は巨大なマーケット。勝ち組は何社でもありうる」と、マーケット規模の大きさと、これまで築いたノウハウへの自信をのぞかせながら語った。

 また、bol.comの社長、ハインツ・ビー・ワームリンガー氏は2000年6月に来日した際、「インターネット・ビジネスの世界では日本市場の潜在的な規模は注目するに値する。『ここで成功できればどこでも成功できる』のだ」と話し、「bol.com」の成功に意欲を見せた。

 こうした経営者の成功への意欲が、利用者の利便性のアップや競争促進によるサービス向上につながる。アマゾン・コムの日本上陸によって、ついに役者がそろったオンライン書店の戦国時代は、これからまだまだ続きそうだ。

更新履歴

【2000/12/6】 本文中にある「JR東日本の「キオスク」との提携」について、事実とは違うとのご指摘を関係者の方よりいただきました。事実関係を確認した上、該当部分を削除いたしました。ここに、お詫びして、訂正させていただきます。



更新履歴

【2000/12/20】 紀伊国屋オンライン書店の提携カードについて

読者の方より「記事本文における紀伊国屋オンライン書店の提携カードに関する記述が誤解を与えるのではないか」とのご指摘をうけ、筆者の方で事実関係を確認いたしました。その結果、筆者が2000年10月に取材を行った時点では、「オンライン書店で利用できるクレジットカードを所有していない利用者には提携カードを作ってもらい、その年会費が1250円」ということでしたので、該当部分についての表現をそのように修正いたしました。また、「提携カードについては、2000年12月にサイトをリニューアルした際、「ブックウェブ」コーナーの最下段「ネットビジネス部からのお知らせ」コーナーで案内している。現在は提携カードキャンペーン中で入会金、年会費ともに無料になっており、提携カード以外のクレジットカードも利用できるが、その際でも入会金1500円は必要」との回答を紀伊国屋様よりいただきましたので、ここにご報告させていただきます。



Profile

磯和 春美(いそわ はるみ)

1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日イ ンタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。

メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp


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