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» 2002年10月01日 12時00分 UPDATE

IT Business フロントライン (98):eデモクラシーが日本を変える 市民の政治参加を促進するインターネット

[磯和春美(毎日新聞社),@IT]

 「eデモクラシー」という言葉を最近、盛んに耳にするようになった。インターネットの双方向性、情報開示の平等性といった特質を利用して、市民が政治により積極的に参加すること──ほどの意味で使われている。分かりやすい例をあげれば、朝日新聞のWebサイトでは政治評論家の田中直毅氏をコーディネーターに、「e-デモクラシー」という名で読者からの意見参加コーナーを設けているし、毎日新聞サイトにも「オンラインオピニオン」と名づけられたテーマ別の読者投稿ページがある。また、三重県では県が主催する電子会議室「三重県民eデモクラシー」がある。その背景にはブロードバンドの普及で常時接続化が進み、誰にとってもインターネットが身近な存在になってきたこと、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)に象徴される、「電子政府化」が推し進められていることがある。少し先を進むアメリカでは、eデモクラシーだけでなく、ネット上の政治活動=eポリティクスも盛んだ。日本におけるeデモクラシーはどこまで進み、どこへ行こうとしているのだろうか。

情報公開の迅速化、徹底がカギ

 まず、eデモクラシーの最大の利点は、「情報公開」のスピード化、公平化にあるといえる。例えば栃木県を始めとする多くの都道府県では、公文書や議事録などの公開をWebサイトでも行っている。Webにアクセスできる条件さえあれば、誰でも、いつでも、どこにいても、自分の住む地域の政策や住民サービス情報を取り出すことができる。その意味では、Webサイトへの情報公開は電子政府化推進の第一歩、基本中の基本といえる。

 また、eデモクラシーの基本である「情報公開」が徹底すれば、地方自治体の政策を住民がいろいろな角度から検証することができるようになり、これまでの情報公開制度の理念をより良く実現することができるだろう。それは地方自治の透明性、公正性を高め、ひいては国政と距離をおく独立性を獲得する“つえ”になる可能性もある。実際、政府や独立行政法人の評価を行う総務省行政評価局では、情報公開の迅速性、正確性を評価項目に採用している。

 しかし、現実はまだ理想に程遠い。例えば多くの地方自治体では、月1回の広報紙発行に合わせて、同じ内容の議事録の要約や決定事項のみを記したWebサイトを“公開”している。これはインターネットの特性である「迅速性」「記録性」をまったく考えていない対応だ。インターネットには時間の制限はないから、議会が終ってすぐにでも議事録を公開することが可能だ。ページ数やデータサイズの制限も基本的にはないので、抄録や要旨のみでなく、原本そのままを公開することもできる。もっといえば、ブロードバンド化が進んだいまでは、議会そのものをリアルタイムにインターネット放送することも、それらをあとからオン・デマンドで呼び出して再生するサービスも、やろうと思えばできる。議会の傍聴が住民に開かれており、これらの情報公開が「公平」に行われるべきことをつきつめれば、インターネットを利用した議会の生中継はむしろ行われてしかるべきだといえる。

 政府や自治体で公開が決められているものは、すべてWebサイトでも公開すべきだ。これは住民、国民の知る権利を保障する上でもっとも重要なことであり、同時に公開が決められているものは可能な限り、迅速に公開すべきだ。迅速──という点が、eデモクラシーにおいては重要な意味を持つ。情報の生命線は「すべて」と「早く」にかかっており、その両方を満たすことができるのがインターネットというメディアの特性なのだ。

議論の場の醸成にはまだ未熟か

 「デモクラシー」、すなわち民主主義の根幹には、すべての人の政治参加を目指す思想がある。アメリカのNPOは、前項であげた「ITを活用した住民サービスや文書管理の充実」と、「ITを活用した市民の政治参加」を分けて考えており、後者を「eデモクラシー」と呼んでいる。この双方を同時に進めなければ、より良い社会を目指すことは難しいが、日本の現状では「市民の政治参加」についてはまだ、とば口といったところだろう。

 行政側からの「市民からの意見を政策に反映させる」方式に関しては、オンラインにおけるパブリック・コメント募集がよく利用されるようになっている。いわゆる公聴制度を、インターネット上での投稿にもあてはめたもので、NTTの接続料金問題などで活用されているのは多くの人がご存知だろう。

 ところが、市民の側から「行政側に意見を具申する」という場については、まだ大きな成果が上がっているとはいえない。多くは政府や自治体が用意した投稿の場を利用しているだけだ。しかしNPOの中には、Web上で問題提起から意見調整まで取りまとめ、それらを具体的に議員に提案する試みを続けているところもある。

 こうした市民の政治参加に対して、当の市民はどう感じているのだろう。例えばNTTデータが今年4月に行った調査では、インターネット上のコミュニケーションを通じて、行政にコミットしたいと考えている人は25%おり、実際に千葉県八千代市で環境系NPOとの共同実験を開始し、実際にWeb上での行政に対する市民参画システムを構築・運用・評価している。しかし、この実験段階をクリアするには、まだ時間が必要なようだ。

 「VOTEジャパン」は、さまざまな時事問題、政治的課題に関して、Web上で勝手連的に投票を募るというユニークな活動を行っている。ある意味では純粋な民意の反映であり、このパワーや注目度が政策への圧力に結びつけば面白い試みとなりそうだ。

 最も難しいところは、オンライン上での議論をどう集約するかという点にあるという。1つには、オンラインでの議論の進め方というものに基本ルールがまだ確立されていないこと、もう1つは、オンラインでの議論に人々がまだ慣れていないことがあるのだろう。文字と文字の議論は、しばしば本筋から離れた語句の揚げ足取りや、枝葉末節の検証、感情的な罵倒につながりやすい。それらを調整できるコーディネーターも、(有名人ならともかく)顔も名前も知られていない人間では信頼感を得にくく、調整に失敗しやすい。そのため、小異を捨てて大同につく、といった形の意見の取りまとめが難しく、議論が拡散してお互いに猜疑心だけが残る結果になりやすいのだ。

参加者の自覚が求められる

 eデモクラシーの推進は、参加者のより高い政治的自覚を求めるものだ。利己的な提案や意図的な議論のかき乱しは、その場を混乱させるだけでなく、eデモクラシーへの期待を失わせる。しかし、そうはいってもeデモクラシーの流れは今後、大きくなりこそすれ、収縮していくことはないだろう。受け手である行政側は、情報リテラシーを向上させることと同時に、サイレントマジョリティーの意見をどうすくい上げるか、eデモクラシーで表明された意見が、そのときどきの民意をどの程度的確に表しているかを判断する技術が必要になる。

 とはいえ、eデモクラシーの普及は、閉塞感のある日本の行政手順を変え、政治に対する納税者の意識を高めることは間違いない。もともと議会制民主主義とは代議制であり、eデモクラシーの「直接参画」とは相容れないという意見もあるが、行政の情報公開を進め、市民の意見表明の場となり、行政評価を行う場面では代議制を補完し、チェックする機能を担うと考えるべきだろう。何より、eデモクラシーはコストが安い。納税者としては、この点にまず真っ先に注目すべきかもしれない。

Profile

磯和 春美(いそわ はるみ)

毎日新聞社

1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日インタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。

メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp


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