6月2日に、Appleは開発者向け会議「WWDC」を開催した。キーノートにはCEOのティム・クック氏らが登壇。この秋に登場する「iOS 8」の主な機能や、開発者向けの施策を発表した。例年であればiPhoneやiPad、Macなど、何らかのハードウェアもお披露目されていたが、今年のWWDCのキーノートでは、これらは一切登場しなかった。
プロダクトマーケティング担当のフィル・シラー氏も、キーノートに登壇しなかった。ウワサされていた「iWatch」などもなかったが、もともとWWDCは開発者がiOSやMac OS向けのアプリ開発を学ぶ場ということを考えると、これはむしろ自然なこと(もちろん、アプリに大きな影響を与えるハードウェアであれば、必ずしもその限りではないが)。ある意味で、原点回帰のWWDCといえるのかもしれない。
ハードウェアの発表がなかった半面、iOS 8はiOS 7から大きな進化を遂げている。フラットデザインにデザインを刷新したiOS 6からiOS 7への進化よりも、大きなステップアップに感じられた。こうしたiOS 8の新たなテーマを一言で表すとすれば、それは「規制緩和」だ。
特に日本のユーザーにとって影響の大きな変更点は、サードパーティ製のIME解禁だろう。iOS自体のキーボードが英文の予測変換に対応することに加え、新たにキーボードをアプリとして変更できるようになる。Androidではおなじみではあるが、文字入力に対する不満が高かったiOSではユーザーに待望されていた機能。日本のアプリ開発者も、早速検討を開始している。
同様に、サードパーティに対して、ウィジェットも解放する。Androidとは異なり、ホーム画面に貼り付ける形ではなく、通知に組み込まれたもので、従来はApple純正アプリのみがここを使用できた。ここが解放されることで、アプリメーカーにとってはチャンスが広がる。ユーザーにとっても、カスタマイズの幅が広がることになりそうだ。
アプリ同士の連携で、使い勝手が向上することも期待できる。Androidには「インテント」と呼ばれる仕組みがあり、アプリ同士が連携できた。例えば、ブラウザで検索をし、特定のURLをタップしたとき、それに対応したアプリをインストールしていると、ブラウザでそのまま開くか、情報をアプリに引き継ぐかを選択できる。ブラウザでTwitterの情報をタップして続きをTwitterクライアントで見たり、Twitterで見つけた2chの情報を2chビュワーで見たりといったことが、簡単にできた。これに近い機能が、iOS 8に実装される。
WWDCのデモではブラウザから「bing翻訳」を呼び出し、サイトの言語を丸ごと変えるデモや、写真加工を別のアプリで行うデモが行われていたが、これを見る限りインテントに近いことがiOSでもできるようになると考えてよさそうだ。1つ1つのアプリに情報が閉じていたこれまでのiOSと比べ、格段に自由度と操作性が高くなる。
こうしたAPIの追加があった上で、Appleは開発者用の言語を「Objective-C」から「Swift」へと変更する。ユーザーにとって直接的なインパクトはないかもしれないが、アプリ開発のハードルが下がることで、現在900万開発者がさらに増えることは期待できる。結果として、アプリの数の増加にもつながりそうだ。
このほか、Touch IDの開放やiCloudの強化、家電連携のプラットフォーム「HomeKit」、健康管理のプラットフォーム「HealthKit」の導入など、iOS 8での進化は多岐に渡る。そのいずれもが、単なる機能拡張ではなく、サードパーティの参加を促進するものであることが、iOS 8の大きな特徴だ。Androidに対して数では劣勢に立たされているが、アプリの充実度や完成度といった点はiOSの強みになっている。ここを拡張して、エコシステムをさらに強固にするのはアップルにとって自然な戦略ともいえるだろう。
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