NTTドコモ プロモーション部 第2制作担当の岡野令氏、プロダクト部 第二商品企画担当の許潤玉(ほうゆの)氏、クレジット事業部 DCMX技術担当の鹿島(かじま)大悟氏に話を聞いた、ジョジョスマホこと「L-06D JOJO」開発の舞台裏。第3部では、販売台数が1万5000台となった背景や、プロモーションに対するドコモの取り組みを聞いた。
―― 事前のプロモーションも相当活発に行っていますよね。ジョジョスマホの認知度も増えていると思いますが、1万5000台では足りないのでは?
岡野氏 足りないと思います。聞いちゃいます?(笑)
―― はい(笑)。なぜ1万5000台にしたのでしょうか。
岡野氏 販売部門が慎重になったということですね。僕らの企画では“3万台”でした。コラボモデルは、だいたい3万台というのがちょっと足りないくらい。売れ残ってしまうと買った人は「俺たちは売れ残るような商品を買ったのか」となってしまいます。即売してくれる楽しみがある一方で、「自分は買えるのか?」という状況でもあります。
―― ドコモ社員でも優遇されるわけではないんですね。
鹿島氏 今週の緊張感とか半端ないですよ(※取材日は予約開始の8月18日以前)。
岡野氏 僕も仙台のジョジョスマホ展に参加するので、仙台のヨドバシカメラに並びます。そういう緊張感があるのはファンにとって大事なこと。(販売台数が)多すぎるのも失敗ということです。「コラボモデルは当日に売り切る」というのが僕たちの目標です。
思った以上にプロモーションをやっているというのは、死んでいるかもしれない承太郎の首をDIOが切断するということなんです(※元ネタは、第3部で承太郎とDIOとの戦闘で、重傷を負って死んだと思われた承太郎にとどめを刺すため、DIOが承太郎の首を切断しようとしたシーン)。売れ残ったらやばい。だからプロモーションはしっかりやります。僕らは3万台売る自信はあるんですけど、販売部門からすると、ジョジョとは初めてのコラボレーションですし、売れるか分からない。当然在庫リスクを持っているのは販売部門なので。
―― 1万5000台でもプロモーションはしっかりやっていく。
岡野氏 (今回の)プロモーションは、販促のための宣伝ではありません。ジョジョスマホでやろうとしていたことを把握してほしいので、どちらかというと、我々の想いを正確に伝えるためのものです。
―― 即日完売してジョジョスマホを買えない人が大勢出るがことが予想されます。その場合、増産する可能性はあるのでしょうか?
岡野氏 「1万5000台限定です」と言った以上、できないですね。それは買っていただいた方に失礼なので。「少ないから夜中から並んだよ」とか「1万5000台だから買ったんだよ」という方もいらっしゃると思います。1万5000台と5万台だったら、それこそオークションに出したときの市場価値が違うんですよ。それ(増産)はクレームになりますから、絶対にできないですね。
―― でも買いたいのに手に入れられない人もいるでしょう。もったいないというか、悩ましいというか……。
岡野氏 悩ましいです。ただ、ジョジョを知らない人からすると、(販売が)怖いというのはあります。そうした販売部門の気持ちも分からなくもないですが……。
―― 販売部門でジョジョに詳しい方は、いらっしゃらなかったんですか?
岡野氏 もちろんいるんですけど、最終決定者はまったく分かっていませんから。これはその下の人間たちが押し切れるかどうかの世界なので、たまたま販売担当者が押し切れなかったということです。それは実力不足なので仕方ありません。
―― 他部署ながら、ジョジョスマホを作るためにプロジェクトに参加したという鹿島さんにもお話をうかがいたいと思います。その前に、3人の役割を教えてください。
岡野氏 許はメーカーとやり取りをして商品を作り込んでいくことが主な仕事です。僕はコラボ端末の企画をすべて担当しているのですが、その企画を許たちのチームとすり合わせて、どのメーカーの何をベースにこの機能を実現するか? そのためにどう機能を詰め込んでいくかを考えていました。そこに鹿島が入ってきたわけです。企画が進んでからは、役割分担は決めなかったですね。
鹿島氏 僕は社内政治と一番無縁なところにいたんですよ。ある意味一番おいしいところですね。複雑な交渉や対外的な交渉にはあまり同席せず、コンテンツのブラッシュアップにひたすら時間を割いていました。
―― もともとDCMX関連の事業部にいらっしゃったとか。
岡野氏 もともとじゃない、今もです(笑)
―― 失礼しました(笑)。通常の業務を並行しながら関わっていたんですか?
鹿島氏 そうですね。でも最近はいつもジョジョスマホを触っているから、どう思われているか分からないですけど(笑)。いろいろ(メディアなどに)出ている分だけ許されちゃうかなと。実はこのプロジェクトに入る前は、会社のデスク周りがすごいことになっていたんですよ。ジョジョの単行本が6部まで全巻デスクにそろっていたり、いつでも対戦できるよう、足下にジョジョの百人一首が置いてあるとか。許は1回見てどん引きしてました(笑)。
―― 単行本は自宅ではなく会社に置いてあるんですか?
鹿島氏 いやいや2セット目ですから。(自宅と分けるのは)当然ですよ。
―― えー。会社でジョジョを読むんですか?
鹿島氏 自分だけでなく周りの人にも読んでもらいたかったので。あとは百人一首できる仲間を増やしたかったというのもありました。
―― 筋金入りのジョジョ好きですね。
岡野氏 何人か(ジョジョスマホのプロジェクトに)入りたいと立候補してきた人がいたんですけど、鹿島が一番すごかった。もう、究極の生命体(※第2部の敵キャラ、カーズが進化した姿)。
―― そのうち「考えるのをやめた」(※第2部の最終決戦後、カーズが宇宙空間を永遠にさまようことになったときのモノローグ)となるくらいに。
鹿島氏 全然やめられないですね。まだ続きをやりたいですもん。
―― 「もう1人」のメンバーは、社内で公募されたのですか?
岡野氏 公募したわけではありません。情報が漏れるのは嫌なので、こういうプロジェクトはクローズドで進めているんですよ。とは言え、社内でいろいろ会議に出たりで知っていく人たちがいるので、その中でたまたま情報を聞きつけて、鹿島以外の3〜4人から、僕のところへ直接メールが来たんです。僕もジョジョ好きですが、「自分を超えている」と思えたのは彼だけです。
鹿島氏 苦痛だったんですよ。ジョジョ好きの友達が多いんですが、話をしたいのに言えなくて。だから百人一首大会は一時中止しています……。
―― ついしゃべってしまうからと。
鹿島氏 ようやく、そろそろジョジョスマホの発売記念に(百人一首大会を)やれそうな気がしてきています。
―― 普段の業務と並行しながらプロジェクトに関わるのは、単純に大変ですよね?
鹿島氏 でも趣味も特技もジョジョなので……「特技ジョジョ」とかよく分からないんですけど(笑)、プライベートな時間はすべてコンテンツ案の検討に割いていましたね。1〜2カ月くらいは相当本気でやっていました。
―― 通常業務以外はすべてジョジョと。
鹿島氏 残業がすごく減っていましたね。早く帰りますと言って(笑)。コンテンツ案はマンガを読まないと進まないので……。辞書の原型であるセリフ集も作ったんですけど、これを作るだけでも相当時間がかかりました。原作を何回読んだか分からないほどです。
今回の取材記事のために、鹿島氏が自宅に保管しているジョジョアイテムの写真を提供してもらった。左の写真で展示されているフィギュアは、すべて一番くじの上位賞。「一番くじは毎回コンプリートしているのですが、膨大な量のため日ごろ飾ってあるものを中心にまとめました。一番上のポップは店舗の購入最後の際にいただいたものです」(鹿島氏)。中段にある黄色の7箱は、ジョジョ25周年記念のくじ。これを入手しているときに、TSUTAYAで岡野氏と出会い、ダブったアイテムを岡野氏と交換してコンプリートしたそうだ。「この出会いがターニングポイントだったのかもしれません…」と鹿島氏が話すように、まさに運命の出会いといえそうだ。
写真左下の中央にある複製原画は、抽選で50人が当選したものをオークションで入手したというレアアイテムだ。このほか、花札、百人一首、カードゲームもある。カードゲーム(バンダイ製)は一切プレイせず鑑賞用にファイリングしているそうだ。写真右下はファッション系のコレクションのほぼすべて。「これだけあるので、会社に着ていく服は困りません(笑)」(鹿島氏)。右下の靴は、昨年荒木先生とグッチがコラボしたときに発表したマンガにも登場した、岸辺露伴が履いた靴。もったいなくて履いていないそうだが、岡野氏は別のデザインの靴をよく履いているそうだ。なお、コレクションの下に敷いているストールは、ジョジョスマホの商品発表会や内覧会の展示でも使っていたものだ(こちらの記事を参照)。
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