安全・安心なインフラ作りのために――ドコモ関西の取り組み(前編)

» 2016年01月15日 06時00分 公開

 地震が起きたとき、人々は避難する際に何を持っていくだろうか。

 東日本大震災当日、自宅もしくは職場から避難した人々が何を所持していたかを調べたところ、「財布・重要書類」の70.7%を上回って「ケータイ」が79.6%でトップとなった。今や財布や書類よりも携帯電話の方が非常時に「携帯」されるのだという。それほど私たちの生活には携帯電話が欠かせないツールとなっている。

 しかしその万が一のとき、肝心のネットワークが機能しなかったら、携帯電話は何の役にも立たない。ユーザーの安全・安心なインフラ作りのために、キャリアはどのような対策を取っているのだろうか。今回は普段あまり見ることのない、NTTドコモ 関西支社のネットワークを支える裏側を取材した。

ドコモインフラ「西の守り」。西日本NOCとは?

 筆者が向かったのは、大阪府某所の西日本ネットワークオペレーションセンター(NOC)。ここでは九州・沖縄までも含む西日本エリアのネットワークを監視。各地で起きた通信トラブルのアラートが最初に届くほか、遠隔操作で基地局設備やネットワークの制御や復旧まで行う。365日・24時間体制で稼働する“西の司令塔”である。

ドコモ関西 西日本ネットワークオペレーションセンター(NOC)の内部

 最初に目に入るのが、オペレーター席の眼前に広がる巨大なスクリーンだ。画面には4色に色分けされたさまざまな障害情報が入ってきて、それらを監視している担当者のPCにも情報が共有される。その様子は「司令室」そのものだ。

 ネットワークオペレーションセンターに勤務する技術スタッフは、アクセス(基地局)、ノード(交換局)、リンク(基地局と交換局をつなぐ)、ネットワークの4つの担当チームに分かれている。彼らはチームごとに色分けされたジャンパーを着て業務に当たっており、トラブル発生時には連携しながら原因を特定していくという。

ドコモ関西 それぞれ色違いのジャンパーを着用し、どの担当かひと目で識別できるようにしている

 ネットワークにおける設備故障などの発生時は、ネットワークコントロールとの連携や現地保守部門への手配や指示、技術的サポートなど迅速な装置修理・故障回復を行い、サービスの復旧を最優先に行う。

 非常時だけでなく、大量のトラフィックが発生しそうなときにも対策を講じる。大勢の人間が一度に大量の通信を行うため、高速渋滞のようにネットワークが混雑する「輻輳(ふくそう)」が発生してしまう。そこで大規模なイベントやチケット販売前には事前に措置を検討し、的確なトラフィック制御を行い、最適なサービス提供を可能にしている。

最新技術が注ぎ込まれたドコモの移動基地局車

 ネットワークオペレーションセンターが通信インフラを構成する“後衛”だとすれば、基地局まわりは“前衛”である。なかでもドコモが誇る移動基地局車は、前衛の中でも最前線の機動部隊といえるだろう。同社では災害対策や大規模イベント時の輻輳回避の有用性から移動基地局車を重視し、全国規模で導入と配備を進めてきた。また移動基地局車に搭載する技術も最新のものを投入してきた。移動基地局車の技術力や配備数において、ドコモは他キャリアを圧倒している。

 その移動基地局車の中でも特に注目なのが、「PREMIUM 4G」(LTE-Advanced)対応の移動基地局車「P-BTS」だ。これは2GHz、800MHz、1.5GGz、1.7GHzのクアッドバンドのLTEサービスに対応しており、災害時の回線確保のみならず、イベント時などは快適な通信環境の提供に貢献。白い車体にドコモのロゴ、車体の上から伸びるアンテナが特徴のこの車両を見たことがある人も多いかもしれない。

ドコモ関西 移動基地局車「P-BTS」。ドコモ関西は現在3台を配備している

 P-BTSは非常時だけでなく、大型イベントへの輻輳対策としても出動している。関西では天神祭、なにわ淀川花火大会、岸和田だんじり祭などだ。関東ではコミックマーケットにアニメキャラクターをラッピングしたP-BTSが出動し話題となったこともある。

 これまでも大規模イベントで移動基地局車が周辺一帯の通信容量を増やすために出動することは多かったが、PREMIUM 4G対応のP-BTSならばその効果は絶大だ。スマートフォンが普及し、TwitterやInstagramへの写真のアップロードが一般化した昨今だからこそ、最新のLTE技術に対応した移動基地局車の存在は重要なのである。

ドコモ関西 リモコンでアンテナの高さを上下操作する
ドコモ関西 数十秒かけて最大10メートルまで伸びる

 無論、PREMIUM 4Gの高速データ通信を支えるには、P-BTSから先のバックボーン回線をどう確保するのかという課題がある。同車には衛星通信用のパラボラアンテナを備えているが、バックボーンが衛星では最低限の通信容量しか確保できない。そのためP-BTSでは車体にバックボーン用の光ファイバーを直結できるほか、近隣基地局と70/80GHz帯(E-Band)の無線で伝送路を構築する「高効率ミリ波伝送システム」を設置している。

 このE-Bandアンテナは直径約23センチほど。車体上部にあり、近隣基地局のE-Bandアンテナと対向させて使用する。今回は敷設時の手順を体験させてもらったが、アンテナ横に取り付けられたターゲットスコープ(照準器)をのぞいて受け手のアンテナを照準の中心に入れる。この際にアンテナ同士が正確に向き合わせになるほど電波の受信感度が高くなり、バックボーンの通信容量が増えていく。オペレーターの技量が試されるところであり、気分はまるでゴルゴ13である。

ドコモ関西 受け手となるアンテナ。実地では2〜3キロ先まで離れていることもあるそうだ。まるでスナイパーのようにレンズをのぞいて十字の中心をアンテナに合わせる

 ドコモではP-BTSのような移動基地局車だけでなく、移動電源車も多数準備している。災害等により電力が供給されなくなったときや、計画停電の場合でも移動電源車を基地局につなげば、一定時間の稼働が可能になっている。東日本大震災の際には、大規模かつ長時間にわたる「電源喪失」により、基地局設備や伝送路が無事でも通信インフラが使用不能になってしまったという教訓がある。かつて移動電源車は移動基地局車の電力バックアップが主な役割だったが、現在では基地局設備そのものの電力バックアップとして配備が進められている。

ドコモ関西 こちらは基地局の設備を小型化、分割化することで運搬を容易にした「可搬型衛星エントランス基地局」。衛星回線を使うことであらゆるロケーションに対応できる
ドコモ関西 土砂崩れなどにより移動無線車が通行できない場合などに活躍する救済システムだ

それでもなお、日本のスマホ料金は高いのか?

 2015年は政府のタスクフォースがきっかけで「携帯料金が高過ぎる」といった意見をよく目にするようになった。しかし日本は欧米など諸外国と比較して、山間部から住宅密集地まで電波の届きにくい立地が圧倒的に多い。インフラ整備・エリア拡大の観点だけで見ても、他国よりもコストがかかる構造になっている。さらに日本は世界的にもまれに見る「災害大国」である。地震はもちろん、豪雨、豪雪、津波などさまざまな自然災害が起こりやすい立地なのだ。

 このような環境下でも、ドコモをはじめとする大手キャリア各社は設備投資と災害対策を地道に行い、高品質なだけでなく、災害や輻輳に強いインフラを実現してきている。テレビや一部の“有識者”が持ち出した「日本のスマートフォン料金は海外より高い」というフリップボードには書かれてない、大手キャリア各社の不断の努力にも目を向けるべきではないだろうか。

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