富士通は11月20日、NTTドコモ向け2012年冬モデルスマートデバイス(スマートフォン、タブレット、フィーチャーフォン)の新製品説明会を実施。富士通、NTTドコモ、NEC、富士通セミコンダクタが共同設立した国産通信プラットフォームベンダー「アクセスネットワークテクノロジ」製通信処理プロセッサ(モデム)を採用したモデルを含め、「国内メーカーならではの、他国メーカーではマネできない工夫」を取り入れたという2012年冬商戦向けのスマートデバイスをアピールした。
「市場全体ではスマートデバイスの販売が好調に推移しているが、海外メーカーの勢いも増しており、かつユーザーの商品に対する目も非常に厳しいものになってきている。今回紹介する冬商戦向けの新モデルは日本の技術を結集した新通信処理プロセッサの初採用モデル、内蔵メモリやバッテリー容量も“最強スペック”のスマートフォンなど、どれも自信作。スーパーコンピュータ“京”を開発する富士通が作り上げた最強のARROWSシリーズがまた誕生したと思っている。富士通は2012年上期の国内メーカー出荷台数は18.7%のシェアを獲得(総合2位、国内メーカーではトップ)したが、下期も勝ち抜いて年間目標の800万台出荷を目ざし、全社総力を上げて取り組みたい」(富士通の佐相秀幸副社長)
中でも国内通信事業者と国内メーカー連合が設立したアクセスネットワークテクノロジ製の国産新世代LTE通信制御プロセッサ(Communication Processor、以下CP)を採用したハイスペックタブレット「ARROWS Tab F-05E」に注目したい。通信制御プロセッサ(通信処理LSI)とは、通信の処理・制御を受け持つスマートデバイスの基幹部品。プログラムの実行や処理を担うアプリケーション処理LSI(Application Processor:AP 例えばTegra 3など)、無線送受信回路、電源制御回路のそれぞれと連携し、端末を制御する。
アクセスネットワークテクノロジ(ANT)は、富士通(出資比率52.8%)が主導となり、NTTドコモ(同19.9%)、NEC(同17.8%)、富士通セミコンダクター(同9.5%)が共同で通信プラットフォームの開発・販売を行うため2012年8月に設立した国内企業による合弁会社だ。スマートデバイスの急速な普及で機器の基幹部品であるCPの需要が急増。特にLTE対応CPの供給不足が顕著となり、一部機器が出荷遅延や販売延期となった例は記憶に新しい。同社は、各社が培い、保有する技術・通信プラットフォーム開発ノウハウを集約し、今後、グローバルでの市場競争力を確保する目的を主軸に、安定供給できる実力により基幹部品が供給不足に陥るリスクも払拭できる──と世界中の携帯電話メーカーに“日本連合”の優れたCPを積極アピールする考えだ。
「フィーチャーフォン時代からNTTドコモ、および端末メーカー各社が共同開発してきた世界最先端の通信プラットフォーム技術を継承・発展させ、グローバル競争力のある、かつ次世代も含めて世界に先駆けた通信プラットフォームを開発していく。COSMOSは国内技術の結晶。国内連合の技術を世界に発信したい」(アクセスネットワークテクノロジの坂田稔社長)
ARROWS Tab F-05Eは、開発コード名:COSMOS(コスモス)と呼ばれる新世代CPを採用する。国産CPで初めてLTEをサポートした従来チップ、開発コード名:SAKURA+UBB4の次世代版として展開し、GSM(2G)+W-DCMA(3G)+LTE(3.9G FDD、TDDともに対応)のマルチ技術を1チップでサポートする点、100Mbps超のデータ通信に対応する点、独自のソフトウェア制御無線技術(Software Defined Radio:SDR)による低消費電力化と多彩なアプリケーションプロセッサと柔軟に組み合わせられる点を訴求する。国内個人利用者としては、特に低消費電力化による動作時間の延長やサクサク感に例えられる操作の軽快さなどに寄与する。「Qualcommの現世代同等性能のCPと比べ、消費電力は2割ほど低い」(説明員)。
また、富士通研究所のDSPコアを採用した独自ソフトウェアによる無線技術「SDR技術」により、きめ細かな電力制御を行うことでさらなる低消費電力化につながること、そして3GPPの規格進化もソフトウェアレベルで迅速に対応できること、多彩なアプリケーションプロセッサと協調接続するのも容易とすることなども大きな強みとする。また、より「低消費電力化」「省スペース」「グローバル化」「アプリプラットフォーム化」を推進した次期CPを2013年度に投入する予定とする開発速度・対応速度の速さもアピールする。
「Qualcomm製CPも2013年春には供給不足が解消されるともみているが、それが解消されたとしてもやはり商品力を上げることで対抗していきたい。1つは低消費電力。全体的にいかに長持ちし、サクサク動くか。そこはANTの技術できちんと差別化できると考えている。もう1つ、ANTはアプリケーションプロセッサベンダー(NVIDIAなど)とも協調・連携しながら進めていく。SDR技術により高性能/ローエンド問わずカスタマイズ幅が広く、かなり自由に機器開発が行える点も含めてきちんとシェアをとっていきたい」(ANTの坂田社長)
「日本メーカーはスマートデバイスシフトに出遅れたのは事実だが、技術部分についてはキャッチアップしたと思っている。さらに富士通機器ならではのヒューマンセントリックエンジンに代表される、さまざまな日本らしい技術──センサー技術やユーザーの意向を検知して自在に対応すること──はもともと10年間かけてきたフィーチャーフォンで培った技術。それらをどんどんスマートフォンにも展開していくことで、少なくとも日本国内においてはそこを強くアピールし、きちんと理解いただけたのであれば、シェアは挽回(ばんかい)できるし、機器としても負けないと十分自信がある」(富士通の大谷信雄執行役員常務)
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