インタビュー
» 2016年04月13日 06時00分 UPDATE

最終目標は「犯罪を減らすこと」――ドコモが「スマホ・ケータイ安全教室」に取り組む理由

携帯電話と子供は、今や切っても切り離せない関係になりつつある。それだけに、正しい付き合い方を教えることが重要になる。小中高校生を中心とする層に向けて「スマホ・ケータイ安全教室」を実施しているNTTドコモに、その背景を聞いた。

[田中聡,ITmedia]

 携帯電話と子供は、今や切っても切り離せない関係になりつつある。それだけに、早期から正しい使い方を教えることが重要になる。NTTドコモは、スマートフォンや携帯電話を安全に使う方法をレクチャーする「スマホ・ケータイ安全教室」(以下、安全教室)を、全国の学校を中心に、2004年から無料で実施している。2015年3月末までに約4万8000回、約704万人(2015年3月末時点)が受講した。

 安全教室は、主に小学校高学年を対象にした「入門編」、主に中高生を対象にした「応用編」を多く実施しており、他に「保護者・教員編」「特別支援学校編」「シニア編」も用意している。2月に東京都の小学校で開催された「入門編」を見学してきたが、スマートフォンのメリットから注意事項までを、実際に起こりうる事例を交えて丁寧に説明していた。

スマホ・ケータイ安全教室 2月に小学校で実施した「スマホ・安全教室」の「入門編」

 ドコモはどのような考えのもと、安全教室を実施しているのだろうか。NTTドコモ CSR部長の川崎博子氏に話を聞いた。

情報モラルと道徳は違う

スマホ・ケータイ安全教室 NTTドコモの川崎博子氏

 ドコモのが安全教室を実施している理由について、川崎氏は以下のように説明する。

 「携帯電話は便利に使っていただける反面、子供が犯罪に巻き込まれたり、高額請求になったり、睡眠時間を削られて成長に悪い側面が見えたりする中で、携帯電話を使わずに一生を終えられるかというと、そうではありません。ちゃんと便利に使って豊かな生活を送っていただくことで、よりよい社会につながっていけるよう、ドコモとしてもお手伝いできるのではと考えました」

 今やスマートフォンは子供でも当たり前に使う時代になり、教師や親だけで正しい使い方を教えるのは難しくなりつつある。むしろ、親よりも子供の方がスマホに詳しい場合もあるだろう。「フィルタリングサービスは、キャリアが提供するネットワーク側では制御できますが、Wi-Fi環境ではくぐり抜けられてしまい、ネットワークの“無菌室な状態”は作れなくなっています」と川崎氏は実情を話す。

 このような状況下で、子供がどれだけ安全に携帯電話を使えるかが重要になるが、既存の学校教育の中で教えることは現実的ではない。例えば小学校には「道徳」という授業があるが、これは日常生活におけるモラルを教えるもので、これがそのまま携帯電話の世界に当てはまるとは限らない。

 「(安全教室の教材を監修している)坂本先生は、『情報モラルと道徳は違う』とおっしゃっています。学校の道徳では『知らない人には親切にしましょう』『困っている人がいたら助けましょう』『まず自分の名前を名乗りましょう』といった、人としてきちんとお付き合いすることを教えていますが、それと同じことを、ネットワークの世界でやっていいかというと、必ずしもそうではありませんよね。例えばプライベートな情報を教えることで、子供自身が危険に巻き込まれていく恐れもあります。インターネットの世界での立ち振る舞いと、リアルな世界での立ち振る舞いは違います。これは社会全体で知っていかないといけません」(川崎氏)

 スマートフォンが普及するにつれ、子供たちのコミュニケーションのあり方も変わりつつある。例えばFacebookでは、「いいね!」の評価やコメント欲しさのために、悪ふざけが過ぎる投稿を目にすることも珍しくない。飲食店のアルバイト店員が不適切な投稿をして営業妨害にまで発展した事例は記憶に新しい。リアルでしてはいけないことはネットの世界でしてはいけないことは分かっていても、いいね!が欲しいという気持ちが強するために、このようなことが起きてしまうのだと川崎氏は話す。これは、簡単に反応が来るというスマホアプリの特性も関係しているだろう。

実施回数や講師はもっと増やしていく

 こうした情報モラルから逸脱した事例を起こさぬよう、子供たちには日頃から啓発していく必要がある。スマートフォンの普及に合わせて安全教室の受講人数は増えており、スマホトラブルについて多くの学校が不安視していることがうかがえる。特に小学校での開催が多く、中でもスマホデビューする小学生が多い都市部での開催が増えているそうだ。

 安全教室は学校側がドコモに申し込む形で開催が決まるが、新学期が始まる4月や、夏休み前の問い合わせが多いとのこと。警察署の交通安全教室と合同で実施し、交通マナーとスマホマナーを同時に教えるケースもある。一方、夏休み中や学校行事が忙しいときなど閑散期もあるが、「全体を平準化することで回数を増やしていく」と川崎氏。4月からは実施回数と講師数をさらに増やしていくそうだ。

スマホ・ケータイ安全教室 安全教室はドコモのWebサイト、またはFAXから申し込める

 申し込みをした学校の対象生徒は無料で受講できるが、残念ながら、安全教室は個人で申し込むことはできない。例えば自治体と連携して、対象の地域の住人(子供)なら、誰でも自由に受講できる環境を作ってもいいだろう。川崎氏も「学校だけだと(参加者は)決まってくるので、区民会館を借りて毎日実施したり、エリアによっては教育委員会と連携してやるのもいいでしょう。あるいはショッピングセンターで場所を借りて実施すれば、これまでアプローチできなかった人にも参加いただけるでしょう」と話し、機会の拡大は前向きに検討するとのこと。

 今のところ、KDDIやソフトバンクと連携して安全教室を展開することは考えていないそうだが、日本の携帯電話では最も契約数が多いドコモが率先してやっていくべき、と川崎氏は考える。「こういう活動は、100万人に対して実施したからいいというわけではありません。何度も聞くことで定着することもありますし、1回も聞いていない子供たちもいます。もっともっと増やしていきたいですね」と川崎氏は意気込む。

講師と教材の品質にもこだわり

 安全教室の品質を担保するのが「講師」と「教材」だ。

 講師については、ドコモ本社やグループ会社で専任のスタッフを抱えており、人数は2016年3月末時点で159人に上る。1人あたり年間で平均30〜40回のレクチャーをこなしているそうだ。講師のスキル向上につながるよう、年に1回、講師を対象とした講習会を実施しており、お茶の水女子大学 基幹研究院 人間科学系の坂元章教授が子供のスマホ環境の問題点と、業界の動向をレクチャーしている。さらに、講師同士で定期的に集まり、スキルを向上させる実践的な取り組みも行っている。

 教材は年に1回改訂しており、子供たちが抱えている問題点や、こういうことを教えてほしいといった声を反映していく。坂本教授や、インターネット利用者行動研究室 室長の意見も取り入れている。

スマホ・ケータイ安全教室 入門編の教材ではイラストや写真、動画をふんだんに使い、パッと見でスマホのトラブルをイメージできるように努めている

 教材はドコモのWebサイトから無料でダウンロードできるので、子供にスマホを持たせている人は、ぜひ目を通してほしい。「(教材を見て)ちょっと便利だと思ったなら、つまみ食いしてお子さんにお話しいただくのでも全然構いません」(川崎氏)

スマホ・ケータイ安全教室 教材はドコモのサイトから入手できる

最終的な目標は「犯罪を減らすこと」

 10年以上にわたって安全教室を実施しているが、スマートフォン(携帯電話)に起因する犯罪が「減っているとも増えているとも言い難い」(川崎氏)のは、ドコモとしても悩ましいようだ。「2013〜14年は、歩きスマホをして駅のホームで転落する、悪ふざけの投稿による営業妨害、LINEいじめ、出会い目的のLINEなどの報道が目立ちました。今はこうした報道は減ってはいますが、警察の検挙を見ると、大きな変化はないですね」と川崎氏は振り返る。

 それでも、「最終的には犯罪を減らしたい」と川崎氏。犯罪には子供が加害者になるケース、被害者になるケースの両方が想定されるが、しっかり啓発することで、どちらも未然に防げるはずだ。「大人になると、スマホの使い方は変わってきて、もっと生活に密着します。それは当然の流れなので、そういう時代に生きる子供たちが、上手なITとの付き合い方や、社会自体が豊かになる使い方を学んでいくことは、とても大事だと思います」(川崎氏)

 教材を無償で公開し、安全教室の参加費を無料としているのも、多くの契約者を抱える通信キャリアの責務だと考えているため。「私たちは、お客さまにお支払いいただいている携帯料金で営んでいるので、その人たちが幸せな環境で使っていただくために、お金は取るべきではないでしょう」


 ドコモが2016年に提供している「学割」では、25歳以下のユーザーに毎月6GBのボーナスパケットがプレゼントされる。これによって若年層のスマホ利用がさらに促進されそうだが、前提として「正しく使う(誤った使い方をしない)こと」を理解しておくべきだ。そのカギを握る安全教室は、全ての若年層に受講してもらえる環境作りが当面の課題といえる。さまざまな機関と連携し、教室の機会拡大にも期待したい。

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

この記事が気に入ったら
ITmedia Mobile に「いいね!」しよう