青少年のネット依存を考える(7)小寺信良「ケータイの力学」

» 2013年01月21日 11時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 2012年10月からシリーズ化してしまったこの話題も、今回が最後である。前回から日本のネット依存に関する研究調査の話に入っているが、今回はそれを踏まえて総括的な話としたい。

 まずネット依存という現象は、古くからある学習の1つである、「オペラント条件付け」の一種ではないかと考えられている。オペラントとは、よくご存じの実験かと思うが、ネズミを箱に入れてブザーが鳴ったときにレバーを押すとエサが出てくるようにしておくと、やがてブザーに反応して自分からレバーを押す行為が高頻度になっていく自発的行動のことである。つまり、因果関係に気付くわけだ。この時、行動のたびに必ず報酬が与えられるとは限らないという偶然性があったほうが、行動がエスカレートしていくことが知られている。

 これをネット依存に置き換えてみると、いくつかのパターンで当てはまることが分かる。

 例えばオンラインゲームのような同期型サービスに対する依存では、他者からの尊敬、認証、注目といった報酬が得られる。またゲーム内の成功は、偶然性に頼るところが多いため、プレイ時間を長くするか、あるいは“アイテム課金で時間を買う”行為で問題を解決しようとする。

 その一方で、アクセスしなければ報酬が得られないだけでなく、メンバーから脱落する不安、自分がいないと迷惑がかかるという責任感からおこる罪悪感といった、負の報酬が襲いかかってくる。

 SNSのような非同期型サービスに対する依存では、つながりによる孤独感の解消や、自己表現の欲求を満たすという報酬が得られる。その反面アクセス頻度が下がれば、現実社会での孤独に耐えられない、あるいは“裏サイト”のような影で中傷されているのではないかという恐怖という形で、負の報酬が襲いかかる。

 コンテンツ接触型の依存、すなわち延々と動画を見たりブログを見たりする閲覧系の依存では、娯楽的刺激が継続的に続くという報酬が得られる。その反面アクセスしなければ、日常生活に目標がなく時間を持て余す不安がある。

どのように対処すべきか

 子どものネット依存を考えるときに、まずネット依存であるかどうかを判断する基準を誤らないようにしたい。例えば長時間利用しているからといって、必ずしも依存ではない点は、前回の資料で示した。

 例えば動画サイトを好んで閲覧している場合、テキスト情報と違って動画では、途中を飛ばしながらかいつまんで見るようなことができないため、どうしても時間がかかる。ただこれも、レスポンスがもっと良くなれば、解決する可能性もある。筆者はテレビの編集者として長いこと働いていたが、必要に迫られた結果、早送りや飛ばし飛ばし内容を見ることで、だいたいの内容が把握できるようになった。つまり技術の向上やトレーニングによって、動画サイト閲覧に時間がかかるという現象は、解決する可能性がある。

 親は成績に関して敏感にチェックするものだが、成績の下落によっては、ネット依存の傾向は計れない。なぜならば、依存は勉強時間を削るのではなく、睡眠時間を削ることで成立しているからである。従って子どもの睡眠時間や健康状態に、より多くの注意を払うべきだ。つまり、テストの時だけ突然教育ママや教育パパに変身するのではなく、日常的な観察が重要ということである。

 さらにネットへの依存傾向が見られることそのものを問題視して、ネット依存さえなくなればよいという考え方では、抜本的な解決にはならない。ネットの利用を制限すれば、ネット依存はなくなるかもしれないが、今度は別のものに対して依存傾向が高まる可能性がある。

 子どもがネット依存の傾向を示した場合は、どのようなタイプのものに依存傾向を示しているかを観察することで、その背後にある問題が分かってくる。その背後の問題を解決してやることが、親としてのゴールである。

 例えばSNS依存の場合は、学校で孤立していることが原因である可能性が高い。なぜ孤立するのかに関してはざまざまな理由があるだろうが、このようなネットに関係ない子どもの問題については、学校や自治体を始め多くの機関がサポートしてくれる。

 またオンラインゲーム依存では、抑うつや親とのコミュニケーション不足が相互に影響している。親のほうから積極的に子どもに関心を払って声をかけたり、うつの傾向が見られるのであれば、心療内科への相談も1つの方法だろう。

 動画サイト依存の場合は、日常生活に目標を失っており、時間を持て余していることが原因となっている。これは好きなことを見つけて打ち込む、スポーツを始める、恋愛をするなどの環境変化によって自然に解決する例も多い。

 子どものネット利用には、コミュニケーションの仕方を学んだり、見知らぬもの同士ながらはげましはげまされるといったポジティブな影響を受けていると感じている割合も高い。

 結局のところ、ネット接続デバイスを与えるだけで放っておけば、依存になるまで気付かないのは当然で、日頃からよく顔を見て声をかけ、子どもの話をよく聞くというごく当たり前のことでバランスが取れていくというのが、研究結果から裏付けされた――ということである。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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