あくまでデザインなどの監修にとどまり、開発の主体はメーカーに委ねているKDDIに対し、ソフトバンクモバイルは傘下に収めたSprintと端末を共同で開発した。
その第1弾となるのが、シャープ製の「AQUOS CRYSTAL」。フレームレスのディスプレイを採用し、まるで画面と周囲の空間が一体となったような見た目が特徴となる。液晶の端から光が広がるように、ガラスではなくアクリル素材を用いているほか、タッチパネルなどの部材もすべてこのモデル専用に見直し、フレームレスを実現したという。
記者会見に登壇したソフトバンクのマーケティング・コミュニケーション本部 マーケティング戦略統括部 統括部長 田原眞紀氏が「端末開発の効率化だけでなく、調達スケールの拡大によって競争優位性のある独自仕様の端末開発が可能になる」と語っているように、このモデルはソフトバンクとSprint、そしてSprintの回線を使った傘下のMVNOの独占モデルとなる。
他社と同様、ソフトバンクもAndroidでの差別化は強く意識しているようだ。田原氏が「競合の状況を見ると独自仕様の端末の引きが強い。AQUOS CRYSTALを我々としての戦略商品と考えている」と述べていたことからも、それが分かる。これまで、iPhoneに頼った一本足打法を続けてきたソフトバンクだが、「特に営業の現場からは、Androidをもっと売りたいという声が強くなってきた」(ソフトバンク関係者)。iPhoneが3社から出そろった今、Androidで差別化しなければならない状況はソフトバンクも同じというわけだ。戦略商品としての注力度合いは、「シャープのスマートフォンとしては過去最高の調達数になる」(同)ということからもうかがえる。
共同調達にあたっては、「共同開発プラットフォーム」が用いられた。端末のハードウェアはアンテナなどを除けばほぼ同じだが、そこに「通信キャリアごとの設定や、コンテンツの配信などを行っている」(プロダクト・サービス本部 商品企画統括部 統括部長 足立泰明氏)といい、今後の共同調達モデルにもこの仕組みを活用していく方針だ。
実際、ソフトバンク版にはシャープ独自の「Feel UX」が搭載されているのに対し、米国版はAndorid標準のホーム画面に近い。こうしたソフトウェアや通信関連の設定などを一括で変更する仕組みを活用したという。また、「検証についても、仕様の検討をあるパートはSprint、あるパートはソフトバンクというように(分担し)、工数を減らすことができた」(足立氏)のも共同調達のメリットといえるだろう。ソフトバンクとSprintの共同開発はコンテンツにも及び、アプリが取り放題になる「AppPass」というサービスも両社でスタートする。
一方で、「Sprintにはこれまで数多くのAndroidを販売してきた自負があり、簡単にはいかなかった」(足立氏)と、共同調達ならではの難しさもあった。米国でのボリュームゾーンを狙う必要もあり、端末の価格を抑えるため、端末のスペックもミッドレンジに落ち着いた。日本の売れ筋はハイエンド中心のため、この点がどう評価されるのかは気になるところだ。
また、ワンセグ/フルセグやおサイフケータイ、防水/防塵といった日本向けの機能、仕様に対応していないのは、AQUOS CRYSTALのウィークポイントといえるだろう。先の田原氏は「日本仕様が必ずしも必要でないという方もけっこうな数がいる。調達スケールに鑑みたとき、その効果を最大化する端末を投入すべきと判断した」と述べていたが、黎明(れいめい)期を除けば、日本仕様に非対応のAndroidスマートフォンはあまり市場に受け入れられてこなかった経緯がある。
ソフトバンクではワンセグ/フルセグやおサイフケータイなどを搭載した「AQUOS CRYSTAL X」も冬モデルとして用意しており、こちらにユーザーが流れる恐れもある。
「調達コストが下がり、結果としてユーザーに還元される」(足立氏)という点も、価格からは分かりにくい。AQUOS CRYSTALはHarman社の高音質化技術を搭載しており、日本では同社のスピーカーが付属する。これによって、本体価格が5万円台半ばになってしまった。米国では端末単体で250ドル程度と日本の半額以下の値付けで、共同調達のメリットがはっきりと出ているが、5万円台半ばだとほかのスマートフォンと大きく変わらない。毎月の割引で実質価格は抑えられているものの、インパクト不足なことは否めない。
端末を割賦で販売して、毎月の割引で実質価格を下げるという日本のビジネスモデルが足を引っ張った格好だ。「すべてにスピーカーが付属すると、家族で同じ端末を買いづらくなる」と指摘する声も聞こえるが、確かに一家に2台も3台も同じスピーカーはいらない。ソフトバンクモバイルにはAQUOS CRYSTALの単体販売も、ぜひ検討してほしい。
このように、ソフトバンクモバイルは、キャリアとメーカーの分業で独自モデルを生み出したKDDIとは方向性の異なるアプローチを取っている。KDDIは日本市場に合った端末が投入できるのが強みなのに対し、ソフトバンクモバイルはコストにメリットが出せる。海外での通信事業が大きなボリュームになっていない一方でアジアのメーカーが協業先として魅力を感じているKDDI。対するソフトバンクモバイルは、これまでAndroidが手薄だった半面、日米合わせたユーザー数は日本のどのキャリアより多く、スケールメリットを出しやすい。時期的に異例な両社の戦略商品には、2社の置かれる立場が色濃く表れているのだ。
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