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» 2002年09月13日 12時00分 UPDATE

IT Business フロントライン (96):ケータイの明日はどっちだ PDAとの戦いの鍵は“ライトユーザー”

[磯和春美(毎日新聞社),@IT]

 携帯電話で写真撮影ができ、動画も撮れてその場で好きな相手に送信できる。相手とリアルタイムに映像を送信し合いながら通話することもできる。インターネットで家賃の振り込みも、買い物も、ゲームも思いのままだ。筆者が子供のころ、相手の顔を見ながら会話ができる“腕時計型”通信端末というは、技術の粋を凝らした「未来の象徴」だった。それが、「ケータイ」という軽い略語と共に現実のものになっているのが、2002年の日本社会だ。筆者の世代の想像力を凌駕する勢いで進化するケータイだが、さてこの驀進はいつまで、そしてどこまで続くのだろう。最近のケータイを巡るさまざまなデータや予測から、しばし考えてみた。

カメラ付き端末でひと息をつく業界

 実はケータイを機械産業の視点から眺めてみたとき、国内での未来はそれほど明るくない。携帯電話の7月国内出荷実績は、14カ月連続で前年割れだった。電子情報技術産業協会(JEITA)が毎月発表しているデータによると、この7月の出荷実績は、前年同月比3.1%減の374万5000台。携帯電話の普及や景気低迷で、新規需要はすっかり頭打ちにみえる。

 もっともこれをPHSを除く携帯・自動車電話でみると、同2.3%増の367万2000台で、2001年5月以来、14カ月ぶりにようやく前年実績を上回ったことになる。好転の要因はカメラ付き端末だ。JEITAは「マルチメディアのモバイルツールとして浸透しつつある」と分析、20歳代など若い世代を中心に買い替え需要の受け皿になっていると見ている。

 2002年8月現在の携帯電話普及台数は7162万台。人口1億2000万人の日本で、携帯非利用者は半分を切った。今後、少子化が進む日本ではこれ以上の新規ユーザーの開拓は期待しにくい。JEITAがいうように買い替え需要を刺激するしか伸びる余地はないわけだ。その格好の刺激要因となったのが画像を送れるカメラ付き端末なのだが、業界は「iモードが出たときのように市場全体をけん引するかどうかは、今後の動向次第」(電機メーカー)と冷ややか。

 確かに、iモードのときのような伸びはカメラ付き端末では望めない。その理由は2つある。1つは、カメラ操作やデータ保存、実際の送付の手順などが、いまの段階ではまだまだ複雑な上に、画像の解像度にも限度があり「遊び仲間のコミュニケーションツールとしては使えるが、“実際にインターネットを活用できるiモード”のような意味での実用性はない」(同)ことが挙げられる。現在の機能では、遊び道具の延長線以上のインパクトはないので、伸びも若年層にとどまるとの見方だ。

 もう1つは意外にコストがかかること。カメラ付き携帯端末の相場は、メモリカード付なら3万円台になる。月々の通信代も、頻繁にデータ送受信を繰り返せばすぐに1万円を超えてしまう。通話とデータ通信がセットになった料金メニューもあるにはあるが、まだまだ割高感がある。iモード利用者は、すでに有料コンテンツの利用料金や通信料金などで、6割が月に2000円以上の負担増になっているというデータもある。そこにパケット料金の大幅増は確かに負担になりそうだ。

予測はさまざまに入り乱れる

 ところで、カメラ付き端末の機能に満足しないユーザーを狙って今後、シェアを伸ばそうと考えているのがPDA(情報端末)陣営だ。米IDCによると、世界のモバイル機器の出荷台数予測では、カメラ付き携帯電話とPDAの出荷台数が2006年には1億5100万台に達する勢いだという。そのうち、2002年には61万台だったPDAは、1110万台と18倍にも増加する見込みで、PDAに携帯電話機能をつけ、「ケータイ」市場へ逆攻勢をかける目論見だ。

 米ストラテジー・アナリティクスのデータはさらに興味深い。同社の世界のPDA市場分析によると、2007年には170億ドル規模に達し、そのうち携帯電話機能があるPDAは全体の59%に上ると予想。無線LANを利用し、130万画素程度のスナップ写真を気軽に撮影でき、必要に応じてそれらを電子データとして送信できるPDAが、日本円にして4、5万円台で入手できるようになるとすれば、携帯電話の操作のしづらさ、機能の限定性に嫌気がさしていたユーザーからの「乗り換え」が進むという読みらしい。

 もっともそこには、純粋に私用で利用するユーザーは想定されていないようだ。アナリティクス社によると、PDAの最も伸びる分野は企業のワイヤレス・システムの一部としてで、現在PHSなどが占める通信端末の部分を多機能化した位置付けなのだという。実際に、ヒューレット・パッカードや東芝は、PDAを総合的な企業内ワイヤレス・システムの一部と位置付けることでシェア拡大に成功している。

ワイヤレス広帯域化でも未来は混沌

 ネットワークの広帯域化は、携帯電話の世界でも及んでいる。第3世代携帯電話では、最大2Mbpsの高速ネットワーク通信が可能とされており、マルチメディア・コンテンツも楽に利用できる。リアルタイムの動画交換が可能になれば、テレビ電話も当たり前。ケータイの未来は明るいものに思える。

 しかし、マルチメディア端末として派手に売り出したNTTドコモの第3世代携帯、FOMAは伸び悩んでいる。立川敬二社長は、今年度末の加入目標を138万件から大幅に下方修正する方針を明らかにしたばかりだ。FOMAの契約数は7月末現在で約13万件。伸び悩みの原因は端末価格の高さとバッテリの持ちの悪さ、利用料金の割高感に集約される。

 そこへ総務省が、無線を使って光ファイバ並みの速度でデータを送受信できる超広帯域無線「UWB(ウルトラワイドバンド)」の商用化を、2003年度末までに認める方針を打ち出した。UWBならデジタルビデオやパソコン、PDA(携帯情報端末)の間で、光ファイバ並の100Mbpsでデータをやり取りできる。しかも低消費電力、屋外でも利用できるとなると、PDAやデジタルビデオといった「非パソコン」ツールが、いよいよ「ケータイ」の手軽さに肉薄することになる。

 つまり、「ケータイ」はその手軽さと、競争激化による料金低下が魅力になり、一時は若年層を中心にシェアを急拡大してきた。しかし、いったん頭打ちの状況になると、今度は競争も停滞、さらに高機能化で端末価格、利用料金とも右肩上がりになってきている。高機能といっても、その付加価値は、今後急追してくるであろうPDAやデジタルビデオのようなツールに比べれば見劣りがするものであることは否めない。

 だとすれば、今後の「ケータイ」は、若年のホットユーザーほど新機能に目移りせず、かといってPDAやデジタルツールほどの高機能性は必要としない──「ケータイ」を電話として使いつつ、あまり複雑な操作を覚えなくても使えるプライベートカメラや、限られた知人との直送メール、交通案内やニュースの閲覧程度のネットワーク機能を日常的に利用するような、いわゆる“ライトユーザー”の支持をどれだけ得られるかにかかってきそうだ。

 ところで、出荷台数の前年割れが17カ月続くPHSの未来はどうなるのだろうか。一時は「ケータイ」と並ぶ勢いだった「ピッチ(PHS)」も、いまやジリ貧。「カメラ付きは携帯の独壇場」とするDDIポケットは、PHSとしては初のUSB接続タイプのAirH"(富士通製)を公表するなど、ドコモのP-inなどと同様、通話のできないデータ通信特化型端末で生き延びようという作戦だ。しかしこれも結局は、無線LAN広帯域化が進めば、デジタルツールの高機能化の波に飲み込まれてしまう可能性が高い。PHSについては、「ピッチ」が「ケータイ」に凌駕された時点で、引き際を見失ったことが今後の行方を決めたようだ。

Profile

磯和 春美(いそわ はるみ)

毎日新聞社

1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日インタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。

メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp


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