モノとクラウドがSIMでつながる――誰もがMVNOになれる可能性を秘めた「SORACOM Air」:MVNOに聞く(1/3 ページ)

» 2015年12月07日 06時00分 公開
[石野純也,ITmedia]

 設備投資がかからず、手軽に始められるといわれるMVNOだが、交換機などを購入するには、やはりそれなりの元手が必要となる。特にMNOと相互接続を直接しようとすると、それなりの資金に加え、技術や経験も必要になる。ところが、ベンチャー企業のソラコムは、これらの設備を全て、AmazonのクラウドサービスであるAWS(Amazon Web Services)上に構築。それをプラットフォーム化し、ユーザーに開放した。

SORACOM AirSORACOM Air SORACOM Airのパッケージ(写真=左)とSIMカード(写真=右)

 それが、「SORACOM Air」だ。同社のサービスを利用すると、SIMカードの開通、休止から、速度の制限まで、通常であればMVNOが運用するようなことを、ユーザーが自ら行える。APIも公開されているため、複数のSIMカードをバッチで処理するといった使い方も可能だ。こうした処理を、全てWeb上で行えるのが、SORACOM Airが画期的なところだ。

 同社では、このサービスをIoT向けと位置付けており、既にさまざまな機器への導入が始まっている。速度は、上下ともに最大2Mbps。この速度はユーザーが自ら調整でき、速度と時間帯の掛け算によって、料金が算出される。人間が使うスマホ向けではないため、最大速度は抑えめだが、設定する速度や使う時間によっては、維持費を安く抑えることが可能だ。これも、SORACOM AirがIoT向けたるゆえんだ。

 いわゆる「格安SIM」と呼ばれるサービスとは目指すものが異なるソラコムだが、一体どのような経緯でMVNOへの参入を決めたのか。事業を開始したいきさつや、SORACOM Airの仕組み、今後の展開などを、代表取締役社長の玉川憲氏に聞いた。

AWSがあれば、初期投資なしで大企業レベルのクラウドが使える

ソラコム 玉川憲氏 ソラコムの玉川憲氏

―― まずは、なぜソラコムを始めたのかというところから教えてください。玉川さんは、AmazonでAWSを担当されていたとのことですが、そこからMVNOを始めるまでにどのようなお考えがあったのでしょうか。

玉川氏 前職はAmazonで、AWSの日本事業の立ち上げをやってきました。そこで、クラウドの進歩を目の当たりにしています。クラウド以前だと、新しくインターネットのサービスを始めようとする会社は、まずサーバを購入しなければなりませんでした。そこには規模に応じてコストが掛かり、500万だったり、6000万だったりといったお金が必要になります。人員も集めて、本来作りたかったアプリケーションを開発すると、1年半ぐらいかかってしまう。その間に、競合が出てくるかもしれないというリスクがありました。

 ところが、AWSがあれば、初期投資しなくても、大企業にしか使えなかった安全なクラウドをすぐに使えます。スタートアップはアイデアがあれば、すぐに作って、世に問うことができるのです。これは、新規事業において、失敗を減らすことにもつながります。AWSの売り上げは今や年間1兆円ぐらいの規模になりました。

SORACOM Air MNO相互接続環境をAWS上に構築した「SORACOM Air」

 一方で、モノの方を見ても、iPhoneに始まり、タブレットやスマートウォッチ、それにドローンや「Raspberry Pi」(基板のみの小型PC)のようなものまで出てきて、プロトタイプを作るコストがどんどん下がっています。ハードウェアの民主化といったらいいのでしょうか。モノ側もコモディティ化したことで、誰もが参入できるようになりました。

 このモノとクラウドをつなぐといろいろなことが起きます。例えば、「Safecast」というプロジェクトでは、放射線のオープンデータを公開しています。このNPOは、政府が出しているデータではなく、自分たちで信頼できるデータを作るということで、ガイガーカウンターをばらまいています。センサーにはSIMが入っていて、これを自転車や車につけ、信頼性に足るオープンデータが上がってくる。これも、まさにIoTの形の1つですが、こういうことがどんどんできるようになってきました。

 ただ、IoTをきちんとやろうとすると、いろいろな障害があります。電力供給、ネット接続、セキュリティなどで、こういうことが解決されないと、2020年に500億台のデバイスがインターネットにつながるという予測が、どんどん遠くなってしまいます。このネット接続は、勘違いされているところがあります。有線LANがある場所は限られていますし、Wi-Fiもセキュリティの課題があり、SSIDとパスワードの設定も意外と難しい。自分は、インターネットにつないでクラウドを使う本命が、モバイル通信だと考えています。

 とはいっても、成り立ち上、モバイル通信は人に向けて作られたもので、電話からデータ通信に進化してきました。価格にしても、契約期間にしても、機能にしても、モノをつなぐことを考えて作っていません。

SIMカードの売買だけでは、イノベーションを差し込む余地がない

―― それを提供しようと思い、ソラコムを立ち上げたということですね。他社との違いはどこにあるのかを教えてください。

玉川氏 いわゆるMVNOは、基地局などの設備を持たず、SIMカードを仕入れて売るというのが一番単純な形態です。これは、ブランドや販売網があれば成り立ちます。ただ、僕らにはそこはない。SIMカードを買って売ってでは、イノベーションを差し込む余地がありません。

 もう少し突っ込んで、レイヤー2接続でやるという方法もあります。IIJさんや日本通信さんも、まさにこのやり方をしています。ただ、われわれもいろいろと調べたのですが、このやり方だとどうしても最低で25億円スタートになってしまいます。もちろんいいところもあって、1枚1枚のSIMカードに対し、フレキシブルに料金体系が作れる。レイヤー2接続の方が柔軟性があるということです。

SORACOM Air SORACOM Airの料金体系

 そこで、われわれは他社とは違うアプローチで、レイヤー2接続を、AWSのクラウド上につなげました。帯域制御も、顧客管理も、課金システムも、全てクラウド上に作っています。これだと、25億円もかからず、エンジニアリングコストがほとんどになります。また、「50万回線目指します」と言って設備を作ると、これくらいのデータセンターで、これくらいのハードを入れてとなり、スタートの時点では全部を使い切れません。クラウドだと、最小限の構成から始められるので、コストの無駄がないという違いがあります。

 また、モノのことを最初から考えているのも大きな違いです。今までの交換機などのハードウェアは、基本的に人向けで、1つの端末をできるだけ速く通信する方向に進化してきました。一方で、モノ向けは、どちらかといえば、たくさんの数がデータを流さずに常時つながります。そういったものを的確にサポートするのが、われわれの使命だと考えています。

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