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» 2003年06月06日 12時00分 UPDATE

IT業界記者によるリレーコラム IT Business フロントライン(118):ITベンチャー不祥事が示すニッポンの課題 経済再生のカギは“ベンチャー経営者”

[高橋智明,@IT]

つまずいた有望ベンチャーたち

 ベンチャー向け証券市場、マザーズの第1号銘柄として世間の注目を浴びたネット音楽配信サービスのリキッドオーディオ・ジャパン(現ニューディール)の大神田正文元社長は、元役員を監禁したとして、逮捕監禁などの罪により懲役3年が確定してしまった。一時は女子プロゴルフツアーのメインスポンサーを努めるなど、ベンチャーとしては羽振りの良さが際だっていたネット接続サービスのMTCIの早川優会長も、虚偽の事実を元に株式の公募増資を行ったとして逮捕、懲役3年を求刑されている。

 ただしこの2社は、事情通の間では当初から闇の勢力とのつながりなど、そのうさんくささがささやかれていた。筆者がより残念に思うのは、ICカード関連のITベンチャー、エクスウエイ(現在は解散)の山田慎一郎元社長が特別背任で5月中旬に逮捕されてしまった事件だ。

 この事件は、日本におけるベンチャー経営者の人材難を象徴している。エクスウエイは、NTTの社内ベンチャー制度が生んだ初めての企業だ。山田元社長はNTT社員時代に、半導体の開発で頭角を現した。一流の人材が集まるNTTで選抜されたからには、開発者としての能力だけでなく、経営者としての能力、人格も厳しく吟味されたはずだ。

 山田元社長の容疑は売り上げ1億2000万円のうち、4000万円を私的に流用したというもの。警察の取調べに対して、「社長なら何をしても良いと思った」と供述しているという。売上の3分の1を流用すれば、発覚しないわけがない。元社長は、本当に悪いことをしているという意識がなかったのだろう。

 元社長はエクスウエイの最大株主ではなく、資本金のうち8割以上はNTTが出資していた。言うまでもなく、株式会社という組織において最も上位に位置付けられるのは株主である。社長は、株主から経営実務を任されているに過ぎない。読者の皆さんは「まさか」と思われるかもしれないが、元社長はそうした仕組みさえ理解していなかったのではないだろうか。

エンジニア出身経営者の落とし穴

 筆者も元メーカーの研究者だったから分かるのだが、大学の理系学部に進学し、そのまま企業などの開発・研究部門で働き始めた場合、たいていの人は「株式とは何か」「企業はどう成り立っているのか」といったことをまったく学ぶことなく過ごすことになる。

 1990年代初めから、NTTだけでなく、富士通やNEC、三洋電機など、日本の名だたる技術系企業がこぞって社内ベンチャー制度に力を注いだ時期があった。しかし、有望なベンチャーはほとんど生まれず、制度そのものが下火になっている。大きな理由の1つが、ベンチャー経営者として優秀な人材が不足していることだった。

 かつて、シリコンバレーのITベンチャーを取材して回ったことがある。そこで多くの経営者と話をして分かったのは、たとえ大学の理系学部を出たばかりの若手でもビジネスの仕組みを十分に理解しており、しっかりとした経営戦略を語れること。もう1つは、創業者がCEO(最高経営責任者)でない企業が珍しくないことだった。

 この点を日米でベンチャー企業のサポートを行っているコンサルタントに聞いてみると、「日本では、株も社長の座も絶対に他人に渡したくないと考えているベンチャー経営者がほとんど。創業者兼経営者がイマイチの企業に、『あなたが社長のままではこの会社は、時価総額10億円で終わってしまう。でも、多少は持ち株比率が下がっても優秀な経営者を連れてくれば、時価総額1000億円も夢ではない』と言っても、なかなか分かってくれないんだよね」との答えが返ってきた。実際、ヤフーもイーベイも、創業者が早期にプロの経営者に経営実務を任せたことで急成長している。

ベンチャー成長のカギは経営者育成

 不良債権問題に苦しむ日本経済だが、どんなに多額の税金を使って銀行やゼネコンを救っても、それだけで経済が回復軌道に乗るわけではない。GDPは、経済活動が生み出す付加価値の総和である。銀行は間接的にしか付加価値を生まないし、超成熟産業である建設業界に大幅な付加価値増加を望むのは困難だ。

 米国経済がマイクロソフトやサン・マイクロシステムズ、オラクルなどの登場で救われたように、日本経済も新たな付加価値を生み出してくれるベンチャー企業を必要としている。これまで日本にも何度かベンチャーブームがやってきたが、結局はブームで終わってしまった感が強い。

 しかしビジネスの種となる技術力は、決して劣っていない。即効性はないかもしれないが、教育制度のあり方を見直すなど、社会全体で優秀な経営者を生み出す土壌を作ることが、結局は経済復活の近道ではないだろうか。

Profile

高橋智明(たかはし ともあき)

1965年兵庫県姫路市出身。某国立大学工学部卒業後、メーカー勤務などを経て、1995年から経済誌やIT専門誌の編集部に勤務。現在は、主にインターネットビジネスを取材している。


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