米Appleが1月27日(現地時間)、「iPhone」(スマートフォン)と「MacBook」(ノートPC)の中間に位置する製品として、タブレット型デバイス「iPad」を発表した。
当初うわさされていた、iPhone OSの新バージョン発表などはなかったため、iPhoneユーザーの中には期待はずれの発表会と映ったかもしれない。しかし、iPadのスペックには非常に興味深い点がいくつかある。
またiPadの米国での発売時期は、Wi-Fiモデルが3月後半、Wi-Fi+3Gモデルが4月とアナウンスされているが、そのほかの地域ではWi-Fi版が3月下旬以降、Wi-Fi+3G版が6〜7月くらいになるという。日本市場でも、Wi-Fi版は3月下旬以降に発売されるが、Wi-Fi+3G版については6月以降になる見通し。
そんなわけで、現時点でははっきりした情報が極めて少ないが、あれこれと勝手に想像してみたい。
iPadは、幅189.7×高さ242.8×厚さ13.4ミリと、B5サイズ(176×250ミリ)よりやや横長のボディに、9.7インチのマルチタッチ対応タッチパネル液晶ディスプレイを搭載した板状のデバイス。重量はWi-Fiモデルが約680グラム、Wi-Fi+3Gモデルは約730グラム。ディスプレイの解像度はXGA(768×1024ピクセル)で、本体に物理キーボードはないものの、オプションとしてiPadが立てかけられるキーボード付きのDock「iPad Keybord Dock」が用意され、専用のiWork(Keynote、Pages、Numbers)が提供されるなど、サブノートPCに近い使い勝手を実現している。
一方で、モーションセンサーや照度センサー、マイクとスピーカーを備え、OSにはiPhone OSを採用するなど、ハードウェア的にはiPhoneやiPod touchに近い性格を持つ。通話機能こそないものの、無線通信はIEEE802.11a/b/g/nに対応し、Bluetoothは2.1+EDR。リチウムイオンポリマーバッテリーの容量は2500mAhあり、Webブラウズや動画再生、音楽再生をしながら連続で10時間の駆動ができる。メモリ容量は16Gバイト/32Gバイト/64Gバイトの3種類が用意される。
この少々変わったiPadのスペックからは、次期iPhoneの姿も垣間見える。
まず注目したいのは新しいプロセッサだ。iPadのプロセッサは、Appleが独自にデザインしたという、1GHz動作の「Apple A4」。コアの数やアーキテクチャなど、詳細な仕様は明らかにされていないが、AppleのWebサイトに公開されている動画を見る限り、OSやアプリの動作は非常に高速なようだ。
そしてiPadでは、iPhone向けに開発された、14万タイトルを超えるApp Storeのアプリが、ほぼすべてそのまま動作するという。こうした状況から想像できるのは、次期iPhoneにも同じA4プロセッサが採用される可能性だ。
iPhoneよりも高い解像度を持つiPadで、軽快な動作を見せていることから(GPUが搭載されている可能性もあるが)、iPadがiPhone OSをエミュレーションで動かしているとは考えにくい。A4プロセッサはARMベースのプロセッサと考えるのが妥当であり、次期iPhoneにも同じプロセッサが搭載される確率は高いのではないだろうか。
iPadに最適化したアプリの開発用には、現行のiPhone 3.1 SDKのマイナーバージョンアップ版とみられるiPhone SDK 3.2 βが提供された。発表前のうわさでは、iPadの発表と同時にメジャーバージョンアップ版となるiPhone OS 4.0のSDKが公開されると言われていたが、実際には3.1が3.2へ、0.1上がるにとどまった。iPadに搭載されているOSも、iPhone OS 3.2だという。
このことから考えられるのは、iPadと既存のiPhoneとの間に、劇的な差異はなさそうだということ。iPadでiPhoneアプリを動かす際には、320×480ピクセルで表示する「1xモード」と、1ピクセルを4ピクセルに拡大し、(おそらく)640×960ピクセルで表示する「2xモード」が用意されているが、この機能はOS側で対応してる可能性が高い。大きな変更はXGA(768×1024ピクセル)解像度への対応と、iPad独自のUIのサポートくらいなのかもしれない。
とはいえ、SDKのバージョン番号には「β」が付いているので、夏までに状況が変わることも十分考えられる。
ハードウェアの構成がiPhoneとかなり近いものであるにもかかわらず、ディスプレイサイズが格段に大きく、かつ解像度の高いiPadをリリースしたということは、iPhoneの画面解像度はまだしばらく320×480ピクセルが維持される可能性がある。大きな画面と高い解像度を求めるアプリケーションはiPad、手のひらサイズの方が都合がいいアプリケーションは引き続きiPhone/iPod touchというすみ分けが行われることが考えられるからだ。
ディスプレイのサイズが3.5インチから大きくなることは考えられるが、中途半端に解像度を上げると、アプリやiPad側で別途対応が必要になってしまう。iPhoneの画面表示は、同じ解像度の他のスマートフォンと比較しても滑らかであり、早急にディスプレイの高精細化が求められる状況ではない。解像度が変わらなければ、アプリの互換性を維持するのも容易で、開発者側の負担も増えない。
最後にiPadの日本での販売がどうなるかについても考えてみたい。
おそらくWi-Fiモデルは、日本でもiPod touchのように普通に量販店やアップルストアなどで販売されるだろう。気になるのは3G対応モデルの方だ。iPadのWi-Fi+3Gモデルは、ドコモやソフトバンクモバイルがサービスを提供している周波数をサポートしており、スペック上は問題ないように見える。しかし、実は1つ大きな問題がある。
AppleのCEO、スティーブ・ジョブズ氏は発表会で「(iPadは)GSM micro SIMを採用した。SIMロックをしない状態で販売する」と発言した。GSM micro SIMとは、小型のSIMの規格で、日本国内で一般的に使われているSIMよりも一回り小さいのだ。つまり、日本のキャリアが提供している既存のSIMは物理的に使えない。
となると、iPad専用のSIMを入手する必要があり、アップルストアなどから購入できる可能性は低い。iPhone 3GSと同様、ソフトバンクモバイルから、専用の料金プラン付きで提供されると予想するのが順当だろうか。
もちろん発売までにはまだ時間があるので、ドコモから出る、あるいはイー・モバイルが協力する、といったシナリオも考え得る。
どんな料金プランが出てくるのか、Appleがどのキャリアと組むのかによって状況はいろいろ変わるだろうが、もしかしたら、イー・モバイルのモバイルルータ「Pocket WiFi」と、iPadのWi-Fiモデルを組み合わせた方が便利に使えたりするのかもしれない。Pocket WiFiとの組み合わせなら、Netbookのような販売方法も考えられ、モデルによっては100円で持ち帰れる、といった状況も生まれるかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.