“パーソナルコンピューターの理想”に近づく、さらなる洗練――Mac OS X Lionの大きな飛躍(1/2 ページ)

» 2011年07月20日 21時30分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 コンピューターが一部の研究者・技術者のもとから解放されたのは、1984年のことだった。当時、Appleによって発売された初代Macintoshは、革新的なGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)を搭載し、“誰もが使えるパーソナルコンピューター”を本格的に目指した初めての製品・OSだった。こうしてPCは、人々の手に行き渡るようになったのだ。

 あれから約30年。AppleのMac OS、そしてMicrosoftのWindowsという2つのOSを軸にして、PCは世界中に普及した。ハードウェアの性能は瞬く間に向上し、インターネットが登場。さらにこの5年で、「モバイル」と「クラウド」という新たなコンピューティングのスタイルも広がった。PCを取りまく環境が、一気に変化したのだ。

 そのような中で、AppleがMac OS Xのバージョンアップを行った。すでに先のWWDC 2011で詳細が発表されているが、新OSとなる「Mac OS X Lion」(以下Lion)は、新たなUIデザインと250項目を超える新機能を搭載したメジャーバージョンアップ。それが今日、7月20日に発売される。

 筆者はこのLionの製品版を、いち早く試す機会を得た。そこで今回は同OSの魅力と、その可能性についてリポートしたいと思う。

モバイルPC時代に最適化された革新的UI

 Lionが持つ数多くの新機能・新機軸の中でも、Appleの今後の世界観を強く印象づけるのが、タッチパッド操作を前提に再設計されたUIデザインである。Lionでは「マルチタッチジェスチャー」「フルスクリーンアプリ」「ミッションコントロール」という3つの新たな機能を搭載し、UIデザインの基軸を、マウス操作からタッチパッド操作に大胆に変えている。

 そして、実際にこのUIデザインを使ってみると、その完成度の高さに舌を巻く。

Photo Lionでの基本動作となる「マルチタッチチェスチャー」。その動作は、システム環境設定で細かく変えられる

 例えばマルチタッチジェスチャーだが、こちらは従来からあるタップや2本指スクロールに加えて、ピンチイン・ピンチアウト、2本指および3本指のスワイプなどを、OSの基本動作に組み込んだものだ。その動きのなめらかさはすばらしいの一言で、iPhoneやiPadで完成させた“指の動きによるナチュラルな操作感”をMac OSでも見事に実現している。特に秀逸なのは、Safariで実現したピンチイン・ピンチアウトによる拡大縮小や、3本指スワイプでの仮想スクリーン切り替えなど。「意のままに操る」とはこういうことかと、膝を叩くことは間違いない。

 しかし、マルチタッチジェスチャーは古くからのPCユーザーを困惑させることもあるかもしれない。例えば、ウィンドウ内の画面スクロールは、標準設定ではiPhoneやiPadと同じく“指を動かした方向にコンテンツが移動”する。マウス時代のスクロール方向とは指の動きと画面内の動きがの関係性が逆になっているため、初めて動かした時に驚くのは事実だ。また、Lionでかなり多用することになる2本指・3本指のスワイプの使い分けは、まったく新しい操作方法であるため、それをわずらわしいと感じる人もいるだろう。だが、Lionのタッチパッド前提のUIデザインは、マウス時代の古いUIデザインに比べるとカーソルの無駄な動きが減って、従来よりも自然な操作感になっている。最初は困惑するかもしれないが、Lionの新たなUIデザインの方が“シンプルで理にかなっている”のだ。

 一方、フルスクリーンアプリとミッションコントロールは、ノートPCの環境で特に効果を発揮するものだ。

 まずフルスクリーンアプリは、その名のとおり、iPhoneやiPadのように画面全体を1つのアプリが占有するというもの。従来のウィンドウ最大化と異なり、メニューバーやドックも画面外に隠れる。これだと従来の「マルチウィンドウ」時代から退化してしまうようだが、Lionではそれを補うために、フルスクリーン化したアプリに仮想スクリーンを1つ割り当てて、3本指スワイプでアプリ間やデスクトップ画面の切り替えがサクサクとできるようになっている。画面いっぱいにウィンドウが重なり合うよりも、こちらの方が実用的であるし使いやすい。

PhotoPhoto 「iPhoto」でのフルスクリーン表示の例。1つの仮想スクリーンを画面いっぱいで使えるため、たくさんの写真が登録されていても使いやすい

Photo マルチタッチジェスチャー、フルスクリーンアプリと並んで、Lionの新UIデザインを司る「ミッション・コントロール」。稼働中のアプリ、仮想スクリーン、ダッシュボードなどを統合的に鳥瞰・管理できるのが特徴だ。このミッション・コントロールは上方向に3本指スワイプすることでいつでも呼び出すことができ、その動作はサクサクと高速。これによりフルスクリーンアプリ間の移動や、ドラッグ&ドロップによるデータの移動なども快適に行える

 ミッションコントロールは、従来のMac OS Xにあった「Exposé」を進化・発展させたもの。デスクトップとすべての稼働中のアプリケーション、フルスクリーンアプリ、ダッシュボード、仮想スクリーンの状況を1画面で鳥瞰できる。タッチパッドを上方向に3本指スワイプすればすばやく呼び出すことが可能であり、Exposé以上に効率的な画面・アプリケーションの切り替え操作ができる。

 このフルスクリーンアプリとミッションコントロールの導入により、Lionはより効率的で生産的な環境を実現した。TwitterやFacebookのようなSNSやMailを開きつつ、iTunesで音楽を再生し、Evernoteで資料を確認しながらワープロや表計算ソフトを使う。このようなマルチタスクでの“ながら作業”をしても、個々のアプリ・スクリーンが切り分けられるので、1つ1つの作業に集中できるのだ。

 また、LionのUIデザインは、デスクトップ型のMacよりも、MacBook ProやMacBook Airで使うとさらに効果を発揮する。とりわけ11〜13インチのスクリーン環境では使いやすさが桁違いに向上する。Lionの新UIのよさは、iMacよりもMacBookでより強く感じるだろう。筆者は今回、MacBook AirとMacBook ProでLionを試したが、“マウスとキーボード”を前提に設計された従来のOSには後戻りできなくなってしまった。そのくらいノート環境でのLionは革新的で使いやすいのだ。

 Appleを取りまく市場環境に目を向けると、出荷されているMacの4分の3がすでにノート型になっており、最近ではMacBook Airなどモバイル型の人気が高くなっている。デスクトップPCから、よりパーソナルで使い勝手のよいモバイルノートPCへ。PCのモバイル化はAppleに限ったことではなく、時代の潮流である。Lionは、この“モバイルPCの時代”に合わせて最適化されているのである。

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