NTTドコモが今夏の発売を予定しているAndroidケータイ「HT-03A」。iPhoneと同じ全面タッチパネルを採用しているが、使い勝手や操作感についてはいろいろと違いがあることを前編でリポートした。後編では、両者の共通点を見ていく。
HT-03AはAndroid Marketに対応しており、Android向けに公開される世界中のアプリを自由にダウンロードして使えるのが大きな特徴だ。
こうしたマーケット展開は、iPhoneがApp Storeの導入でさきがけており、この4月にダウンロード数が10億を突破するなど好調に推移している。iPhoneアプリの開発環境は、モバイル系の開発ベンダーにはあまりなじみのないObjective-Cベースだが、課金システムがしっかりしていたこともあり、開発コミュニティは盛り上がりを見せている。
Android向けアプリは、すでに開発コミュニティがあるJava SEで開発できるなど、アプリ開発の下地が整っている。アプリへの課金は7割を開発者の利益とする点はApp Storeと同じだが、残りの3割はキャリアや決済費用に充てられる。App Storeはキャリアを介さずアプリ販売や課金の仕組みを構築しているが、Android Marketは、キャリアの収益源にもなりうる可能性がある点が異なる。
App StoreもAndroid Marketも、開発したアプリをアピールするためには、ユーザーに直接訴えかけるマーケティングや戦略が必要になる。これは、キャリアのポータルサイトの上位に名を連ねるための戦略とは、異なるものになるだろう。
HT-03AとiPhoneのもう1つの共通点は、クラウドとのつきあい方だ。
HT-03Aでは、写真はPicasaへ、動画はYouTubeへと、撮影したそばからアップロードでき、その後はPCやほかのケータイからでもWebを介してデータを閲覧可能になる。iPhoneも、Flickrと連携するアプリを使えば、撮った写真を公開しアーカイブすることが可能だ。
メールもこれまでのケータイとは思想が異なる。例えばiPhoneからIMAPアクセスでGmailを使っているとしよう。未読や既読、フラグ、フォルダ(Gmail上ではラベル)などのメール操作は、ブラウザやほかのPC、さらには同じアカウントでアクセスするAndroid端末上にも同期され、反映される。iPhone 3.0ではIMAPサーバ内の検索にも対応するため、iPhoneの快適なメールアプリから、Gmailの強力で高速な検索を活用できるようになるかもしれない。
このように、自分の情報やコンテンツをクラウド上に置き、場所や利用シーンに応じて最適なデバイスでアクセスするというのが基本的な利用スタイルになり、そのアクセス端末の1つとしてHT-03AやiPhoneを活用することになる。このため、端末を紛失したり、別の端末を使うことになったとしても、面倒はない。
一度クラウドを絡めたモバイルに触れると、以前のケータイの使い勝手に戻るのは難しい。現在のケータイカルチャーにフルコミットしている若い世代にとっても、クラウドを理解し、面白がるまでに時間はかからないだろう。
iPhoneにない、Androidケータイの魅力として挙げられるのが“オープンソースのケータイ向けOSである”という点だ。
Androidのアプリは、Javaアプリを実行するVMが動いていることから、Java SEによる記述が可能。LinuxやミドルウェアはCやC++で書くことができるようになっている。つまり、ハードウェアとそれを制御するドライバさえ作ることができれば、Android端末を自前で開発できるのだ。
もちろんケータイとして使うためには、通信機器周辺での手続きが必要になるものの、スタンドアローンで使える端末や、無線LAN環境で活用できるAndroid端末なら開発できる。例えばキングジムのポメラも、Androidベースで開発することは可能だろう。
ケータイ端末の多様化が加速し、個人のニーズに最適化した1台、あるいは時と場合によって個人が複数台の端末を使い分けるような世界では、小ロットで多彩な端末をリリースしなければならず、コスト面の問題が浮上すると予想される。こうした中、オープンソースのOSが、リーズナブルな端末開発をサポートする可能性は十分にある(一方で、HTC NIPPONのデビッド・コウ社長は、オープンソースのケータイOSだからといって、Androidケータイの開発コストや端末価格が下がるわけではないという見方を示している)。
iPhoneは、Appleがハードウェアからソフトウェア、サービスまでをトータルで開発することによって、独特なユーザー体験を作り出している一方で、Androidはオープンソースによって、ブランド品にはない魅力を作り出そうとしている。ハードやサービスとしての参入のしやすさ、多様性によってプラットフォームを発展させるのがAndroidの流儀だ。
この2台のスマートフォンの切磋琢磨する様子を間近で見ながら、日本のキャリアやケータイメーカー、コンテンツプロバイダはどのような戦略でスマートフォン市場にコミットしていくのだろうか。メーカー各社やコンテンツプロバイダが、キャリアとの関係性を再構築する中で、日本のケータイ業界の活路が見えてくるのかもしれない。
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