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» 2015年03月18日 09時55分 UPDATE

モバイルフォーラム2015:メディア、研究員、中の人から見た“MVNOの向かう先”

総務省とテレコムサービス協会MVNO委員会が開催した「モバイルフォーラム2015」では、メディア、研究員、MVNOの中の人……といったさまざまな視点から、MVNOの現状とあるべき姿が語られた。

[田中聡,ITmedia]

 総務省とテレコムサービス協会MVNO委員会が3月17日、「モバイルフォーラム2015」を開催した。MVNO委員会は、モバイル市場の競争を促進し、サービスの多様化、料金の低廉化を促すことを目的としており、日本通信やIIJをはじめ、多くのMVNOが加盟している。

 2014〜2015年にかけて、MVNOとして参入する企業がさらに増え、いわゆる「格安SIM」と呼ばれるサービスの多様化が期待される。今回のフォーラムでは、MVNOを取り巻く現状と、未来に向けて求められていることなどが語られた。

「格安SIM」「格安スマホ」が注目を集めた理由と課題――石野氏

photo 石野純也氏

 まずは基調講演で、弊誌でもおなじみのケータイジャーナリスト、石野純也氏が「ユーザーやメディアの視点から見たMVNO市場」と題して、MVNOの現状や課題を説明した。2014年以降、「格安SIM」「格安スマホ」といった言葉がにわかに注目を集めているが、そのきっかけとして、イオンが2014年3月にイオンスマホを発売したことが大きかったと同氏は振り返る。

 MVNOに注目が集まっている理由として、1000円未満で月1Gバイトの通信ができるプランが増えたこと、音声通話に対応してMNPが可能になったこと、量販店や独自ショップなどが増えたことを挙げる。また、Huawei、LGエレクトロニクス、ASUS、ZTEなどの端末メーカーがSIMロックフリー市場に参入したことも大きい。大手キャリアが販売する高額なスマホよりも安く、ミッドレンジながらも十分な性能でサクサク使えるモデルの登場も、MVNOの普及を後押ししたと石野氏は見る。

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photo MVNOに注目が集まった理由

 一方で、MVNOにまつわる課題はまだ多い。例えば周波数が端末によって違うこと、MVNOのユーザーなのにSIMはドコモのものなので、ドコモショップに駆け込む人がいること、ドコモほど通信速度が出ない(ことがある)こと、MVNOによっては端末を壊したときの補償がないこと――などを石野氏は挙げる。特に周波数は複雑で、ドコモSIMが使える端末でも、機種によって対応周波数帯が異なる。これにSIMロック解除したauやソフトバンクのスマートフォンが加わると、さらに複雑になる。同氏は、これらの部分を一般ユーザーへどのように周知させるかが課題の1つとした。

photophoto 通信速度が思ったほど出ない、周波数帯が分かりにくいなどの課題も顕在化した

 ここまでプレーヤーが増えた中で、サービスを差別化するためには「価格以外の軸を打ち出すことが必要になる」と石野氏は訴える。例えば、楽天モバイル、DMM mobile、トーンモバイルのように、既存の会員基盤を生かすことなどだ。また、格安SIMを利用する端末は現在スマートフォンがほとんどだが、今後はウェアラブルや新たなIoTデバイスを取り込むことも重要になるとみる。同氏はパナソニックのデジカメスマホ「LUMIX CM1」を例に挙げ、写真をアップロードするために上りの速度だけ高速にして、下りの速度を抑えるという方法もあるのではないかと話す。

 また、スペインでは日本宛に通話の方が、スペイン国内の通話よりも安いSIMカードが販売されている事例も紹介。こうしたデバイスやユーザーごとにカスタマイズした柔軟な料金プランも求められてくるだろう。

photophoto 価格以外の競争軸を打ち出すことが大事になるほか、純増数を公開して、通信品質の表示方法をMNO同様のレギュレーションにするなど、競争軸を定量化することも重要だと石野氏は訴える(写真=左)。既存の会員基盤を生かすMVNOも増えてきている(写真=右)
photophoto スマートフォン以外のSIMがささる端末も増えている(写真=左)。国内よりも海外宛の通話料の方が安いSIMが、海外では提供されている(写真=右)

MVNOはICTの利活用や地方創生に向かっていく――西角氏

photo 西角直樹氏

 三菱総合研究所 主席研究員の西角直樹氏は、「多様化するモバイルサービス 〜IoT、地方創生とMVNO」と題して、社会の中で見たMVNOの果たす役割を解説した。この1年でMVNOの認知が進み、料金も安くなり、販路や端末も増えつつあるなど、MVNOを取り巻く環境は改善されている。西角氏は、今後はICTの利活用や地方創生などに向かっていくと予想する。三菱総合研究所が実施した電波関連産業の市場規模予測では、モバイル通信市場と同時に、ウェアラブル、生活家電、ロボット、医療機器などの周辺市場も成長していく見通しで、通信機能を内蔵したデバイスがさらに拡大することが期待される。

 モバイルやMVNOが地方創生に果たす役割として、西角氏はイギリス、フランス、イタリアなどで郵便局がMVNOに参入していることに言及し、フランスで地域住民に密着したサービスや、手厚い拠点などを展開して成功を収めた事例を紹介した。

 日本では愛媛CATVがIIJの支援を受けてMVNOサービスを展開しており、高齢者に配慮したUIのスマートフォンを展開していること、スマホの使い方教室や出張設定など手厚いサポートを行っている事例を紹介した。こうした地域ニーズに沿ったサービスを提供することで、地域産業が活性化することが期待される。

photophoto MVNO関連でこの1年起きたことと、今後の方向性(写真=左)。さまざまな分野でICTの利活用が進んでいく(写真=右)
photophoto 海外では、郵便局のMVNOが地方創生に貢献している(写真=左)。日本では愛媛CATVが地方のMVNOとして成功している(写真=右)

大手キャリアができないことをやる――日本通信 福田氏

photo 福田尚久氏

 MVNO委員会を代表して、日本通信 代表取締役 副社長の福田尚久氏が「MVNOサービスとは?」と題して、これまでのMVNOの歴史を振り返った。まず福田氏は、MVNOは「日本で生まれて、日本で育った」サービスであることを強調。「MVNOはあたかも海外で普及して、それを日本が追いかけているような錯覚に陥っているが、日本通信が1996年の創業時に始めたものが、世界で最初のMVNOサービスだ」と同氏は説明。

 日本通信は、2001年にはPHS回線を用いたデータ通信サービスを開始したが、当時の通信速度は32kbpsと遅く、そこから128kbpsとなり、徐々に高速化を果たしていった。2002年にはプリクラのマシンにPHS通信を搭載し、シールの画像をケータイへ転送するサービスの仕組みを作ったが、これもMVNOサービスの1つだ。その後、ドコモとの相互接続を果たし、より高速なネットワークを用いたサービスが可能になった。当初はUSBドングルを使ったものだったが、2010年には「b-mobile SIM」としてSIMカード単体での販売を開始。ここから多くの事業者がMVNOに参入を果たしたことは、説明するまでもないだろう。

photophoto 2001年からのMVNOサービスの変遷

 SIMカードはPC、スマートフォン、モバイルWi-Fiルーターなどさまざまなデバイスで使われるようになり、利用シーンが拡大。2011年には通信速度を抑えた月980円からのイオン専用SIMも発売。「イオンさんから980円のSIMをやろうと言われたときは、そんなバカなと思った」と、福田氏も最初は驚いたようだが、今では多くの事業者が展開している低速・格安SIMのはしりともいえる商品だ。2014年にはイオンスマホの提供が始まり、先日発表された「VAIO Phone」も、イオンで購入できる。

 日本通信が「MVNOの使命」として常々掲げていることは「携帯事業者ができない・やりたくない通信サービスを提供する」こと。その一環として、2011年に、SIMロックフリースマートフォン「IDEOS」に050番号を用いるIP電話サービスをプリセットした「モバイルIPフォン」を発売。MVNOがIP電話サービスを提供することは当時は珍しかったが、今では複数の事業者が同様のサービスを提供している。災害時にもつながりやすいということで、後に起きた東日本大震災後には、宮城県や福島県の災害対策本部などでモバイルIPフォンが活躍した。

photo 東日本大震災後の災害現場でも活躍した「モバイルIPフォン」

 農作物被害を防ぐために、京都府の丹後通信が展開している「有害鳥獣捕獲監視装置」は、イノシシなどの有害鳥獣が捕獲された際に、その情報を携帯電話へプッシュ送信するというもの。日本通信はこの装置が内蔵している通信機能を提供しており、こうした特定地域のニーズに応える活動も行っている。

 米国Contour向けのATM向け通信サービスでは、AT&TとVerizonのネットワークを統合して冗長化した「デュアルネットワークルーター」を提供している。異なる通信キャリア2社の回線を使うことは、通信キャリア自らはやりにくい。「ドコモがauのネットワークを借りてデュアルにするかといえば、たぶんされない」と福田氏。こうした取り組みも、MVNOならではといえる。

photophoto 丹後通信のMVNOサービス「有害鳥獣捕獲監視装置」(写真=左)と、ContourのATM向け通信サービス(写真=右)

 現在、日本通信が注力しているのが、固定とモバイルを一体にした「FMCフォン」のサービスだ。例えば「03スマホ」では、スマートフォンで03から始まる固定電話の番号で電話を発信したり受けたりできる。「料金だけでなく、新しい価値を提供したい」(福田氏)

 福田氏は「MVNOは海外の方が進展しているが、日本も改革のスピードを上げて取り組む必要がある。もう一度、日本が世界でリードした環境に持っていきたい。(既存の)3キャリアだけでは、とても全国のニーズに応えることはできない。地方の方々や異業種の方々と一緒になって、全員参加で取り組むことが必要だ」と話し、MVNOのさらなる拡大を願った。

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