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» 2002年05月24日 12時00分 UPDATE

IT Business フロントライン(82):パソコン値上げが招く最悪のシナリオ 果たしてメーカー・販売店の淘汰は起こるのか?

[三浦優子(コンピュータ・ニュース社),@IT]

 5月13日、たまたま仕事があって近くまで来たのでビックピーカン有楽町店のパソコン売り場に立ち寄った。4月末に来たときには、「パソコンが値上がりする3つの理由、(1)メモリ価格の上昇、(2)液晶の価格上昇、(3)円安」というタイトルのPOP広告が付けられ、“値上がり前のいま(4月末時点)が買い時”であることをアピールしていた。それが5月に入り、新製品に関する情報が出始めたことで、パソコン売り場にどんな変化が起こっているのか、興味があったのだ。

パソコン売り場はさながらゴーストタウン

 ところが、パソコン売り場に足を踏み入れて驚いた。異常なまでに閑散としている。

 通常、売り場が閑散としているというのは、客が少ないことを指すのだが、この日、売り場が閑散としているのは客はおろか、展示物がほとんどなかったためだ。商品が置いてあっても、「メーカー製造が終了しました」という札が付いているものも多く、隣のプリンタ売り場に商品があふれているのとは対照的に、パソコン売り場は寂しい限りだった。売り物がない以上、4月にはあちこちに飾ってあった“値上げ前のいまがパソコンの買い時”というPOP広告もほとんど取り払われていた。

 ゴールデンウイーク明けから5月中旬までは、5月末に発売になる夏商戦向け商品と2月に発売になった春商戦向け商品のちょうど端境期。NEC、富士通といった主要メーカーが製品の生産量を絞り込み、予定数量を超えた商品の生産は行わなくなっていることから、新商品発売前の端境期にはパソコン売り場から極端に商品が少なくなる現象が起こる。

 同時期のわが社(コンピュータ・ニュース社)のランキングにも、見事にいまが商品端境期であることを示す結果が出た。5月6日から12日までの1週間のパソコンメーカー別シェアは、ソニーが28.1%でトップ、2位は同率13.3%でシャープとNECが分け合い、4位は12.1%のアップルコンピュータで富士通を抜くという結果となった。シャープとアップルの新製品はすでに発売されているため、5月上旬でも商品がそろっており、シェアを伸ばしたわけである。

部材価格上昇でメーカーパソコン一斉値上げ

 ところで、夏商戦に投入されるパソコンは、ビックピーカンのPOP広告にあったとおりの理由で、単価1万5000円から3万円程度の値上げが行われる。この値上げについては、メーカー側の都合だとして批判も多いものの、パソコンは世間がデフレスパイラルに見舞われる前から、デフレが進んでいた商品であり、私個人としては値上げもやむを得ないと感じている。

 例えば液晶ディスプレイ。ディスプレイメーカーによれば昨年秋ごろ、最も安値だった時期には15インチ液晶パネルを210ドル程度で仕入れることができたが、3月には270ドルから280ドル、さらには約300ドルにまで上昇したという。

 パソコンで利用する大型液晶パネルを製造するメーカーは、昨年秋の値下がり傾向を嫌気し、大型パネルの生産をやめる予定であったが、昨今の値上がりで製造中止から一転して、現在は積極的に生産を続けている。しかも、いまでは逆に世界的な液晶ディスプレイ人気のため、生産が需要に追い付かない状況が依然続いており、果たして、どの時点で価格が安定するのか、見えないというのが実情である。

 こうした話を耳にすると、メーカー側で部材の値上がりを吸収できる状況にはないといわざるを得ない。

体力のないメーカーと店に厳しい値上げ

 この値上がりが、どういった影響を及ぼすのか。

 先日、あるパソコン卸しに取材したところ、「メーカーが製品供給を絞っているため、市況にタイト感があり、意外に大きなマイナス影響はないのではないか」という答えが返ってきた。

 すでに1年以上、パソコン販売は伸びていないのだが、冒頭にご紹介したとおり、メーカーが商品出荷量を絞り込んでいるため、店頭には商品が潤沢にはそろっていない。そのため、売れ行き不振ながらも価格をむやみに引き下げるといった事態はなく、メーカーも卸も、販売店もある一定水準の収益を確保している。

 とはいっても、@ITの読者のようにパソコンに詳しいユーザーは、あえてこの時期に積極的に新製品を買わないだろうし、メーカー製品の購入をやめて自作に走る人も増えたりするだろう。つまり、夏商戦向け商品が登場しても、需要が急に増える要素はまったくないのだから、メーカーや販売店にとって厳しい市況状況であることには変わりはない。特にこれまで、コンシューマ向けに低価格を売り物に売り上げを伸ばしてきたメーカー、販売店は他社との差別化が行いにくく、かなり苦しい状態に陥り始めている。それでも体力があるところはよいのだが、ずーっと続いているパソコン売れ行き不振で経営状況が悪化している場合、倒産、撤退、業態変更といった事態が起こってくる可能性も十分にあるのではないかと感じている。

 つまり、今回のパソコン値上がりは、メーカー側の供給絞り込みを背景として、強いところは残り、弱いところは淘汰されるサイクルを生む可能性が大きいのだ。

 実は私は、メーカー各社が夏商戦向け商品の値上げを発表したころから、今後起こる(かもしれない)最悪の事態を想像し、戦々恐々とした気持ちになっていた。冒頭に書いた「閑散としたパソコン売り場」を見たとき、何ともいえない寒々しさを感じたのも、それより先に“最悪の事態”を憂えていたことに起因する。私の予感が取り越し苦労で、メーカーも販売店も値上げを乗り越えていってくれれば……と心から思っているのだが、果たして?

Profile

三浦 優子(みうら ゆうこ)

株式会社コンピュータ・ニュース社

1965年、東京都下町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。

メールアドレスはmiura@bcn.co.jp


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