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» 2002年05月31日 12時00分 UPDATE

IT Business フロントライン(83):モバイルはネットビジネスの主役か? 携帯電話インターネットの快進撃はどこまで続く

[高橋智明,@IT]

 筆者がITやインターネットビジネスの取材を始めて、はや3年になる。この間、iモードを筆頭に、携帯電話を利用したネットサービスの開始と爆発的なユーザーの増加を間近に観察してきた。そうした活動を通じて、筆者には常々、モバイル型のネットサービスについて疑問に思ってきたことがある。「モバイルは、パソコンに代わってネットビジネスの主役になる(なった)のか?」という点だ。ネットビジネスの関係者たちにはときどき、この疑問をぶつけており、海外取材で訪れたアジアのネットベンチャーの若き経営者たちと議論したこともある。

進化を続けるケータイモバイル

 折しもNTTドコモはこの5月に、新しいiモード対応端末、504iシリーズを発売した。データ通信速度は従来の3倍の28.8kbps。赤外線端末を搭載し、携帯電話同士やそのほかの対応端末とデータ通信ができる。Javaで作成したソフトを動かせる「iアプリ」機能も強化され、ソフトの保存領域を従来の3倍の30Kbytesに、データの記憶領域は10倍の100Kbytesに拡充した。iアプリを待ち受け中にも起動したままにしておけるため、待ち受け画面に最新ニュースを表示するなどのサービスが可能となった。

 すでに、30を超えるコンテンツ・プロバイダが、504iに対応したサービス提供を表明している。例えば、ウォルト・ディズニー・インターナショナル・ジャパンは、ドナルドやミッキーなどの人気キャラクターが登場する待ち受け画面サービスを投入する。従来と異なり、内容が自動的に更新されるものだ。またカラオケ大手の第一興商は、504iの赤外線通信機能を活用し、カラオケボックスで504iをリモコン代わりに使えるサービスを開始する。

 504iシリーズの投入で、モバイルネットサービスの内容がより豊富に、より充実したものになるのは確実だろう。さらにより多くの企業が、この業界に参入してくるかもしれない。

業界の構図を塗り替えたPC利用のインターネット

 ここで冒頭の話題に戻りたい。「モバイルはネットビジネスの主役なのか?」。ネット接続サービスに対応した携帯電話のユーザーは5000万人を超え、iモードだけでもISP最大手である@Niftyの6倍近い契約者を抱える。NTTドコモがiモードなどのパケット通信料で年間7000億円の収益を上げるなど、モバイルネットサービスはビッグビジネスに成長した。

 そうした中、携帯電話が進化すればパソコンでネットサービスを受ける必要はほとんどなくなる、と主張する人も決して少なくない。それでも筆者は、現状のモバイルネットサービスの仕組みのままでは、モバイルが主役になる可能性は低いと考えている。

 モバイルネットサービスに関する各種の調査では、主に利用されているのは、いまだに電子メールの送受信や着メロ、待ち受け画面サービスなどである。ここで、パソコンを利用したネットサービスが、これまでに挙げてきた成果を考えてみてほしい。

 例えば、証券取引。株式のネット取引サービスが登場してからわずか3年で、個人取引の約4割がネットに移行。弱小にすぎなかった松井証券はネットサービスにフォーカスすることで、個人取引では日興コーディアル証券や大和証券に迫る規模に成長した。松井証券の躍進はネットが普及しなければあり得なかったが、一方でネット対応が遅れた中堅・中小証券は苦境に陥りつつある。

 ネット上でホテルや旅館の予約を毎月、約50万件成立させている「旅の窓口」を運営するマイトリップ・ネットは、日立造船グループの企業である。ネットでなければ、門外漢の新興企業が大手に成長することは不可能だったろう。全日空の国内航空券のネット予約は、今年度1000億円に達する見込みだ。あおりを食って、旅行代理店の手数料収入は減少し続けている。結局は御破算になったが、日本旅行と近畿日本ツーリストが合併を決意したのも、ネット普及による経営環境の悪化が大きな要因だった。

モバイルの限界と利点

 パソコンを利用したネットサービスは、業界の既存の秩序や序列を根底から覆すほどの影響力を持つ可能性がある。それに対してモバイルネットサービスについて、筆者はそれほどの力を感じることはできない。パソコンと同様に、携帯で株式の取引やチケットの予約ができるサービスは存在するが、その利用は限定的だ。

 ユーザーがネットサービスに、これまでのサービスにない利便性を感じるのは、大量の情報の中から必要とするものだけを検索・入手し、それを比較検討してフィードバックできるからである。しかし、画面が小さくボタン数も少ない携帯電話では、この利便性を十分に享受することができない。

 例えば携帯電話で、複数の航空会社の東京―札幌便のスケジュールと料金を比較して、最も都合の良いフライトを選び出して予約しようとすると、数十分はかかるだろう。これなら、時刻表を見て、各社のコールセンターに電話した方が早く済む。

 終電情報の検索や位置情報サービスなど、付加価値が高いうえに携帯電話でなければ成り立たないといったサービスも確かに存在する。しかしそうしたサービスは、携帯電話の欠点がそれほど気にならない特定のものに限られる。欠点を解消しようと画面を大きくしたり、ボタン数を増やしてしまえば、もはや携帯ではなくなるはずだ。こういってはしかられるかもしれないが、結局のところモバイルネットサービスの主流は、着メロや待ち受け画面、簡単なゲームなどのレベルにとどまるのではないだろうか。

 筆者が携帯電話に期待するのはいわゆるコンテンツサービスなどではなく、データの送受信端末としての進化だ。つまり、ネットビジネスを発展させる名脇役としての役どころである。通信速度を高速化するのはもちろん、定額制のモバイルデータ通信サービスをもっと拡充させてほしいし、端末そのものの価格も安くしてほしい。携帯電話会社などで開発が進められているとされる携帯電話機能と無線LAN機能が融合した新機種に対しても、一刻も早い登場を望んでいる。

Profile

高橋智明(たかはし ともあき)

1965年兵庫県姫路市出身。某国立大学工学部卒業後、メーカー勤務などを経て、1995年から経済誌やIT専門誌の編集部に勤務。現在は、主にインターネットビジネスを取材している。


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