インタビュー
» 2015年04月14日 09時25分 UPDATE

橋本氏に聞く――イオンがスマホ事業に参入した理由と春夏モデルの狙い (1/2)

大手流通企業のイオンがSIMロックフリー端末やMVNOのSIMカードの販売に継続して取り組んでおり、3月から2015年春夏モデルを販売。イオンはどんな考えでスマートフォンを販売するに至ったのか? イオンスマホを統括する橋本昌一氏に聞いた。

[石野純也,ITmedia]

 大手流通企業のイオンが、「イオンスマホ」を取り扱い始めたのは2014年4月のこと。Googleのリードデバイスである「Nexus 4」と、日本通信のSIMカードをセットにして、月額2980円(税別、以下同)という価格を打ち出した。もともと、幅広い顧客を抱えるイオンだけに、この取り組みは大きな話題を呼び、8000台の限定販売ながらすぐに完売。「格安スマホ」や「格安SIM」というキーワードを一般層にまで押し広げる一因となった。

 イオンはSIMロックフリー端末やMVNOのSIMカードの販売に継続して取り組んでおり、イオンスマホは第2弾、第3弾と矢継ぎ早に発売されることになった。そして、3月から「春夏モデル」としてスマホ3機種を拡充。日本通信製の「VAIO Phone」や、京セラ製の「KYOCERA S301」が発売された。4月には、ソニーモバイルとして初のMVNO向け端末となる「Xperia J1 Compact」が発売される。いずれもNexus 4と同様、SIMカードとのセット販売が行われる。

 初代イオンスマホから約1年がたち、ラインアップを拡大していることからも分かるように、販売は好調。先に開かれた記者会見では、すでに黒字化も果たし、今後も継続してラインアップをそろえていくことが明かされた。

 とはいえ、イオンとSIMフリースマートフォンやMVNOというと、どこかミスマッチな印象を抱いている読者もいるかもしれない。イオンはどのような方針からスマートフォンの販売に踏み切ったのか。また、実際どのようなユーザーがイオンスマホを支持しているのか。イオンリテール 住居余暇商品企画本部 デジタル事業部でイオンスマホを統括する、橋本昌一氏に、その全貌をうかがった。

photo イオンリテール 住居余暇商品企画本部 デジタル事業部 橋本昌一氏

初代のイオンスマホがNexus 4だった理由は……

―― 初代イオンスマホのNexus 4が発売されてから、間もなく1年がたとうとしています。改めてこの1年を振り返って、まずはこの取り組みを始めたきっかけを教えてください。

橋本氏 イオンでは、もともと既存キャリアの売り場を全国で200店舗ぐらい展開しています。そういった中で、お客様からは「通信料が高い」という声をいただいていました。また、イオンスマホを始める2年ぐらい前から、SIMカードだけの販売は手がけていて、そちらも好調になってきました。そこに何か独自性を出せないか、ほかにやりようがあるのではないかということで、内部でいろいろと話し合いをしてきました。

 まず最初に立てた仮説が、お客様は既存のキャリアで全て満足していないのではないかということです。言い換えると、何かご不満があるということです。日本ではガラケーのお客様がまだ半数ぐらいいますが、海外だと7割、8割がスマホになっています。このギャップは何なのか。ガラケーのお客様の定義を、スマホの見込み客と定義して、すんなり移行しない理由を考えていきました。

 何か問題がある。その仮説として出したのが、「通信料が高い」ということや、「2年契約になっている」ということです。料金が高くなるのに、使いこなせなかったらガラケーに戻りたくても容易に戻れない。ここに対して、ソリューションを提供できないかと考えたのが、第一歩です。

 ただ、(イオンスマホを出す)半年ぐらい前までは、なかなか難しいこともありました。そもそも、SIMフリー機の入手が難しかった。それがどうやらできそうだということになり、既存キャリアの販売手法と似た形にすればお客様のなじみがあるのではないか、受け入れられるのではないかということで、今の形でイオンスマホを始めています。

―― その初代イオンスマホは8000台の限定販売でしたが、すぐに完売したとうかがっています。これは、実験的なものだったのでしょうか。

橋本氏 実を言うと、4月にスタートする計画は当初からありましたが、第2弾の「geanee FXC-5A」が出るまで、Nexus 4を第1弾としてやっていくという計画でした。2014年4月は消費増税もあり、マネーセービングの意識が高まっていたからです。このタイミングでやることに意義があるのではないかと考えていましたが、やはり生産の前倒しはできなかった。タイミングを早くするにはどういう手法があるのか模索し、市場を当たってみたところあったのが8000台のNexus 4です。それを利用し、8000台限定という形でやらせていただくことになりました。

photo 約1年前の2014年4月に発売した初代イオンスマホ「Nexus 4」

―― 購入されたユーザー層の年齢層が高かったというのは、イオンらしいところですね。

橋本氏 私たちの主要顧客は、「G.G世代」と呼んでいる55歳以上の方々です。そことファミリー、そしてそのお子さんが多くなっています。G.G世代の方々は、可処分所得がどんどん大きくなっていますし、最初にガラケーから移行しない客層とも近いものがあります。そういうお客様が店舗に来られていたこともあり、取り組みがスムーズにいきました。

―― その後、第2弾、第3弾と続けていったわけですが、どのような観点で端末をそろえていったのでしょうか。

橋本氏 第1弾のときは通信速度を200kbpsに抑えていました。今考えると、なんという速度だと思いますが(笑)。その速度を、第2弾では3Gの(ドコモで)最速である14.4Mbpsにしました。第3弾についてはLTEを導入して、下り最大150Mbpsに上がっています。つまり、だんだんと通信スペックが上がっていったわけです。

 当初は端末の割賦金と通信料を合わせて2980円でしたが、これを第2弾では1980円に落としました。第3弾では2980円に戻りましたが、速度はLTEです。G.G世代の方でも、スマホを使って楽しくなる、便利になるということを体感していただかないと、やる意味がありません。お客様のニーズをお伺いしながら、それにお応えするような形にしていきました。

photo 第3弾モデルから通信速度が下り最大150Mbpsに上がった

―― 実際、通信速度を上げた反響はありましたか。

橋本氏 第1弾、第2弾で接客をしているときに、通信速度が遅いということはデメリットとして、しっかりご説明していましたが、第3弾では通信速度が一緒(最高速度がドコモの現行モデルと同じ)ということで、お客様の抵抗感が下がっていったように感じています。第1弾のときはMVNOという言葉もそもそも分からないし、一般の方はメガキャリア以外がこういうセットを売り出すということもご存知ありませんでした。そういう中で、私どもはサービスのレベルを上げていったのです。

40代のユーザーも増えてきたのでラインアップを拡充

―― そのイオンスマホが、春夏モデルでは一気に3機種が発表され、ラインアップが充実した印象を受けました。その理由を教えてください。

photo 春夏モデルでは「VAIO Phone」「KYOCERA S301」「Xperia J1 Compact」を発売

橋本氏 私どもの顧客は、本来ITリテラシーが低く、初めてのスマホで、バリバリ使いこなしてスペックにこだわっている方ではありません。そういう方には、既存のキャリアを選択肢としてオススメした方がいいと思っています。ただ、ガラケーとスマホなら、スマホの方が画面が大きく、それだけですごくいいと感じる方も多くいます。スマホだと、コミュニケーションのルートが築けるのも大きいですね。お孫さんとやり取りするときにLINEが使えますし、孫の写真を友だちに自慢するときも、ガラケーの小さい画面よりスマホの方が大きくていいわけです。この想定がだんだん下がっていきました。

 年齢層の分析をしてみると、想定していたとおり、第1弾のときは50歳以上が64%でした。これが第2弾になると51.7%、第3弾では46.3%になっています。そこが下がっている代わりにどこかが上がっているのですが、それが40代です。第1弾のときは17.2%しかいませんでしたが、どんどん上がってきています。

 これは、第1弾がG.G世代にはまり、MVNOが周知された結果ではないかと思っています。また、40歳代にも節約志向の方が増えてきたこともあると思います。第3弾では35.4%と、世代別では一番大きくなってきました。

 私たちは常に仮説を立て、検証をしていますが、そういった中で、40代の方が求めるものとG.G世代の方が求めるものは必然的に違うということも分かってきました。G.G世代の方は消費にこだわりがありますが、こだわるものが家具や衣類、素材に対してで、こうした知識が豊富な一方で、ITに関しての商品知識はそれほど豊富ではありません。端末にはそこまでこだわっていないのです。

 これに対して40代は、G.G世代よりITの知識が高いのですが、20代や30代と比べると高くはなく、まずブランドに対するこだわりがあります。また、ある方はおサイフケータイ、ある方は頑丈さ、ある方は通信容量と、こわだりも多様化してきます。これを1機種で充足しようとすると、やはり価格が高くなってしまいます。

 私たちのイオンスマホに対する考え方の基本は、トレードオフです。求めるものは充足していきますが、そのほかは省いていく。省いたことによって、安いコストで提供するという方針です。ですから、質問にお答えすると、40代が増えてきたことに対し、選べることが重要になってきたということです。

―― それ以前に富士通製の「ARROWS M01」を導入しましたが、そちらについてはいかがですか。

橋本氏 こちらは第4弾としてやりましたが、40歳代は29.5%に下がっています。富士通さんのスマホはG.G世代用として、簡単スマホと言っていたからです。こうなると、40代の方は「違う」と感じます。ここでも、はっきりとニーズが違うことを認識できました。

―― 富士通のARROWSから日本メーカーの端末になりましたが、SIMフリーに関してはやや海外メーカーの方が市場に出てくるのが早かった印象があります。やはり、調達は大変だったのでしょうか。

橋本氏 先ほど申し上げたように、第1弾(Nexus 4)をやるときは大変でした。当時はSIMフリーのスマホを入手すること自体のハードルが、すごく高かったですからね。日本のメーカーとも商談はしていましたが、なかなか話し合いにならないこともありました。ただ、報道も増え、メーカーさんの考えも柔軟になってきたと感じています。

イオンがMVNOに乗り出す可能性も?

―― すでにVAIO PhoneとKYOCERA S301は店頭に並んでいますが(インタビューを実施したのは3月末)、反響はいかがでしょうか。

橋本氏 やはり動きはいいですね。VAIO Phoneも売れてはいますが、やはり京セラの人気が高いです。“丈夫”という点が、私たちが思っていた以上に買われています。土日も応援販売に行っていましたが、2機種が並んでいると、お客様はまずどちらにしようか迷われます。イオンスマホにしようというお客様がいて、新しい端末が2つ並んでいるわけです。片方はブランドがありますが、やはり2万円の差がありますからね。これが5000円ぐらいの差なら違うのかもしれませんが、安くて丈夫ならというので京セラを買われていく方が多くいます。

―― やはり価格が効くんですね。割賦で月いくらという見せ方をしていますが、ここに対する考え方を教えてください。

橋本氏 本体と通信料を合わせて、月4000円未満でやっていきたいと考えています。4000円を超えるとメガキャリアで十分で、僕らがやる領域ではなくなってきますからね。(今回の端末は)そういう中でのギリギリぐらいです。この動向を見て、今後を考えていきたいと思います。

―― ちなみに、今回一気に3機種を出しましたが、通信事業者がそれぞれ違うのには何か理由があるのでしょうか。ユーザーから見ると、若干分かりづらい気もします。

橋本氏 通信のサービスは、MVNOさんを1つと決めているわけではありません。洗剤にたとえると、花王さんのものを販売したらP&Gはやらないのかというと、そういうことはないわけです。そのときに応じていい商品、いいサービスを限定することはありますが、お客様はそれがどこでも快適なら問題はないと思っています。おそらくお客様の目から見ると、イオンと“ドコモのMVNO”という理解になっています。このMVNOがいいというところまでは、いっていないと思います。

―― いっそのこと、イオンでMVNOをやるということはないのでしょうか。

橋本氏 可能性としては、いろいろなところを探っていますし、それがいい方法なら挑戦したいと思います。

 ただ、私どもは北海道から沖縄まであるので、全国展開できる面では(提携しているMVNOに)メリットを感じていただけています。実機を全部展示していますし、やはり通信サービスはデータだけではお客様が踏み込みにくい。リアル展開にはこだわっていきたいと考えています。

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