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» 2014年08月26日 11時00分 UPDATE

佐野正弘のスマホビジネス文化論:失恋と留学、インターンが作ったアプリがApp Storeで2位を獲った理由

LINEのやり取りから相性を診断する「チャット分析 for LINE」は、アプリ開発企業のインターンシップで制作されたアプリだ。その目標は「App Storeで1位になること」。どんなインターンが企画したのだろうか。

[佐野正弘,ITmedia]

 「だーぱん」シリーズなどのスマートフォンアプリ開発で知られるイグニス。同社のインターンシップで大学生が企画した「チャット分析 for LINE」がApp Storeのトップ無料ランキングで2位を獲得し、大きな話題となっている。

 “App Storeで1位を目指す”というインターンシップの内容、そして実際にApp Storeのランキングで高い順位を獲得できた理由を、インターンに参加して同アプリを企画した山口大介さんのインタビューから探ってみよう。

インターンシップの目的は“App Storeで1位を目指す”こと

 在学中に企業の就業体験ができるインターンシップは、就職を目指す学生にとってはもちろんのこと、受け入れる企業にとっても優秀な人材を発掘・採用する上で重要な取り組みとなっている。特にベンチャー企業は、老舗の大企業と比べ知名度が高くないこともあり、優秀な人材を確保するためにもインターンシップに力を入れるところが多いようだ。

 スマートフォンアプリ開発を手掛けるイグニスも、そうした企業の1つ。イグニスはオリジナルキャラクターの「だーぱん」を起用したユーティリティーや、「サラリーマン金太郎」などの有名漫画を一部無料で提供する全巻無料型ハイブリッドアプリ、そしてソーシャルゲームなどのスマートフォンアプリ企画・開発を手掛け、今年7月には東証マザーズに上場するなど急成長を遂げている。

 同社も優秀な人材の確保を目指すべく、2013年にインターンシッププログラム「IGNIS SUMMER JOB 2013」を実施した。だがその内容は通常のインターンシップとは異なり、インターンは社内メンバーのサポートの元、アプリを企画・開発してApp Storeでランキング1位を目指すという、かなり挑戦的で実践的な内容となっていた。

 そしてこのインターンシップに応募した1人に、当時中央大学の学生であった山口さんがおり、ここからイグニスと山口さんの二人三脚によるアプリ制作が始まった。

「スマホを持ってない」学生がどうのようにアプリ制作を学んだ?

 そもそも山口さんはアプリ制作とは無縁ともいうべき、法学部の学生であった。にもかかわらず、なぜアプリ制作会社のインターンシップに応募したのだろうか。本人にその理由を聞くと、なんと「失恋したのがきっかけ」なのだそうだ。

photo イグニスのインターンとして「チャット分析 for LINE」を企画した山口大介さん

 傷心の山口さんがLINEでの彼女とのやり取りを振り返ったみたところ、「僕がメッセージを送り過ぎていて面倒臭く思われてしまい、返事が来なくなってしまった」(山口さん)ことに気が付いたという。そこでLINEのメッセージを送り過ぎていないか確認できるアプリ、すなわち現在の「チャット分析 for LINE」のようなものが欲しいと思ったという。

 だがアプリを作ろうにも、最近までスマートフォンを持っておらず、LINEはiPod touchで利用していた程。アプリ開発の知識を持っていないどころか、スマートフォンにさえ縁のない生活を送っていたのだ。そこで山口さんはまず、アプリ制作関連の会社に手当たり次第で連絡しコンタクトをとってみたのだが、全く返事はなし。それでもアプリ制作を諦められない山口さんは、アイデアを形にできる方法はないかと探し続け、その結果イグニスのインターンシップを見つけ出して応募したのだそうだ。

 インターンシップのプログラムではまず、「チャット分析 for LINE」のベースとなるアイデアを画面の遷移図にまとめ、そこからイグニスの社員から意見をもらうなどして内容を洗練させていった。

 App Storeで1位を目指すという目標が設定されていたことから、ユーザーが目にするインタフェースや説明文、名前など細かな部分に至るまで、山口さんが提案してはフィードバックを受けるという作業を繰り返して何度も修正を繰り返した。例えば診断結果の表示も、企画当初は詳細なデータを細かく出力して見せる仕組みとなっていたが、「ユーザーは複雑なデータを見せられても理解できない」と指摘され、表示内容を大幅にシンプルにしたという。

photophoto 「チャット分析 for LINE」の企画初期段階における画面遷移図。当初は相合傘などが登場するアイデアもあったようだ

 最も多く指摘を受けたのは、ユーザーの立場に立って考えるということだったと、山口さんは話す。分析ツールでは答えが出るまでボタンを押す回数が多いと、ユーザーに大きな負担となってしまう。単なる自己満足になってしまうことを避ける上でも、ユーザー目線を重視したアドバイスが役に立ったと、山口さんは感じているようだ。

 ただし社員からのフィードバックは、具体的に「ここをこうするべき」といった直接的なものではなく、「面白さを突き詰めるためのヒントをもらい、答えは自分で考える」(山口さん)ものだったという。こうした点には、インターンシップに参加した学生に考えてもらう機会を作り、アプリ制作を学んでもらうイグニスの狙いが反映されているといえるだろう。実際このインターンシップには、イグニスが社内のアプリプロデューサーを育てる際に用いたノウハウを多く取り入れているとのことだ。

photophoto App Storeでアプリ内容を紹介するスクリーンショットも、指摘を受けて当初のもの(写真=左)より大幅に変更改善を加え(写真=右)、その後もさらに細かな修正が加えられている

ランキング2位の実績に貢献したのはYouTuberと中高生

 山口さんがインターンシップに応募したのは2013年の6月末だが、実際にアプリが完成し、公開に至ったのは今年の6月。完成まで、実に1年近い歳月がかかったこととなる。当然ながら、応募当時は大学4年生だった山口さんも既に卒業していることから、異例の長さのインターンシップといえるだろう。

 これだけ時間がかかってしまったのは「僕がルーズだったから」と山口さんは話すが、山口さんが今後注力するという映像関連の活動に力を入れていたのに加え、実際にアプリを開発するイグニス社内のエンジニアやデザイナーが、企画完了時点でタイミング的にアサインできなかったことなど、さまざまな事情が影響したようだ。

 とはいえ、長い時間をかけたことから、制作途中のアプリを利用してもらったユーザーからのフィードバックを多く受けられ、アプリのブラッシュアップをする時間が得られたなど、メリットとなった部分もあると、山口さんは話している。

photophoto 現在公開されている、完成版の「チャット分析 for LINE」。当初企画していたものと比べ分かりやすく、扱いやすくなっている

 こうしてApp Storeに公開された「チャット分析 for LINE」は、インターンシップの目標である1位とはいかなかったものの、App Storeのトップ無料ランキングで2位を獲得。大きな話題となるなど確かな実績を残した。それでも公開当初は、エンターテインメントカテゴリで110位程度と伸び悩み、「現実は甘くない、1位は無理だなと思った」(山口さん)という。だがその後、人気のあるYouTuberが、YouTubeで同アプリを紹介する動画を公開。この動画を見た人達からの注目を集めたことで、ダウンロード数が大幅に伸びたのだそうだ。

 だが、それ以降もダウンロード数が大きく伸びたのは、YouTuberだけが理由ではないようだ。「Twitterでアプリをシェアする時、相手との診断結果もシェアできるようにした」(山口さん)と、SNS上で話題にしやすく口コミを誘発しやすい仕組みがあったことも、人気の広がりに大きく影響したといえるだろう。山口さんは「このアプリのターゲットは恋愛に強い興味を持つ中高生」と捉えており、中高生が口コミで話題にしやすい仕組みを構築していたことが、ダウンロード数の伸びに大きな効果をもたらしたようだ。

映像を学ぶため留学、新たな知識をアプリ制作にも生かす

 インターンシップで大きな成果を収め、アプリ制作に関する知識と自信を身に着けた山口さんだが、実はそのままイグニスへ就職した訳ではない。現在はフリーの立場で、同社と次のアプリ開発を手掛けている。

 なぜ就職に至らなかったのかというと、山口さんはインターンシップの参加以前より、映像を学ぶため米国に留学することが決まっていた。そのため、今回の取材直後である8月中旬には米国へと旅立っており、現在はSkypeなどを活用しながら、留学先でアプリ制作の仕事も進めているという。

photo iPod touchユーザーだった山口さんだが、留学のため、取材前日に初めてスマートフォン(SIMロックフリー版のiPhone 5s)を購入。「いやぁ、やっぱiPhoneはいいっすね」

 アプリ制作と映像という二足のわらじを履くことについて、山口さんは「今の時代、1つの仕事しかできない人はあまり必要とされていないと思う。インターネット業界でビジネスをする上でも、多くの知識が必要になるのでは。他の人と差別化していく上でも、今は(映像とアプリの)どちらか一方に振るより、やりたいことをやれればいいかなと思っている」と話す。より多くの知識を身に着けることが、アプリ制作においても生きてくると考えているようだ。

 山口さんは「今後はもっとエンタメ性を重視したものを作りたい。現在アプリ市場はゲームが断トツだが、今後は温かみを持つ、リアルな要素が求められるのでは」「例えば写真は、文字の数万倍の情報を持っているが、通常は撮影するだけで終わり。そうした部分に可能性があると考えている」とも話しており、今後開発したいアプリの方向性に関しても明確な方向性を持っているようだ。

 留学で新しい知識を学んだ山口さんとイグニスが、今後どのようなアプリを提供してマーケットを再び盛り上げていくのか、今後も楽しみだ。

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