端末も、サービスも、ショップもやります――“異色のMVNO”フリービットの戦略を石田CEOに聞くMVNOに聞く(2/2 ページ)

» 2014年09月12日 09時13分 公開
[石野純也ITmedia]
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「ATELIER」のスタッフはモバイル未経験者のみを採用

―― 次に、ATELIERについてお聞かせください。端末と回線を持ち、その上でサービスを行うというお話をうかがう限り、ショップを持つというのも自然な流れだったということでしょうか。

石田氏 単純にMVNOとして、SIMカードに何かをつけて売るときに店舗を出すのはおかしいと思いますが、キャリア型でやっていくとサポートの拠点がどうしても必要です。量販店に我々の端末を持っていっても大切な売り方をしてくれないですし、必ずほかの製品と一緒に並べられて、マージンが高く売りやすいものから売っていかれます。日本の方々が、我々のソリューションに触れられなくなってしまう。それって、すごく悪いことだと思うんですよね。

 企業の体力としては、携帯電話の代理店のようなことは無理かもしれませんが、ATELIERを持っていくのはそんなに難しくはありません。全部固定費になりますから。

―― サービスを認知してもらうが大変とおっしゃっていましたが、そこに対してはどのような手を打っているのでしょうか。

石田氏 知っていただかない限り、存在しないのと同じです。認知の努力は続けていきますが、ものすごくコストが高い。また、それだけでは目指している世界に行けません。知らない人にどう売っていくか。20%の外側の80%にどう売っていくかを考えたのが、パートナープログラムです。

 フリービットの場合、お客様にはスペックやサービスの内容を説明しますが、パートナーはそのお客様の体験がどう変わるかを説明します。エイブルさんの場合だと、家族3人で移ってもらえば、携帯電話の料金が1万6000円ぐらい安くなり、その分高い部屋に住めるというトークができるわけです。そうすると、我々のことをまったく知らない方でも、4割の方が購入をされます。エイブルさんにとっても、高い部屋なら仲介料が多くなる。そういうところに、パートナーのメリットがあります。

―― エイブルさん以外では、どのような会社がありえるのでしょうか。

石田氏 いくつかの会社とお話は進めていますが、衣食住をどうフォローしていくかが重要になります。パートナープログラムを発表してからも、相当いろいろなところからお話がきました。携帯電話の代理店からも問い合わせがあったぐらいです(笑)。

―― 販売だけでなく、店舗はサポートの拠点にもなっています。ここまで手厚いのは、まさにキャリア型ということですね。

石田氏 サポートはコストに直結しますから、どういうコスト構造でやるのかは経験がないと難しい部分があります。そのコストを下げるためにも、垂直統合をしなければいけない。DTIでSIMカードを出してサポートもしていますが、あちらはユーザーがどの端末を使っているのかが分かりません。端末メーカーがどんなアップデートをかけているのかも把握できませんからね。そうすると、サポートのコストが上がり、それがサービスに転化されてしまいます。PCのサービスならまだいいのですが、電話だとそれが使えない状態をリアルタイムでサポートできないのは罪なことです。

―― 端末を自社で手掛け、しかも料金プランがシンプルという点は、店員の教育の簡素化にもつながっているのでしょうか。

石田氏 スマートフォンに詳しい方に入っていただいているので、あとは業務的な部分を教えればいい状態です。キャリア(MNO)の難しいシステムも、ものすごく簡素化しています。

 端末も1機種しかないので、説明は短いですし、プランも重要事項の説明を除けば5分で完璧に理解してもらえます。シンプルだというのは、非常に大きいですね。

―― 基本的なプランに、あとは電話などのオプションがあるだけですからね。

石田氏 ただ、ほとんど電話オプションをつけられる方はいないんです。店頭で試してもらって、これ(フリービットのIP電話サービス)でいいとなります。ちょっと遅延はありますが、「これは慣れますね」と言って使ってくださる方が大半です。

 あとから音声通話のオプションをつける方はいますが、その理由はほとんどがMNPで移るためです。着信は今までの番号で、発信はIP電話でという人も多いですね。

―― 自分も何度か店舗を訪れてみましたが、みなさん説明がしっかりしている印象を受けました。

石田氏 理念教育からやっていますからね。「free you a bit」という理念があり、これは「我々が皆さんを少しだけ自由にする」という意味です。スタッフには(お客さんが)喜んでいただいたことを、毎日のfree you a bitとして送ってもらっています。

 スタッフの面接でも、コンピテンシーバランスを見ています。スキルや経験ではなく、行動特性を重視するということです。何に価値観を持つのかは入社試験でも見ていて、使命感の強い人だけを採用しています。

 もう1つは、モバイルの経験者を絶対に入れないようにしています。大変だったんですよ。普通の人はうちの店なんて誰も知らないですし、募集をかけても代理店経験者しか集まらないんですから(笑)。

―― 今後、店舗はどこまで拡大していく計画ですか。

石田氏 基幹都市には置いていくと思います。また、今準備している6番目の販売方法もあります。freebit mobileを立ち上げたときに、当初は6つあるとお話ししました。その1つ目がWeb、2つ目がATELIERの直営店、3つ目がSTAND、3つ目がテレビショッピング、5つ目がパートナープログラムです。6つ目はまだ発表していませんが、今準備を進めているところです。

LTEサービスを提供する可能性は?

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―― 福岡や名古屋に比べて、東京は人も密集していますし、3G回線がよりひっ迫していると思います。東京に店舗を出したあと、回線品質に不満を持たれる声が増えたというようなことはありませんでしたか。

石田氏 今のところ、全然出てないですね。つながりにくさや、それに伴うバッテリー消費がどうなるかは気にしてテストもしていましたが、そういう声はありません。

 一番怖いのはIP電話の着信ができないことでしたが、それも大丈夫です。実はこの着信が非常に難しいことです。スマートフォンは3GとWi-Fiを行ったり来たりしますし、OSがプロセスを勝手に殺してしまったりもします。通常のアプリとして動かすと、どうしても着信の問題が起きます。そこで我々はコアアプリとしてつくり、回線の帯域自体も別に取ることで、二重、三重の対策をしています。

―― LTEについては、今後提供される予定はあるのでしょうか。

石田氏 チップ自体はありますし、(PandAのチップセットを開発する)メディアテックのような会社も統合チップのロードマップは出しています。バッテリーとのバランスを考えると、そこの省電力化が進めばやるかもしれないという答えになります。

―― 今でもQualcommのチップはありますが、やはりそれだとコストに見合わないということでしょうか。

石田氏 コストはすごく大きなポイントです。ただ、LTEにしてほしい一番の部分は、遅延が少ないというところだと思います。この部分に関しては、ブラウジングについてはネットワークとクラウドを工夫することで、通常より速くしています。

 また、ここはメディアに伝える難しさでもありますが、我々の回線は250kbpsや300kbpsと言っても、相当上の方で可変させています。このぐらいの速度で遅いと感じるのは、パケットの再送が4割ぐらいあるからで、この部分を丁寧に外していくとかなり速度が変わります。

 最近のアプリはいろいろなものがSSLになっているので、中のプロトコルが分かりません。分かるのはポート番号と行き先だけです。東大(東京大学大学院情報学環)と連携してやっていること(関連リンク)ですが、そこにセマンティックスイッチというものを入れ、端末側でタグ付けをしてルーターに情報を持っていき、どのアプリがどのくらいのトラフィックを使っているかを分かるようにしています。それを解析して、全体の中で最適配置をする。立ち上がっているアプリによってハイスピードにしたり、普通の速度に戻したりといったことをしています。これは、PandAを自社で作っているからできることですね。

―― お話を聞いていると、3年間でシェア1%、100万から120万契約という目標が、やや現実的かなとも感じました。ここまでやっているのであれば、もっと大きな数字を掲げてしまってもよかったのではないでしょうか。

石田氏 いやいやいや、100万台も売るのは思われているより大変ですよ(笑)。代理店も使わず、流通網から自社でやっているので。また、今はメディアの方も取り上げる風潮になっていますが、長い目で見るとこれは神風のようなものです。ブランドや流通網はきちんと作らなければいけないですし、神風が吹いている間に、時間がかかることをきちんとやっていくことが重要だと思っています。

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